15 / 105
新しい土地には、何やら事情があるようです
ロイスナーでの暮らし 1
しおりを挟む
アマーリエとの再会を果たし、バルタザールの面前でベルンハルトと夫婦になる誓いを宣言し、結婚式はつつがなく執り行われた。
婚約披露よりも気分を悪くせずに済んだのは、アマーリエと会えたからか、この様に晒しものにされる場はもうこれで最後だからだろうか。
ベルンハルトが貴族たちの社交の場に参加することはほとんどない。それこそ一年に一度程度のものだ。
ロイスナーが王都から遠いこと。
冬場は雪で道が遮断され、領外へと出ることができないこと。
ベルンハルト自身にその気がないこと。
他にも取り繕った事情が山ほどあるだろうけど、ベルンハルトにその気がない、それが最も有力な事情だろう。
貴族たちからのあんな視線と会話の中へ、誰が好んで出かけて行くものか、リーゼロッテは婚約披露と結婚式の二日間で嫌というほど思い知った。
ロイスナーへ行けば、リーゼロッテもあんな場に出て来ずに済むようになるだろうか、そんな期待をしながら、移動の日を待った。
ロイスナーへと移動する日は秋の匂いが更に濃くなり、吹き抜ける風に冷たさを感じるようになった頃。
ロイエンタール家からリーゼロッテを迎え入れる準備が整ったと、連絡を受けたすぐのことだ。
城の中庭に用意された馬車。その後ろに連なるのはいわゆる嫁入り道具たち。とはいえ、これまでリーゼロッテが身につけていたものがほとんどで、それ以外の必要なものについてはロイスナーの城で整えたらしい。
信用できる人間のいないリーゼロッテは侍女を連れることもなく、たった一人でロイスナーの城へ乗り込んで行った。
「リーゼロッテ様、お待ちしておりました」
ロイスナーへの旅路は馬車で三日。一人きりでの旅は確かに退屈だったけど、その分自分のペースで道中にある他領地を見ることができる。
移動することのできない夜間は、ロイスナーから迎えとしてやってきた御者や護衛と親交を深めて、それなりに楽しい旅路であった。
「お出迎え、ご苦労様です」
御者に手を添えられ、馬車から降りれば、王城に引けも取らない立派な城が目の前にそびえ立っている。
それにもかかわらず、リーゼロッテを迎えに出るのがたった一人というのは、その城の広さから鑑みても不自然である。
(どこの城でも一緒、ということね)
明らかな不自然さも、リーゼロッテにとっては自然なことで、そこに何の疑問も抱かない。出迎えの少ない帰城など、シュレンタットでは日常で、出迎えが無いよりマシだと開き直ってそびえ立つ城を見上げた。
「ベルンハルト様が中でお待ちです」
リーゼロッテのことを迎えに出てきた、執事だと思われる人物が、城を見ながら微動だにしないリーゼロッテへ声をかける。
「少しお待ちいただければ、ふさわしいものに着替えてきますが」
リーゼロッテは移動のために、作りの簡単なものを着ていた。
先に部屋に通してもらい、それなりのものへと替えるべきだと話をするが、執事はその首を左右へと振る。
「ベルンハルト様が、リーゼロッテ様がお着き次第通す様にと仰っています。先に、ご挨拶をお願い致します」
執事の口調は丁寧で、それでいて断ることのできない圧力を感じる。シュレンタットの執事の中にも、バルタザールが何も言わないことをいいことに、リーゼロッテに対し高圧的な態度を取る者がいたが、それとはまた違う。
「わかりました。それではこのままで」
「こちらへどうぞ」
執事の案内に従って、城の中へ向かって歩く。
途中横切る中庭は、手入れが行き届いていて、花を好きだと言っていたベルンハルトの城らしさを感じた。
「心地のよいお庭ですね」
リーゼロッテを先導するように、数歩先を歩く執事の背中に話しかける。その背中が緊張したように動きを止め、執事がリーゼロッテを振り返った。
「それは良かったです。庭師も光栄に思うでしょう」
「ロイエンタール伯爵もお好きですものね」
「ベルンハルト様が? 何を?」
「何をって、お花ですよね?」
「そ、そのようなことは聞いたことございませんが」
「え? だ、だって城の温室でも、あんなに……」
リーゼロッテの言葉に、執事の顔がどんどん驚きを深めていく。
そして再び前を向き、また城へ向かって歩き始めた。その歩調は先程までとは違い、人を案内するスピードではない。徐々に早くなっていく速度に、リーゼロッテは必死に着いていくしかなかった。
婚約披露よりも気分を悪くせずに済んだのは、アマーリエと会えたからか、この様に晒しものにされる場はもうこれで最後だからだろうか。
ベルンハルトが貴族たちの社交の場に参加することはほとんどない。それこそ一年に一度程度のものだ。
ロイスナーが王都から遠いこと。
冬場は雪で道が遮断され、領外へと出ることができないこと。
