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別れと再会
安堵感
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奥にある寝室に姫を案内し、以前のように全員でテーブルを囲んで話を始めた。
「床で悪いけどさ、今夜はちゃんと寝ろよ。」
「あぁ。寝室を使わせてもらってしまって、申し訳ない。」
「良いって。俺達どこだって眠れるし。」
「そうですよ。気にしないで下さい。」
「それとも、アイシュタルトも寝室使う?もう一つ寝台開いてるぜ。」
ルーイが意味深なニヤけ顔を私に向ける。
「馬鹿なことを!」
姫と部屋を共にするなど、無礼にもほどがある。
「そう?だってコーゼから二人で旅したんだろ?そんな雰囲気にならねぇの?」
「ならぬ。」
姫と私はあくまでも主と従者。それ以上になど、なるはずもない。
「そういうものですか。」
「でもさ、アイシュタルトにはそういう気持ちもあるんだろ?王女さまと、もう少し良い関係にって。」
姫と……今以上の関係に?
離れていたこれまでよりも、姫のことを身近に感じられる今だからこそ、手にできそうな未来に顔が熱くなる。
「ふふ。隠せませんね。」
「ははっ。相変わらず口に出せないのな。」
「っ……。」
自分の顔色が変わっていることがわかれば、声を上げることができなかった。
「寝室に案内しますか?」
「しなくてよい。」
「俺達、今夜のことは誰にも言わねぇよ?」
「そのような気を回すな。」
からかわれているのがわかる。それでもこのような言葉のやり取りに、安堵感が広がっていくのもわかる。
その安堵感は疲労と緊張で張り詰めていた私の体全体に広がり、眠りの底へと誘う。
「アイシュタルト、寝るなら横になって下さい。」
「座ったまま寝ても、疲れ取れねぇよ。」
変わらぬ二人の声音と口調が心地よく耳の奥に流れ込む。
薄い敷物を引いただけの床板の上で、私は数日ぶりにゆっくり身体を休めた。敵も味方もどちらにも気を許すことができぬ日々は、どうしようもなく私を疲れさせていた。
窓から入り込む朝日が重たい瞼をこれでもかというほどに刺激する。少し抵抗感を感じながら必死で瞼を開けて、体を起こした。
ルーイとステフの二人は昨夜の姿のまま、椅子に座っている。
「おはようございます。」
私が起きたことに気づいたステフが、こちらに視線を向ける。
「あぁ。おはよう。昨夜は一晩中起きていたのか?」
「兄さんと交代で少し寝ましたよ。何かあればすぐに起こしてくれるように頼んでありますから。」
「余計な苦労をかけた。申し訳ない。」
「アイシュタルトは疲れていたみたいですから。ゆっくり休めて良かったです。」
「もう、出発するの?」
ルーイが私とステフの会話に突然入り込んでくるのはいつものことだ。そんな些細なやり取りすら懐かしい。
「あぁ。姫に挨拶だけして、出ようと思う。」
「帰ってくるんだろ?待ってるからな。」
「クリュスエント様のこと、しっかりお守りします!」
「くれぐれもよろしく頼む。」
私は二人に、深く頭を下げた。この兄弟に頼みごとをするのはもう何度目だろうか。いつまでも甘えているわけには、いかないな。
二人との話を済ませ、寝室へと向かう。
まだお休みだろうか。それならば、二人に伝言を頼んで行くしかない。
トントン。
「はい。どうぞ。」
寝室の扉を静かにノックすれば、中から姫の声が出て聞こえてくる。
「失礼します。」
私が中に入れば、姫は寝台の端に座っていた。
「もう、出発するのですって?」
「聞こえてましたか?」
「えぇ。少しだけ。くれぐれもお気をつけて。ご無事でのお戻りをお待ちしていますね。」
「七日間、お待ち下さい。必ず戻ります。」
私の言葉に、姫の顔に驚きが混じる。
「七日……」
「はい。フェリス様を連れて、七日で戻ります。そしたら、シャーノへお送りします。」
「お約束です。」
そう言って姫が軽やかに微笑んだ。
姫への挨拶を済ませ、外に繋いだままのクラムに跨る。
「七日で戻る。それまで、クリュスエント様を頼む。」
私を見送りに出てきたルーイとステフにそう告げると、村の出口に向かってクラムを走らせた。
「床で悪いけどさ、今夜はちゃんと寝ろよ。」
「あぁ。寝室を使わせてもらってしまって、申し訳ない。」
「良いって。俺達どこだって眠れるし。」
「そうですよ。気にしないで下さい。」
「それとも、アイシュタルトも寝室使う?もう一つ寝台開いてるぜ。」
ルーイが意味深なニヤけ顔を私に向ける。
「馬鹿なことを!」
姫と部屋を共にするなど、無礼にもほどがある。
「そう?だってコーゼから二人で旅したんだろ?そんな雰囲気にならねぇの?」
「ならぬ。」
姫と私はあくまでも主と従者。それ以上になど、なるはずもない。
「そういうものですか。」
「でもさ、アイシュタルトにはそういう気持ちもあるんだろ?王女さまと、もう少し良い関係にって。」
姫と……今以上の関係に?
離れていたこれまでよりも、姫のことを身近に感じられる今だからこそ、手にできそうな未来に顔が熱くなる。
「ふふ。隠せませんね。」
「ははっ。相変わらず口に出せないのな。」
「っ……。」
自分の顔色が変わっていることがわかれば、声を上げることができなかった。
「寝室に案内しますか?」
「しなくてよい。」
「俺達、今夜のことは誰にも言わねぇよ?」
「そのような気を回すな。」
からかわれているのがわかる。それでもこのような言葉のやり取りに、安堵感が広がっていくのもわかる。
その安堵感は疲労と緊張で張り詰めていた私の体全体に広がり、眠りの底へと誘う。
「アイシュタルト、寝るなら横になって下さい。」
「座ったまま寝ても、疲れ取れねぇよ。」
変わらぬ二人の声音と口調が心地よく耳の奥に流れ込む。
薄い敷物を引いただけの床板の上で、私は数日ぶりにゆっくり身体を休めた。敵も味方もどちらにも気を許すことができぬ日々は、どうしようもなく私を疲れさせていた。
窓から入り込む朝日が重たい瞼をこれでもかというほどに刺激する。少し抵抗感を感じながら必死で瞼を開けて、体を起こした。
ルーイとステフの二人は昨夜の姿のまま、椅子に座っている。
「おはようございます。」
私が起きたことに気づいたステフが、こちらに視線を向ける。
「あぁ。おはよう。昨夜は一晩中起きていたのか?」
「兄さんと交代で少し寝ましたよ。何かあればすぐに起こしてくれるように頼んでありますから。」
「余計な苦労をかけた。申し訳ない。」
「アイシュタルトは疲れていたみたいですから。ゆっくり休めて良かったです。」
「もう、出発するの?」
ルーイが私とステフの会話に突然入り込んでくるのはいつものことだ。そんな些細なやり取りすら懐かしい。
「あぁ。姫に挨拶だけして、出ようと思う。」
「帰ってくるんだろ?待ってるからな。」
「クリュスエント様のこと、しっかりお守りします!」
「くれぐれもよろしく頼む。」
私は二人に、深く頭を下げた。この兄弟に頼みごとをするのはもう何度目だろうか。いつまでも甘えているわけには、いかないな。
二人との話を済ませ、寝室へと向かう。
まだお休みだろうか。それならば、二人に伝言を頼んで行くしかない。
トントン。
「はい。どうぞ。」
寝室の扉を静かにノックすれば、中から姫の声が出て聞こえてくる。
「失礼します。」
私が中に入れば、姫は寝台の端に座っていた。
「もう、出発するのですって?」
「聞こえてましたか?」
「えぇ。少しだけ。くれぐれもお気をつけて。ご無事でのお戻りをお待ちしていますね。」
「七日間、お待ち下さい。必ず戻ります。」
私の言葉に、姫の顔に驚きが混じる。
「七日……」
「はい。フェリス様を連れて、七日で戻ります。そしたら、シャーノへお送りします。」
「お約束です。」
そう言って姫が軽やかに微笑んだ。
姫への挨拶を済ませ、外に繋いだままのクラムに跨る。
「七日で戻る。それまで、クリュスエント様を頼む。」
私を見送りに出てきたルーイとステフにそう告げると、村の出口に向かってクラムを走らせた。
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