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第5部
みつの日記4
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王都の西門の方向から魔獣の群れが来ているらしい。
たくさんの人たちが急いで南門や王城の方に向かっていて、西門を目指すのはわたしたちだけだった。
エーリクたち4人の護衛騎士と、他にも神殿騎士たちが10人ほど、それに上位神官の人たち、神官の人たち、結構大人数が一緒に来てくれた。
「みつ様だけ、違う。われらも一緒。われら愛し子様を敬う」
上位神官のご老人が優しい顔で言ってくれた。
「神殿の者たちは愛し子と一緒なら死も畏れないのだな」
スーザーはどこか誇らしそうだった。
わたしは、神殿の人たちも、王都の人たちも誰も死なせたくない。バールス先生が黒痣病の特効薬を見つけてくださったんだもの。病気が治る前に誰も魔獣で死なせない。
王都の周りは背の高い頑丈な壁で囲まれていて、壁には魔獣除けが仕込まれているらしい。門だけはそれがないから、魔獣は自然と門に向かってくるそうだ。
わたしは西門を真正面に見据える場所に立った。遠くから何か聞こえた、と思ったら、それは次第に大きくなり地響きになった。
「気を付けて、みつ」
スーザーが言うのと同時に魔獣たちの姿が見えて来た。先頭の魔獣を中心に扇子型に広がっているみたいだった。
エーリクたちが私の前に立ちはだかる。でもわたしはエーリクたちも護る。
心をしずめて、だれも傷つけたくないという気持ちをこめて礼をする。2回礼をして、息を吸いながら両手を広げ、そこで息をとめて柏手を打つ。
高音の音がいつもより遠くまで響くのを感じた。先頭の魔獣の動きが止まる。そこに後続の魔獣がぶつかってとまり、それにまた後続の魔獣がぶつかる。
もう一度柏手を打つ。パリーンと、薄い何かが割れるような音がしたかと思うと、魔獣の群れは消えていた。
そのあとの記憶がなくて、気が付いたら神殿の自分の部屋で寝ていた。目を開けるとスーザーがいた。
「あなた、3日も寝てたのよ」
呆れた顔でスーザーは言ったが、声が震えていた。
「どうりで頭が痛いと思ったわ。寝すぎね」
「何のんきなことを言ってるのよ。あれだけの魔獣を消したからよ」
「王都は無事?」
「門や建物に多少の破損はあったけど、無事よ。王は自分が設置した王都の防護壁の魔道具のおかげだ、って言ってるわ。神殿はみつが王都を救ったって反論してるけど、王城は確認していないって……悔しい」
王も、みつに何もしてやれない自分も、悔しい、とスーザーは言った。
「わたしは、スーザーが怒ってくれてるだけで十分よ」
ふふふ、と笑うと、スーザーも悲しそうな顔で笑ってくれた。そのあとで神官たちやマリアやエーリクたちがきて、泣いていた。
本当に心配させたんだな、と申し訳ない気持ちになったけど、泣くくらい心配してくれる人たちがいることがとても幸せだった。
バールス先生の特効薬が完成した。
まだたくさんは作られていないけれど、手分けして状況の悪い村から配ることになった。わたしもエーリクたちと一緒にモンパレ村に配りに行くことになった。
わたしとエーリクが馬車に乗り、リーヌスとザシャ、クオトが馬で馬車の周りを護衛して村にいった。
モンパレ村の入り口で馬車を降りたわたしは、特効薬の分包の入った籠をエーリクに渡した。本当は自分の手で渡したい。でも、きっと受け取ってもらえない。薬を服用してもらわないと何の意味もない。だからエーリクに薬を託した。
エーリクは申し訳ない顔で頷くと、村長の家に向かった。リーヌスたちがお詫びの言葉を口にしながら頭を下げた。自分たちの国の者が無礼を働いていることを申し訳ないと思っているのだろう。
「いいの? 本当はみつが持っていくつもりだったんでしょう?」
