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花束を届けるだけだったのに
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「はぁ」
大きなため息と共にエラが手のひらを開けば、先日アルフレートに握らされた金貨が光る。
この一枚で、エラが一ヶ月は暮らしていくことができるだろう。
明日の婚約式に花を持っていけば、それがもう一枚。二ヶ月、生活費の心配をしなくてよくなるはずだ。
アルフレートに出会った日から何度も考えを巡らせたが、平民の立場で、王城へ、あの花を持って。どう考えても無理だ。
何か粗相があれば、ただじゃすまないだろう。
エラだけならともかく、村の人たちまで巻き込んでしまったらと、そんな恐怖心がエラの心を蝕む。
考えごとをしてるエラのことをカーサが心配してくれるが、こんなことを相談できるはずもなく、エラは結局一人で思い悩むしかなかった。
「贈り物……」
金貨はもちろん魅力的だが、空っぽの贈り物の場と最後にアルフレートが見せたウインクが、更にエラを悩ませる。
このまま断ってしまおうと、簡単に決断するわけにもいかない。
そんなことをすれば、エラのせいでアルフレートに恥をかかせることになる。
アルフレートの優しい声と笑顔は、今でも鮮明に覚えていて。
あの笑顔をくもらせたくない。それもまた、エラの正直な気持ちだ。
庭に咲く花を、明日のために摘むのを遅らせた。
明日、花束を作るぐらいの本数を用意することはできるだろう。
なけなしのお金をはたいて、城に行くのに失礼にはならない程度の服も用意をした。
残るはただ一つ。エラの決心だけ。
窓の外を覗けば、風に揺れる青い花が見える。どの花も同じ方向を向いて、エラの決断に頷いてくれている様だ。
花に背中を押されて、エラはようやく心を決めた。
「アルフレート様に頼まれて、お花をお届けに参りました」
「アルフレート殿下に? お前がか?」
話を通してくれているはずの門番はどこにいるのだろうか。
翌日、エラは王城の門の前で門番に足止めされていた。
「はい。こちらの花を持ってくる様にと仰せつかっております」
エラの手にはアルフレートが望んだ青い花を中心に、できる限り貧相に見えない様に作った花束が抱えられている。
ただ、先程からエラの横を通り過ぎて城内に入っていく者たちが抱えるものを見れば、その差は歴然。
「そんなもの、アルフレート殿下が所望されるはずがないだろう」
「で、ですが……」
門番が言うのも無理はない。
第二王子が望んだと言う方が妄言に聞こえるだろう。
やはり来なければ良かったと、アルフレートに揶揄われただけだったのだと、エラの頭を過ぎる不信感。
エラの持つ花束もどことなく萎れてきている様にも見える。
「わかりました。もう、失礼させていただきます」
アルフレートの言葉を間に受けて、こんな所までのこのこと来た自分が愚かだったと、エラは肩を落とした。
摘み取ってしまった花に悪いことをしたと、申し訳なさで心が痛む。
「ごめんね」
城の門に背を向けて歩き始めたエラが、花に話しかける。
切られた花にすら治癒力がめぐっていくのか、エラの声を受けた花々が少し元気になった様に思う。
それでも、切り取ってしまった花は長くもちはしない。せめて受け取ってさえくれれば報われただろうに、これでは全て無駄になるだけだ。
エラを揶揄うだけならともかく、花の生命を無駄にさせたアルフレートに、苛立ちがふつふつと湧き上がる。
せめて城を睨みつけてやろうと後ろを振り返った。
「ちょっと! 花束の方!」
睨みつけようとしたエラにかけられる声。
追い返された門から、誰かが近づいてくる。
花束の、というのは自分だろうか。呼び止められる理由もわからずに、エラはその場に立ち尽くした。
「良かった。私、アルフレート殿下の従者、ダームエルと申します。アルフレート殿下がご依頼されたお相手というのは、貴女様でしょうか?」
