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別れと再会
親友との別れ
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「そっか。わかった。出発するのは明日なんだろ?今夜は……」
ルーイが私と目を合わせたと思ったら、あっさり私の意見を受け入れた。ルーイのことだ、何かを察したのだろうな。
「兄さんっ!」
受け入れたルーイに非難の声があがる。ステフの方を向いたルーイが優しく首を横に振った。二人の間には私ではわからぬ思いが通う。
ステフもそれ以上何も言わなかった。
「今夜は私とジュビエールで外を見張る。皆はゆっくり休むと良い。」
そう言って、私は一人で外に出る。中に入り損ねて、外で見張りをしていてくれたジュビエールが私の顔から目を逸らした。きっと、見るに耐えない顔をしているのだろうな。必死で作り上げた顔は、外に出るまでしかもたなかった。
王からの命令を無視して、国を飛び出した私が戻れないことは、全員がわかっていた。だからこそ、姫は何も言わない。
明日出発する時も、またこんな思いをしなければならないのか。これも私の運命なのだろうな。
翌日、ルーイとステフは昨日よりも疲れきった顔をしていた。眠れなかったか。私も二人のことは言えないが。
「ルーイ、ステフ。これまで、本当にありがとう。色々と世話になったな。」
「騎士団って、城にいるんだろ?」
「あぁ。大抵は城にいる。」
ルーイの問いに、私の隣に並んでいたジュビエールが答えてくれた。
「そしたらさ、会いにいくよ。カミュートの中にいてくれるなら、俺だっていつでも会いに行ける。」
「僕も、会いに行っても良いですか?」
「もちろん。そうしてくれるとありがたい。」
「門番にでも命じて、其方達二人は必ずアイシュタルトに取り次ぐようにさせるか。」
「やってくれるの?!……あ、ですか?」
「ルーイ。直ってないではないか。」
「だってさぁ。クリュスエント様だってそのままで良いって言ってくれて……」
姫の前でも、あのままだったのか。
「ククッ。其方はそれが良い。直そうとすると、何を言っているのかわからなくなる。」
私の言葉にルーイが不服そうな顔をするが、間違ってはいないだろう。
「アイシュタルト、俺達こそ、世話になった。おかげでステフとも会えたし、楽しかったよ。」
「僕もです。剣術も教えてもらえて、もう逃げなくても良さそうです。ありがとうございました。」
「私の方こそ、楽しい日々をありがとう。」
「そろそろ、出るか?」
ジュビエールの声で、フェリスとジュビエール、姫と私が馬に跨ろうとする。
「アイシュタルト!」
姫の後ろへ回り、クラムに乗ろうとしていた私を、ルーイが呼び止めた。
「クリュスエント様に、気持ち伝えても俺は大丈夫だと思う。頑張れよ……親友。」
私にしか聞こえないほどの小さい声に反応して、顔に熱が上るのがわかる。
「よ、余計な世話だ!」
やはりルーイには全てバレていたか。
ルーイの顔を睨みつければ、ルーイは一緒に旅をしている間では見ることもなかったような顔をしていた。
照れているのか。何故。
『頑張れよ……親友』ルーイの言葉が頭の中で繰り返される。親友とは、私のことか?