「……ここに来たら怖気づいちゃった。でも、私が持って行かないほうが村人も受け入れてくれるはずだから」
けれど、エーリクは全身から怒りの気配を発しながら戻ってきた。手には薬の入った籠があった。分包はあまり減っていなかった。
「特効薬ができたことを信じてもらえなかったと言っている。本当に特効薬ができたなら王城の使いが持って来るはずだ、と。この前の魔獣も撃退したのは城壁のおかげで、愛し子は何もしていないじゃないかと。魔獣を撃退したのは愛し子様だと言って、特効薬をいくつか強引に置いてきた」
エーリクの言葉をスーザーが伝えてくれた。
わたしは、魔獣を撃退したのがわたしでも国王でも、どっちでもいいと思っている。でも薬は飲んでほしい。命を落とす人が少しでも減ってほしい。苦痛に苛まれる人が少しでも減ってほしい。
「明日出直すわ。毎日でも、受け取ってくれるまでがんばるね」
わたしがそう言うと、スーザーもエーリク達も歯を食いしばって耐えているようだった。
今日もモンパレの村に行った。今日はわたしもエーリクと一緒に村長の家に行った。
病人がいるから家の中には入れてもらえなかった。村長が何か言った。エーリクが怖い顔で腰に差した剣に手を伸ばそうとしたから、きっとひどいことを言われたんだと思う。わたしはまだ言葉がよくわからないけど、スーザーもとても怒っていた。
わたしはエーリクの手を握り、村長に頭を下げた。村長はすぐに家の戸を閉めた。まだ怒っているエーリクの手を引っ張って、待たせているリーヌスたちのもとに戻った。二度とここには来ない、とエーリクはリーヌスたちに話していた。
わたしは道理に合わないことには慣れてるし、叩かれることにも慣れている。村長にも手をあげられないだけまだいいと思ってるから大丈夫なんだけど。
エーリクたちには内緒で、また明日出直そう。
そこでみつの日記は終わっていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいねで応援いただき、ありがとうございます。
みつの日記はこれで終わりです。
たくさんの人たちが急いで南門や王城の方に向かっていて、西門を目指すのはわたしたちだけだった。
エーリクたち4人の護衛騎士と、他にも神殿騎士たちが10人ほど、それに上位神官の人たち、神官の人たち、結構大人数が一緒に来てくれた。
「みつ様だけ、違う。われらも一緒。われら愛し子様を敬う」
上位神官のご老人が優しい顔で言ってくれた。
「神殿の者たちは愛し子と一緒なら死も畏れないのだな」
スーザーはどこか誇らしそうだった。
わたしは、神殿の人たちも、王都の人たちも誰も死なせたくない。バールス先生が黒痣病の特効薬を見つけてくださったんだもの。病気が治る前に誰も魔獣で死なせない。
王都の周りは背の高い頑丈な壁で囲まれていて、壁には魔獣除けが仕込まれているらしい。門だけはそれがないから、魔獣は自然と門に向かってくるそうだ。
わたしは西門を真正面に見据える場所に立った。遠くから何か聞こえた、と思ったら、それは次第に大きくなり地響きになった。
「気を付けて、みつ」
スーザーが言うのと同時に魔獣たちの姿が見えて来た。先頭の魔獣を中心に扇子型に広がっているみたいだった。
エーリクたちが私の前に立ちはだかる。でもわたしはエーリクたちも護る。
心をしずめて、だれも傷つけたくないという気持ちをこめて礼をする。2回礼をして、息を吸いながら両手を広げ、そこで息をとめて柏手を打つ。
高音の音がいつもより遠くまで響くのを感じた。先頭の魔獣の動きが止まる。そこに後続の魔獣がぶつかってとまり、それにまた後続の魔獣がぶつかる。
もう一度柏手を打つ。パリーンと、薄い何かが割れるような音がしたかと思うと、魔獣の群れは消えていた。
