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魔法が使えたって
リーゼロッテの魔法 4
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「リーゼロッテ!」
突然頭上から聞き慣れた声が降り注いだ。
リーゼロッテは急いで立ち上がり、その声の先へと顔を向ければ、先程飛び立った一頭の龍が背中にベルンハルトを乗せていた。
「ベルンハルト様……っ」
クラウスと呼ばれた龍の背中にその姿を見れば、レティシアから聞かされた話を思い出し、その顔を直視できなくなった。
「リーゼロッテ、大丈夫だったか?」
クラウスの背中から降り立ったベルンハルトが、リーゼロッテに向かって歩いてくるのがわかっていても、その顔を見ることができずに下を向く。
ベルンハルトの声を聞くだけで、これまでリーゼロッテに贈られた数々の言葉が、次々と思い出された。赤くなった顔を見られるというのは、どこか気恥ずかしくて、顔をあげることができない。
ベルンハルトの声に、首を縦に振って応え、声を出すこともできなかった。
「レティシア、これは一体……」
リーゼロッテの様子を問い詰めることもなく、ベルンハルトは会話の相手をレティシアへと変えた。
「凄いでしょ。リーゼロッテが作り出したのよ。布袋、持ってきてくれた?」
「あ、あぁ。袋は持ってきたが……この魔力石を?」
「そう。リーゼロッテは土属性の魔法を使うの」
「土? それは何だ?」
「まさか、ベルンハルトも知らないの?」
「あぁ。そのような魔法があるのか?」
「はぁ。これだから人間は……」
レティシアが呆れた口調に、ため息まで吐いた。
「す、すまぬ」
「ベルンハルトのせいじゃないわ。必要ないものは忘れ去られていくものよ」
「悪いが、教えてくれないか?」
「もちろん。土属性の魔法っていうのはね――」
レティシアは、リーゼロッテに教えた話と同じものをベルンハルトにも話した。そして、試しにリーゼロッテに魔法を使わせてみたこと、その魔力が強大であったこと、いくつもの魔力石が土の中から取り出されたことも。
「それが、この魔力石か」
ベルンハルトは地面に転がっている魔力石を一つ手に取ると、その手触りを確かめるように手の上で弄んだ。
その大きさは、数ヶ月前に三日間かけて魔力を注いだ、あの魔力石とほぼ同じ大きさで、その時もこうして握り込んでいたと、懐かしく感じる。
「リーゼロッテがイメージした魔力石は、貴方から贈られたものみたいよ。苦労して染めた甲斐、あったわね」
ベルンハルトが魔力石に意識を囚われていると、レティシアが耳元でそう囁いた。
「な、何故っ」
「そんなこと、聞かなくたってわかるわ。さっ、早く城に戻りましょ」
レティシアはそう言うと、ベルンハルトの持ってきた布袋を取り上げ、地面の魔力石を一つずつ集めていく。
レティシアの様子を見て、クラウスも同じように拾い集め、それを見たベルンハルトとリーゼロッテが慌てて続く。
小さな魔力石を集めるのはそれなりに時間が必要で、終わった頃にはレティシアが「リーゼロッテ、次はもう少し大きいものにしてちょうだい」と顔色に疲労感を滲ませた。
森から帰る時まで、レティシアはリーゼロッテを背中に乗せてくれ、最初の約束通り無事に城へと送り届けてくれた。
これまでのことが嘘のようにレティシアが親しく、『リーゼロッテ』と呼びかけてくれるのが嬉しくて、仲良くなれたことに心が弾む。
「今日はこれで帰るわ。長の件もまた改めて報告に来るわね」
そう言って飛び立ってしまったときには、寂しさが広がった。
「リーゼロッテ、これは貴女が持っていればいい」
レティシアに送り届けられた城の中庭で、ヘルムートが用意したお茶を前に、ベルンハルトが魔力石の入った袋をリーゼロッテへと押し付けた。
