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27:ラグダンからの招待状
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「アリシア、ラグダン家から家に招待したいと手紙が届いていたよ」
父ジークがアリシアへ手紙を持ってくる。
「それで、本題は?」
婚約者の家に遊びに来てくれというだけの内容ならば、わざわざ当主が持って来ずともメイドかフットマンにでも任せておけばいいのだ。
「ラグダン家から、ジュリウス君を我が家で預かって欲しいと打診がきたんだ」
「ジュリを?」
「ああ、医師に生活場所を移した方が良いと提案されたらしい。その事について話を詰めにいくのと、先日の事件でアリシアに挨拶が出来なかったから、謝罪と感謝のために会いたいんだそうだ」
「私はかまいませんよ。ジュリのご家族に会えるのは、純粋に嬉しいですから」
アリシアの返答にジークは頷いて準備をするようにと退室していった。
◇ ◇ ◇
「ようこそ、ラグダン家へ」
ラグダン家を訪れた二人を全員が迎え入れる。
「アンナ、アリシア様を頼んだ。ジーク殿、応接室へ参りましょう」
「アリシア、ご迷惑をおかけしないように」
当主二人が応接室に向かったのを確認すると、アンナが声をかけてくる。
「アリシア様、お久しぶりです。ジュリウスの母アンナです。こちらが長男のヴァイス、その隣が次男のユーリです」
「初めまして、ヴァイス・ラグダンです。前回のパーティーではご挨拶が出来なかったので、お会いできるのを楽しみにしていました」
「ユーリです、よろしく」
ヴァイスは快活に、ユーリは言葉少なに挨拶をした。
「アリシア・マクミランです。先日はご挨拶も出来ずに、申し訳ありません。私もお会いしたかったですわ」
余所行き用の猫を被ったアリシアに、ジュリウスはくすりと笑うと側に寄ってきた。
「アリシア様、まずはお茶にしませんか? 僕、シフォンケーキを作れるようになったんですよ」
「シフォンケーキを? それは、楽しみですね」
兄二人は、ジュリウスが菓子作りを嗜んでいるのを知らなかったようで、瞠若していた。
アンナは二人を微笑ましそうに見つめ、アリシアをサロンへと案内する。二人の兄は、三人が歩き出して暫くしてから我に返り、急いで後を追うのだった。
「最近、やっとシフォンケーキが作れたんです! どうやっても、ぎっしりと重たいものしか出来なかったんですけど。ふわふわって事は、空気がたっぷり入ってるんじゃないかって思って。卵白を泡立てて混ぜ込んだりして、どうにか形になったんです」
アリシアの目の前にシフォンケーキが出される。フォークで一匙すくって口に運ぶ。
「ん、ふわふわ! 甘さも控えめで美味しいな」
「栗で作ったバタークリームもどうぞ。小さく砕いた甘露煮を入れてあります。甘露煮の甘さだけで作ったので、アリー様でも食べやすいと思います」
続きを食べようとしていたアリシアが手を止め、ちょいちょいと隣に座っているジュリウスを手招きする。
「…………?」
アリシアは、素直に近寄って来たジュリウスの耳に、内緒話をするように口元を寄せる。
「……アリー様じゃなくて、アリシア。だろう?」
「な! ち、ちが!」
体中を真っ赤にして、ジュリウスは何やら抗議の声を上げようとしている。しかし、「あの」だの「ま、まって」と言うばかりで文章にはならなかった。
「尻に敷かれてんな」
「兄上」
耳が良い兄弟には話の内容がしっかりと聞こえており、狼狽してばかりの弟と、楽しそうにする婚約者の力関係に、ヴァイスは思わず小声で口を挟んだ。
ユーリも似たようなことを思っていたが、長兄ほど考えなしに口を出す性格ではないため、黙っていろと窘めている。
仲睦まじい二人を、アンナだけが微笑ましいものを見るように見つめていた。
「ふふっ、二人は本当に仲が良いのね。ジュリウス、アリシア様に屋敷や庭をご案内して差しあげたらどうかしら」
「おお、それは良いな! ジュリウス、頼んだぞ」
純粋な厚意であるアンナとは違い、ヴァイスの方は、ジュリウスへとアイコンタクトをしている。
(ジュリウス、後でアリシア様を訓練場に連れて来いよ。お前が連れて来れないなら、騎士たちが訓練しているとにおわせて、場所を教えるんだ)
(ええー、僕がですか? そりゃアリー様は嫌がらないと思うけど)
(頼んだぞ)
長男と三男が目だけで会話しているのを、次男だけが呆れたように見つめていた。
父ジークがアリシアへ手紙を持ってくる。
「それで、本題は?」
婚約者の家に遊びに来てくれというだけの内容ならば、わざわざ当主が持って来ずともメイドかフットマンにでも任せておけばいいのだ。
「ラグダン家から、ジュリウス君を我が家で預かって欲しいと打診がきたんだ」
「ジュリを?」
「ああ、医師に生活場所を移した方が良いと提案されたらしい。その事について話を詰めにいくのと、先日の事件でアリシアに挨拶が出来なかったから、謝罪と感謝のために会いたいんだそうだ」
「私はかまいませんよ。ジュリのご家族に会えるのは、純粋に嬉しいですから」
アリシアの返答にジークは頷いて準備をするようにと退室していった。
◇ ◇ ◇
「ようこそ、ラグダン家へ」
ラグダン家を訪れた二人を全員が迎え入れる。
「アンナ、アリシア様を頼んだ。ジーク殿、応接室へ参りましょう」
「アリシア、ご迷惑をおかけしないように」
当主二人が応接室に向かったのを確認すると、アンナが声をかけてくる。
「アリシア様、お久しぶりです。ジュリウスの母アンナです。こちらが長男のヴァイス、その隣が次男のユーリです」
「初めまして、ヴァイス・ラグダンです。前回のパーティーではご挨拶が出来なかったので、お会いできるのを楽しみにしていました」
「ユーリです、よろしく」
ヴァイスは快活に、ユーリは言葉少なに挨拶をした。
「アリシア・マクミランです。先日はご挨拶も出来ずに、申し訳ありません。私もお会いしたかったですわ」
余所行き用の猫を被ったアリシアに、ジュリウスはくすりと笑うと側に寄ってきた。
「アリシア様、まずはお茶にしませんか? 僕、シフォンケーキを作れるようになったんですよ」
「シフォンケーキを? それは、楽しみですね」
兄二人は、ジュリウスが菓子作りを嗜んでいるのを知らなかったようで、瞠若していた。
アンナは二人を微笑ましそうに見つめ、アリシアをサロンへと案内する。二人の兄は、三人が歩き出して暫くしてから我に返り、急いで後を追うのだった。
「最近、やっとシフォンケーキが作れたんです! どうやっても、ぎっしりと重たいものしか出来なかったんですけど。ふわふわって事は、空気がたっぷり入ってるんじゃないかって思って。卵白を泡立てて混ぜ込んだりして、どうにか形になったんです」
アリシアの目の前にシフォンケーキが出される。フォークで一匙すくって口に運ぶ。
「ん、ふわふわ! 甘さも控えめで美味しいな」
「栗で作ったバタークリームもどうぞ。小さく砕いた甘露煮を入れてあります。甘露煮の甘さだけで作ったので、アリー様でも食べやすいと思います」
続きを食べようとしていたアリシアが手を止め、ちょいちょいと隣に座っているジュリウスを手招きする。
「…………?」
アリシアは、素直に近寄って来たジュリウスの耳に、内緒話をするように口元を寄せる。
「……アリー様じゃなくて、アリシア。だろう?」
「な! ち、ちが!」
体中を真っ赤にして、ジュリウスは何やら抗議の声を上げようとしている。しかし、「あの」だの「ま、まって」と言うばかりで文章にはならなかった。
「尻に敷かれてんな」
「兄上」
耳が良い兄弟には話の内容がしっかりと聞こえており、狼狽してばかりの弟と、楽しそうにする婚約者の力関係に、ヴァイスは思わず小声で口を挟んだ。
ユーリも似たようなことを思っていたが、長兄ほど考えなしに口を出す性格ではないため、黙っていろと窘めている。
仲睦まじい二人を、アンナだけが微笑ましいものを見るように見つめていた。
「ふふっ、二人は本当に仲が良いのね。ジュリウス、アリシア様に屋敷や庭をご案内して差しあげたらどうかしら」
「おお、それは良いな! ジュリウス、頼んだぞ」
純粋な厚意であるアンナとは違い、ヴァイスの方は、ジュリウスへとアイコンタクトをしている。
(ジュリウス、後でアリシア様を訓練場に連れて来いよ。お前が連れて来れないなら、騎士たちが訓練しているとにおわせて、場所を教えるんだ)
(ええー、僕がですか? そりゃアリー様は嫌がらないと思うけど)
(頼んだぞ)
長男と三男が目だけで会話しているのを、次男だけが呆れたように見つめていた。
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