「エラと申します。こちらの花束をお届けにあがりました。ですが、必要とされていないのであれば、このまま持ち帰ります」
「そんなこと仰らないで下さい。アルフレート殿下は間違いなくそちらの花束をお待ちです。門番へは少々伝達が行き届かなかった様で、大変失礼を致しました」
「それならば良かったです。花達に申し訳ないことをしたと思っていました。こちらをお持ちください」
エラが差し出した花束を受け取ったダームエルは、エラに深く頭を下げた。
「失礼がないようにするとのお約束を反故にしたお詫びに、中へ案内するようにと仰せつかっております。ご一緒に来ていただけますか?」
「い、いえ! そのようなお気遣いいただかなくても大丈夫です。花束さえお渡しできれば、それで」
「それでは私が叱られてしまいます。エラ様をお連れするようにと言われておりますので。それに、お渡ししなければならないものもありますから」
ダームエルが言ったのは、約束の金貨のことだろう。以前もらったものだけでエラとしては十分だったのだが、くれるというのであれば断る理由もない。
「それなら、伺います」
息を切らしながら走ってきてくれたダームエルが叱られてしまうのも不憫ではあるし、生活に困ってるのも嘘ではない。
もう一度恭しく頭を下げたダームエルがエラの前を門へ向かって歩き出す。その後ろを追って、先ほど追い返された城門をくぐり抜けた。
エラの前に立ちはだかった門番が、ダームエルに対しては深々と頭を下げる。それだけでアルフレートの従者である彼が、高位の貴族だということがわかる。
そんなダームエルに頭を下げられ、案内までされて入る王城。分厚い壁で隔てられた別世界。人生で初めて見る景色が広がっていた。
「このままお部屋までご案内いたします」
ダームエルの後について行くと、壮大な中庭が目に入る。ありとあらゆる花が飾られた庭園。今日の婚約パーティーの会場だろうか。
その中庭に目もくれず淡々と歩き続けるダームエルの足取りは物静かで、歩き方一つにさえ優雅さが感じられる。
エラの暮らす日常とは、何もかもが別世界だった。
大きなため息と共にエラが手のひらを開けば、先日アルフレートに握らされた金貨が光る。
この一枚で、エラが一ヶ月は暮らしていくことができるだろう。
明日の婚約式に花を持っていけば、それがもう一枚。二ヶ月、生活費の心配をしなくてよくなるはずだ。
アルフレートに出会った日から何度も考えを巡らせたが、平民の立場で、王城へ、あの花を持って。どう考えても無理だ。
何か粗相があれば、ただじゃすまないだろう。
エラだけならともかく、村の人たちまで巻き込んでしまったらと、そんな恐怖心がエラの心を蝕む。
考えごとをしてるエラのことをカーサが心配してくれるが、こんなことを相談できるはずもなく、エラは結局一人で思い悩むしかなかった。
「贈り物……」
金貨はもちろん魅力的だが、空っぽの贈り物の場と最後にアルフレートが見せたウインクが、更にエラを悩ませる。
このまま断ってしまおうと、簡単に決断するわけにもいかない。
そんなことをすれば、エラのせいでアルフレートに恥をかかせることになる。
アルフレートの優しい声と笑顔は、今でも鮮明に覚えていて。
あの笑顔をくもらせたくない。それもまた、エラの正直な気持ちだ。
庭に咲く花を、明日のために摘むのを遅らせた。
明日、花束を作るぐらいの本数を用意することはできるだろう。
なけなしのお金をはたいて、城に行くのに失礼にはならない程度の服も用意をした。
残るはただ一つ。エラの決心だけ。
窓の外を覗けば、風に揺れる青い花が見える。どの花も同じ方向を向いて、エラの決断に頷いてくれている様だ。
花に背中を押されて、エラはようやく心を決めた。
「アルフレート様に頼まれて、お花をお届けに参りました」
「アルフレート殿下に? お前がか?」
話を通してくれているはずの門番はどこにいるのだろうか。
翌日、エラは王城の門の前で門番に足止めされていた。