ベルンハルト自身にその気がないこと。
他にも取り繕った事情が山ほどあるだろうけど、ベルンハルトにその気がない、それが最も有力な事情だろう。
貴族たちからのあんな視線と会話の中へ、誰が好んで出かけて行くものか、リーゼロッテは婚約披露と結婚式の二日間で嫌というほど思い知った。
ロイスナーへ行けば、リーゼロッテもあんな場に出て来ずに済むようになるだろうか、そんな期待をしながら、移動の日を待った。
ロイスナーへと移動する日は秋の匂いが更に濃くなり、吹き抜ける風に冷たさを感じるようになった頃。
ロイエンタール家からリーゼロッテを迎え入れる準備が整ったと、連絡を受けたすぐのことだ。
城の中庭に用意された馬車。その後ろに連なるのはいわゆる嫁入り道具たち。とはいえ、これまでリーゼロッテが身につけていたものがほとんどで、それ以外の必要なものについてはロイスナーの城で整えたらしい。
信用できる人間のいないリーゼロッテは侍女を連れることもなく、たった一人でロイスナーの城へ乗り込んで行った。
「リーゼロッテ様、お待ちしておりました」
ロイスナーへの旅路は馬車で三日。一人きりでの旅は確かに退屈だったけど、その分自分のペースで道中にある他領地を見ることができる。
移動することのできない夜間は、ロイスナーから迎えとしてやってきた御者や護衛と親交を深めて、それなりに楽しい旅路であった。
「お出迎え、ご苦労様です」
御者に手を添えられ、馬車から降りれば、王城に引けも取らない立派な城が目の前にそびえ立っている。
それにもかかわらず、リーゼロッテを迎えに出るのがたった一人というのは、その城の広さから鑑みても不自然である。
(どこの城でも一緒、ということね)
明らかな不自然さも、リーゼロッテにとっては自然なことで、そこに何の疑問も抱かない。出迎えの少ない帰城など、シュレンタットでは日常で、出迎えが無いよりマシだと開き直ってそびえ立つ城を見上げた。
「ベルンハルト様が中でお待ちです」
リーゼロッテのことを迎えに出てきた、執事だと思われる人物が、城を見ながら微動だにしないリーゼロッテへ声をかける。
「少しお待ちいただければ、ふさわしいものに着替えてきますが」
リーゼロッテは移動のために、作りの簡単なものを着ていた。
先に部屋に通してもらい、それなりのものへと替えるべきだと話をするが、執事はその首を左右へと振る。
「ベルンハルト様が、リーゼロッテ様がお着き次第通す様にと仰っています。先に、ご挨拶をお願い致します」
執事の口調は丁寧で、それでいて断ることのできない圧力を感じる。シュレンタットの執事の中にも、バルタザールが何も言わないことをいいことに、リーゼロッテに対し高圧的な態度を取る者がいたが、それとはまた違う。
「わかりました。それではこのままで」
「こちらへどうぞ」
執事の案内に従って、城の中へ向かって歩く。
途中横切る中庭は、手入れが行き届いていて、花を好きだと言っていたベルンハルトの城らしさを感じた。
「心地のよいお庭ですね」
リーゼロッテを先導するように、数歩先を歩く執事の背中に話しかける。その背中が緊張したように動きを止め、執事がリーゼロッテを振り返った。
「それは良かったです。庭師も光栄に思うでしょう」
「ロイエンタール伯爵もお好きですものね」
「ベルンハルト様が? 何を?」
「何をって、お花ですよね?」
「そ、そのようなことは聞いたことございませんが」
「え? だ、だって城の温室でも、あんなに……」
リーゼロッテの言葉に、執事の顔がどんどん驚きを深めていく。
そして再び前を向き、また城へ向かって歩き始めた。その歩調は先程までとは違い、人を案内するスピードではない。徐々に早くなっていく速度に、リーゼロッテは必死に着いていくしかなかった。
52
あなたにおすすめの小説
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。
まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。
泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。
それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ!
【手直しての再掲載です】
いつも通り、ふんわり設定です。
いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*)
Copyright©︎2022-まるねこ
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる