世界樹の麓に

関谷俊博

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遺志

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デッサンをながめながら、僕は高杉さんの言葉を思いかえしていた。1は白…2は黄色…3は青…4は赤…5は緑…。けれどもわかったのは、それだけだった。デッサンには、それ以外の数字も書きこまれていたし、そもそも数字が書きこまれていない、つまり色の指定のない箇所もあった。
そういう箇所は後まわしにして、僕は手のつけられる部分から制作をすすめることにした。
だが、そこにも問題はあった。
3が青であることがわかっても、青にもさまざまな青がある。その青が、ネイビーなのか、インディゴなのか、ウルトラマリンなのか、コバルトなのか…。その選択は、僕にまかされていた。そして、タッチやコントラストは?   考えればきりがなかった。
高杉さんの意図はなんだったのか。僕は制作過程であらためて考えることになった。イメージをつたえ、色を指定するだけなら、小さなべつの紙に、パステルなり、水彩なりで下絵をのこせばいい。しかし高杉さんはそうしなかった。
やがて僕は、こう考えるようになった。タッチもコントラストも明確な色あいもわからなくする。そのことこそが高杉さんの意図ではなかったのかと。それらについて高杉さんは、僕にまかせることにしたのだと。ユグドラシルについて、高杉さんがあれほどこと細かに語ったのも、少しでも僕にユグドラシルのイメージをつたえたかったからかもしれない。
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