そのあとの記憶がなくて、気が付いたら神殿の自分の部屋で寝ていた。目を開けるとスーザーがいた。
「あなた、3日も寝てたのよ」
呆れた顔でスーザーは言ったが、声が震えていた。
「どうりで頭が痛いと思ったわ。寝すぎね」
「何のんきなことを言ってるのよ。あれだけの魔獣を消したからよ」
「王都は無事?」
「門や建物に多少の破損はあったけど、無事よ。王は自分が設置した王都の防護壁の魔道具のおかげだ、って言ってるわ。神殿はみつが王都を救ったって反論してるけど、王城は確認していないって……悔しい」
王も、みつに何もしてやれない自分も、悔しい、とスーザーは言った。
「わたしは、スーザーが怒ってくれてるだけで十分よ」
ふふふ、と笑うと、スーザーも悲しそうな顔で笑ってくれた。そのあとで神官たちやマリアやエーリクたちがきて、泣いていた。
本当に心配させたんだな、と申し訳ない気持ちになったけど、泣くくらい心配してくれる人たちがいることがとても幸せだった。
バールス先生の特効薬が完成した。
まだたくさんは作られていないけれど、手分けして状況の悪い村から配ることになった。わたしもエーリクたちと一緒にモンパレ村に配りに行くことになった。
わたしとエーリクが馬車に乗り、リーヌスとザシャ、クオトが馬で馬車の周りを護衛して村にいった。
モンパレ村の入り口で馬車を降りたわたしは、特効薬の分包の入った籠をエーリクに渡した。本当は自分の手で渡したい。でも、きっと受け取ってもらえない。薬を服用してもらわないと何の意味もない。だからエーリクに薬を託した。
エーリクは申し訳ない顔で頷くと、村長の家に向かった。リーヌスたちがお詫びの言葉を口にしながら頭を下げた。自分たちの国の者が無礼を働いていることを申し訳ないと思っているのだろう。
「いいの? 本当はみつが持っていくつもりだったんでしょう?」
「……ここに来たら怖気づいちゃった。でも、私が持って行かないほうが村人も受け入れてくれるはずだから」
けれど、エーリクは全身から怒りの気配を発しながら戻ってきた。手には薬の入った籠があった。分包はあまり減っていなかった。
「特効薬ができたことを信じてもらえなかったと言っている。本当に特効薬ができたなら王城の使いが持って来るはずだ、と。この前の魔獣も撃退したのは城壁のおかげで、愛し子は何もしていないじゃないかと。魔獣を撃退したのは愛し子様だと言って、特効薬をいくつか強引に置いてきた」
エーリクの言葉をスーザーが伝えてくれた。
わたしは、魔獣を撃退したのがわたしでも国王でも、どっちでもいいと思っている。でも薬は飲んでほしい。命を落とす人が少しでも減ってほしい。苦痛に苛まれる人が少しでも減ってほしい。
「明日出直すわ。毎日でも、受け取ってくれるまでがんばるね」
わたしがそう言うと、スーザーもエーリク達も歯を食いしばって耐えているようだった。
今日もモンパレの村に行った。今日はわたしもエーリクと一緒に村長の家に行った。
病人がいるから家の中には入れてもらえなかった。村長が何か言った。エーリクが怖い顔で腰に差した剣に手を伸ばそうとしたから、きっとひどいことを言われたんだと思う。わたしはまだ言葉がよくわからないけど、スーザーもとても怒っていた。
わたしはエーリクの手を握り、村長に頭を下げた。村長はすぐに家の戸を閉めた。まだ怒っているエーリクの手を引っ張って、待たせているリーヌスたちのもとに戻った。二度とここには来ない、とエーリクはリーヌスたちに話していた。
わたしは道理に合わないことには慣れてるし、叩かれることにも慣れている。村長にも手をあげられないだけまだいいと思ってるから大丈夫なんだけど。
エーリクたちには内緒で、また明日出直そう。
そこでみつの日記は終わっていた。
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