「いえ。これは、この城で使ってください」
ベルンハルトから渡された袋には、小さいながらもたくさんの魔力石が入っている。
リーゼロッテが人生で初めて使った魔法。その結果として手に入れたものだとしたら、これまでお世話になった城で使ってほしい。
「この城にはまだたくさんの魔力石が保管されている。必要ない」
ベルンハルトから突きつけられた言葉は、魔法が使えたことに浮かれていたリーゼロッテの心を、急激に冷した。
「ベルンハルト様っ」
二人の会話を聞いていたヘルムートが、ベルンハルトを諌めようと声をあげるが、ベルンハルトはその声にも反応せずに席を立つ。
そしてそのまま、城の中へと戻って行ってしまったのだ。
「どう、して……」
ベルンハルトの態度が理解できずに、リーゼロッテは魔力石を前に大粒の涙を流す。
やっと役に立てるはずだった。
ベルンハルトには必要のないものだとはわかっていても、城の中で使うことができるだろうと、少しでも恩返しができると思っていた。
自分がこの城にいる価値を、少しでも見出だせると思っていたのに。
「奥様。ベルンハルト様も突然のことで驚かれているのかもしれません。代わりにお詫び申し上げます」
「いいえ。大丈夫です。こんなこと、慣れているもの」
ベルンハルトの冷たい態度は、今に始まったことじゃない。ロイスナーへ来て、つれない態度のベルンハルトを見ることは、普通のことだったはずだ。
「また、前に戻っただけのことよ。気にすることないわ」
リーゼロッテは目元を拭い、席を立った。これ以上、この顔を晒すわけにはいかない。泣くならば、部屋で独りで。
「どちらへ?」
「部屋に戻ります。それは、ヘルムートさんの方で使って下さい。わたくしが持っていても、意味がないので」
魔力石は見なかったことにしよう。
魔法を使えた今日のことは忘れよう。
そうすれば、またベルンハルトはこちらを向いてくれるかもしれない。隣に座ってくれるかもしれないのだから。
突然頭上から聞き慣れた声が降り注いだ。
リーゼロッテは急いで立ち上がり、その声の先へと顔を向ければ、先程飛び立った一頭の龍が背中にベルンハルトを乗せていた。
「ベルンハルト様……っ」
クラウスと呼ばれた龍の背中にその姿を見れば、レティシアから聞かされた話を思い出し、その顔を直視できなくなった。
「リーゼロッテ、大丈夫だったか?」
クラウスの背中から降り立ったベルンハルトが、リーゼロッテに向かって歩いてくるのがわかっていても、その顔を見ることができずに下を向く。
ベルンハルトの声を聞くだけで、これまでリーゼロッテに贈られた数々の言葉が、次々と思い出された。赤くなった顔を見られるというのは、どこか気恥ずかしくて、顔をあげることができない。
ベルンハルトの声に、首を縦に振って応え、声を出すこともできなかった。
「レティシア、これは一体……」
リーゼロッテの様子を問い詰めることもなく、ベルンハルトは会話の相手をレティシアへと変えた。
「凄いでしょ。リーゼロッテが作り出したのよ。布袋、持ってきてくれた?」
「あ、あぁ。袋は持ってきたが……この魔力石を?」
「そう。リーゼロッテは土属性の魔法を使うの」
「土? それは何だ?」
「まさか、ベルンハルトも知らないの?」
「あぁ。そのような魔法があるのか?」
「はぁ。これだから人間は……」
レティシアが呆れた口調に、ため息まで吐いた。
「す、すまぬ」
「ベルンハルトのせいじゃないわ。必要ないものは忘れ去られていくものよ」
「悪いが、教えてくれないか?」
「もちろん。土属性の魔法っていうのはね――」
レティシアは、リーゼロッテに教えた話と同じものをベルンハルトにも話した。そして、試しにリーゼロッテに魔法を使わせてみたこと、その魔力が強大であったこと、いくつもの魔力石が土の中から取り出されたことも。
「それが、この魔力石か」
ベルンハルトは地面に転がっている魔力石を一つ手に取ると、その手触りを確かめるように手の上で弄んだ。
その大きさは、数ヶ月前に三日間かけて魔力を注いだ、あの魔力石とほぼ同じ大きさで、その時もこうして握り込んでいたと、懐かしく感じる。
「リーゼロッテがイメージした魔力石は、貴方から贈られたものみたいよ。苦労して染めた甲斐、あったわね」
ベルンハルトが魔力石に意識を囚われていると、レティシアが耳元でそう囁いた。
「な、何故っ」
「そんなこと、聞かなくたってわかるわ。さっ、早く城に戻りましょ」
レティシアはそう言うと、ベルンハルトの持ってきた布袋を取り上げ、地面の魔力石を一つずつ集めていく。
レティシアの様子を見て、クラウスも同じように拾い集め、それを見たベルンハルトとリーゼロッテが慌てて続く。
小さな魔力石を集めるのはそれなりに時間が必要で、終わった頃にはレティシアが「リーゼロッテ、次はもう少し大きいものにしてちょうだい」と顔色に疲労感を滲ませた。
森から帰る時まで、レティシアはリーゼロッテを背中に乗せてくれ、最初の約束通り無事に城へと送り届けてくれた。
これまでのことが嘘のようにレティシアが親しく、『リーゼロッテ』と呼びかけてくれるのが嬉しくて、仲良くなれたことに心が弾む。
「今日はこれで帰るわ。長の件もまた改めて報告に来るわね」
そう言って飛び立ってしまったときには、寂しさが広がった。
「リーゼロッテ、これは貴女が持っていればいい」
レティシアに送り届けられた城の中庭で、ヘルムートが用意したお茶を前に、ベルンハルトが魔力石の入った袋をリーゼロッテへと押し付けた。
「いえ。これは、この城で使ってください」
ベルンハルトから渡された袋には、小さいながらもたくさんの魔力石が入っている。
リーゼロッテが人生で初めて使った魔法。その結果として手に入れたものだとしたら、これまでお世話になった城で使ってほしい。
「この城にはまだたくさんの魔力石が保管されている。必要ない」
ベルンハルトから突きつけられた言葉は、魔法が使えたことに浮かれていたリーゼロッテの心を、急激に冷した。
「ベルンハルト様っ」
二人の会話を聞いていたヘルムートが、ベルンハルトを諌めようと声をあげるが、ベルンハルトはその声にも反応せずに席を立つ。
そしてそのまま、城の中へと戻って行ってしまったのだ。
「どう、して……」
ベルンハルトの態度が理解できずに、リーゼロッテは魔力石を前に大粒の涙を流す。
やっと役に立てるはずだった。
ベルンハルトには必要のないものだとはわかっていても、城の中で使うことができるだろうと、少しでも恩返しができると思っていた。
自分がこの城にいる価値を、少しでも見出だせると思っていたのに。
「奥様。ベルンハルト様も突然のことで驚かれているのかもしれません。代わりにお詫び申し上げます」
「いいえ。大丈夫です。こんなこと、慣れているもの」
ベルンハルトの冷たい態度は、今に始まったことじゃない。ロイスナーへ来て、つれない態度のベルンハルトを見ることは、普通のことだったはずだ。
「また、前に戻っただけのことよ。気にすることないわ」
リーゼロッテは目元を拭い、席を立った。これ以上、この顔を晒すわけにはいかない。泣くならば、部屋で独りで。
「どちらへ?」
「部屋に戻ります。それは、ヘルムートさんの方で使って下さい。わたくしが持っていても、意味がないので」
魔力石は見なかったことにしよう。
魔法を使えた今日のことは忘れよう。
そうすれば、またベルンハルトはこちらを向いてくれるかもしれない。隣に座ってくれるかもしれないのだから。
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