突然突きつけられたルーイからの言葉に、気持ちがくすぐられる。この私を、そんな風に言ってくれるとは。
こらえ切れぬ感情が一雫、目からあふれ出した。
顔を崩さぬように別れると決めていたのに。
誰にも見られぬように、手で拭う。
「会いにこいよ。いつでも待ってる……親友。」
私の人生で初めての友人で
一緒に旅をした仲間で
かけがえのない恩人。
最後の言葉はルーイにしか聞こえぬ声で伝えた。
そして騎士然とした顔を作りあげて、クラムに跨る。
「クリュスエント様。今度は優しいやつと幸せになりなよ!」
「はい。頑張りますね。」
「口に出せない人もいますから。」
「えぇ。わたくしが努力してみます。」
姫も二人と数日間とはいえ、同じ時を過ごしていた。三人にしかわからぬやり取りがあるのだろう。
「またな!」
ルーイの言葉を合図に、クラムを出発させた。
ルーイが私と目を合わせたと思ったら、あっさり私の意見を受け入れた。ルーイのことだ、何かを察したのだろうな。
「兄さんっ!」
受け入れたルーイに非難の声があがる。ステフの方を向いたルーイが優しく首を横に振った。二人の間には私ではわからぬ思いが通う。
ステフもそれ以上何も言わなかった。
「今夜は私とジュビエールで外を見張る。皆はゆっくり休むと良い。」
そう言って、私は一人で外に出る。中に入り損ねて、外で見張りをしていてくれたジュビエールが私の顔から目を逸らした。きっと、見るに耐えない顔をしているのだろうな。必死で作り上げた顔は、外に出るまでしかもたなかった。
王からの命令を無視して、国を飛び出した私が戻れないことは、全員がわかっていた。だからこそ、姫は何も言わない。
明日出発する時も、またこんな思いをしなければならないのか。これも私の運命なのだろうな。
翌日、ルーイとステフは昨日よりも疲れきった顔をしていた。眠れなかったか。私も二人のことは言えないが。
「ルーイ、ステフ。これまで、本当にありがとう。色々と世話になったな。」
「騎士団って、城にいるんだろ?」
「あぁ。大抵は城にいる。」
ルーイの問いに、私の隣に並んでいたジュビエールが答えてくれた。
「そしたらさ、会いにいくよ。カミュートの中にいてくれるなら、俺だっていつでも会いに行ける。」
「僕も、会いに行っても良いですか?」
「もちろん。そうしてくれるとありがたい。」
「門番にでも命じて、其方達二人は必ずアイシュタルトに取り次ぐようにさせるか。」
「やってくれるの?!……あ、ですか?」
「ルーイ。直ってないではないか。」
「だってさぁ。クリュスエント様だってそのままで良いって言ってくれて……」
姫の前でも、あのままだったのか。
「ククッ。其方はそれが良い。直そうとすると、何を言っているのかわからなくなる。」
私の言葉にルーイが不服そうな顔をするが、間違ってはいないだろう。
「アイシュタルト、俺達こそ、世話になった。おかげでステフとも会えたし、楽しかったよ。」
「僕もです。剣術も教えてもらえて、もう逃げなくても良さそうです。ありがとうございました。」
「私の方こそ、楽しい日々をありがとう。」
「そろそろ、出るか?」
ジュビエールの声で、フェリスとジュビエール、姫と私が馬に跨ろうとする。
「アイシュタルト!」
姫の後ろへ回り、クラムに乗ろうとしていた私を、ルーイが呼び止めた。
「クリュスエント様に、気持ち伝えても俺は大丈夫だと思う。頑張れよ……親友。」
私にしか聞こえないほどの小さい声に反応して、顔に熱が上るのがわかる。
「よ、余計な世話だ!」
やはりルーイには全てバレていたか。
ルーイの顔を睨みつければ、ルーイは一緒に旅をしている間では見ることもなかったような顔をしていた。
照れているのか。何故。
『頑張れよ……親友』ルーイの言葉が頭の中で繰り返される。親友とは、私のことか?
突然突きつけられたルーイからの言葉に、気持ちがくすぐられる。この私を、そんな風に言ってくれるとは。
こらえ切れぬ感情が一雫、目からあふれ出した。
顔を崩さぬように別れると決めていたのに。
誰にも見られぬように、手で拭う。
「会いにこいよ。いつでも待ってる……親友。」
私の人生で初めての友人で
一緒に旅をした仲間で
かけがえのない恩人。
最後の言葉はルーイにしか聞こえぬ声で伝えた。
そして騎士然とした顔を作りあげて、クラムに跨る。
「クリュスエント様。今度は優しいやつと幸せになりなよ!」
「はい。頑張りますね。」
「口に出せない人もいますから。」
「えぇ。わたくしが努力してみます。」
姫も二人と数日間とはいえ、同じ時を過ごしていた。三人にしかわからぬやり取りがあるのだろう。
「またな!」
ルーイの言葉を合図に、クラムを出発させた。
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