第四王子の運命の相手は私です

光城 朱純

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予想以上に吸い取られた魔力

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「あの、私に何かできることがあれば……」

 聞くに耐え難い罵声を聞いていられず、エラは会話をする二人に声をかけた。
 会話といえば聞こえは良いが、片方の男性が一方的に相手の男性を怒鳴り散らしているだけに見える。

「貴女は?」

 大声をあげていた男が不審な顔をエラに向ける。

「この方は私の友人です」

「ダームエル様! 失礼しました」

 会話に割り込んで行ったエラに呆れた顔をしつつも、ダームエルがエラを庇うように間に割って入ってくれる。

「何かありましたか?」

「いえ。今日用意した花が萎れてしまっているので、原因を庭師に聞こうとしておりまして」

 怒鳴り声を聞かれていたことを知ってか知らずか、ダームエルに問われた男はもごもごとその原因を話した。
 話す内容とその身なりから、怒鳴りつけられていたのは城の庭師だろう。そして怒鳴りつけていたのは執事だろうか。

「エラ様はこれを何とかできると言うんですか?」

 わざわざ割り込んで行ったエラに文句を言いたいのだろうか。少々投げやりに問うダームエルが不満を感じているのがわかる。
 庭師の手元には萎れてしまった花束。エラが見たこともない花だが、治癒力が効いてさえくれればこの場を収めることができるはず。
 
「パーティーの間だけで良ければ、何とかなるかもしれません」

 エラの言葉にダームエルの眉毛がピクリと動く。信じてもらえるはずもない。でまかせを言っていると思われてしまっただろうか。

「どうやって……」

「花束を貸していただけますか?」

 エラはそう言うと庭師から花束を受け取った。エラが作ってきたものよりも色とりどりの花束は、その身に治癒力を受ければもう一度鮮やかに輝いてくれるだろう。

「もう一度だけ、頑張ってちょうだい」

 いつもの様に花に話しかければ、エラの治癒力が花達に巡っていく。一つ二つと、少しずつその身を立ち上げた花は再び美しい花束へと戻っていった。

「これで、いかがでしょうか?」

 エラの力で蘇った花束を再び庭師の手元に差し出す。エラ以外の三人は驚きのあまり固まり、花束を受け取る庭師の手が震えていた。

「あ、ありがとうございます」

 怒鳴られる要因がなくなった庭師がエラに向かって頭を下げ、執事と二人で会場へと戻っていく。

「あんなことに首を突っ込むとは、どういうおつもりですか?」
 
 エラと並んでその後ろ姿を見送ったダームエルが、エラの方を向き直って、そう問うた。

「申し訳ありません。誰かが怒鳴られているのを見ていられなくて」

「庭師はともかく、城で執事を任される者はそれなりの立場がある者達です。貴女があの様に振る舞っては、私が隣にいる意味がない」

「すいません」

 ダームエルの怒りももっともだ。エラが貴族相手に余計なことに巻き込まれない様にとアルフレートから離れて隣に立っていてくれるのに、その張本人のエラが自ら巻き込まれに行っているのだから。

「ただ、アルフレート殿下なら同じことをされたでしょう」

「アルフレート様ですか?」

 エラはダームエルの言葉に、俯いていたその頭を少し上げた。

「花が萎れるなんて当然のこと。そのことを理由に怒鳴りつけられるのを、見て見ぬふりができる方ではありませんから。エラ様のように花を生き返らせはしませんが、きっとあの場を上手くおさめていくでしょう」

「アルフレート様はお優しいのですね」

「お優しい……とは少し違うかもしれませんが。尊敬すべき方です」

 従者として共に行動するダームエルには、外からでは見れないアルフレートが見えているのかもしれない。第二王子であり騎士団長の立場は、優しいだけでは成り立たないだろう。

「あの、ダームエル様……さっきのお部屋に戻ることはできませんか?」

「客室に? 何かお忘れ物でもありましたか?」

「いえ……その……」

 見たこともない花束を治癒するというのは、エラにとっては予想以上に負担が大きかった。
 何でもないふりをしていようと試みたが、ここから始まる婚約パーティーの間、立っていることさえ辛くなってしまいそうだ。

「構いませんよ。戻りましょう」

 魔力を使い悪くなったエラの顔色に気づいた様で、その場にいることを無理強いすることもなく、ダームエルはエラの頼みを聞き入れた。

「お料理は後ほどお持ちします。こちらでゆっくりお過ごしください」

「せっかくドレスまで着せていただいたのに、本当にすいません」

 再び客室に戻ると、エラはダームエルの目の前でソファに座り込んでしまった。
 立っていられないくらいの魔力の消費。あの花以外に、何かに持っていかれた様な気さえする。

「いえ。治癒魔法は魔力消費が大きいのですね。周りに使う者がいなかったもので、気が付かず申し訳ありません」

「わ、私の魔力が少ないせいです。このままこちらに居ても良いのでしょうか?」

「こちらに居て下さる分には構いません。ただ、外に出られるとどなたと会われるかわかりませんので……」

「出たりしません」

 そもそも出られそうにもない。
 部屋から出て貴族と会う心配よりも、その辺で倒れてしまう心配の方が大きいぐらいだ。

「パーティーが終わるまでこちらに居てくださって構いません。この棟の客室には誰も来ませんから。アルフレート殿下には伝えておきますので、様子を見に来るのであれば、私か殿下か」

「わかりました。ご迷惑をおかけしてすいません」

 座ったまま立つことさえ叶わないエラが、必死で頭だけを動かす。
 その様子を見たダームエルは少し心配そうな顔をしながら、その場を立ち去ってくれた。

 客室に戻って来れば、さっきよりも酷く紋様が疼く。
 カーサの言う痺れが、この現象のことだなどと信じたくない。
 聖の魔法の使い手であるエラの運命の相手は闇の魔法の使い手。災いを招くと言われる相手に、近づきたくもない。
 城内にそんな相手がいるなど、気づかないふりをしておくに限る。
 感じたくもない痺れがはしる左手をさすりながら、エラはソファに深く腰掛けた。
 
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