「はい。こちらの花を持ってくる様にと仰せつかっております」
エラの手にはアルフレートが望んだ青い花を中心に、できる限り貧相に見えない様に作った花束が抱えられている。
ただ、先程からエラの横を通り過ぎて城内に入っていく者たちが抱えるものを見れば、その差は歴然。
「そんなもの、アルフレート殿下が所望されるはずがないだろう」
「で、ですが……」
門番が言うのも無理はない。
第二王子が望んだと言う方が妄言に聞こえるだろう。
やはり来なければ良かったと、アルフレートに揶揄われただけだったのだと、エラの頭を過ぎる不信感。
エラの持つ花束もどことなく萎れてきている様にも見える。
「わかりました。もう、失礼させていただきます」
アルフレートの言葉を間に受けて、こんな所までのこのこと来た自分が愚かだったと、エラは肩を落とした。
摘み取ってしまった花に悪いことをしたと、申し訳なさで心が痛む。
「ごめんね」
城の門に背を向けて歩き始めたエラが、花に話しかける。
切られた花にすら治癒力がめぐっていくのか、エラの声を受けた花々が少し元気になった様に思う。
それでも、切り取ってしまった花は長くもちはしない。せめて受け取ってさえくれれば報われただろうに、これでは全て無駄になるだけだ。
エラを揶揄うだけならともかく、花の生命を無駄にさせたアルフレートに、苛立ちがふつふつと湧き上がる。
せめて城を睨みつけてやろうと後ろを振り返った。
「ちょっと! 花束の方!」
睨みつけようとしたエラにかけられる声。
追い返された門から、誰かが近づいてくる。
花束の、というのは自分だろうか。呼び止められる理由もわからずに、エラはその場に立ち尽くした。
「良かった。私、アルフレート殿下の従者、ダームエルと申します。アルフレート殿下がご依頼されたお相手というのは、貴女様でしょうか?」
「エラと申します。こちらの花束をお届けにあがりました。ですが、必要とされていないのであれば、このまま持ち帰ります」
「そんなこと仰らないで下さい。アルフレート殿下は間違いなくそちらの花束をお待ちです。門番へは少々伝達が行き届かなかった様で、大変失礼を致しました」
「それならば良かったです。花達に申し訳ないことをしたと思っていました。こちらをお持ちください」
エラが差し出した花束を受け取ったダームエルは、エラに深く頭を下げた。
「失礼がないようにするとのお約束を反故にしたお詫びに、中へ案内するようにと仰せつかっております。ご一緒に来ていただけますか?」
「い、いえ! そのようなお気遣いいただかなくても大丈夫です。花束さえお渡しできれば、それで」
「それでは私が叱られてしまいます。エラ様をお連れするようにと言われておりますので。それに、お渡ししなければならないものもありますから」
ダームエルが言ったのは、約束の金貨のことだろう。以前もらったものだけでエラとしては十分だったのだが、くれるというのであれば断る理由もない。
「それなら、伺います」
息を切らしながら走ってきてくれたダームエルが叱られてしまうのも不憫ではあるし、生活に困ってるのも嘘ではない。
もう一度恭しく頭を下げたダームエルがエラの前を門へ向かって歩き出す。その後ろを追って、先ほど追い返された城門をくぐり抜けた。
エラの前に立ちはだかった門番が、ダームエルに対しては深々と頭を下げる。それだけでアルフレートの従者である彼が、高位の貴族だということがわかる。
そんなダームエルに頭を下げられ、案内までされて入る王城。分厚い壁で隔てられた別世界。人生で初めて見る景色が広がっていた。
「このままお部屋までご案内いたします」
ダームエルの後について行くと、壮大な中庭が目に入る。ありとあらゆる花が飾られた庭園。今日の婚約パーティーの会場だろうか。
その中庭に目もくれず淡々と歩き続けるダームエルの足取りは物静かで、歩き方一つにさえ優雅さが感じられる。
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