冬迷宮

関谷俊博

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カウンセリングも半年を過ぎ、僕と則子はオフィスの外でも一緒の時間を過ごすようになっていた。
 きっかけは、カウンセリングの後に、則子が「一緒に食事でもどう?」と誘ってきたことにあった。一度位なら、と僕は思った。則子の心の問題を解く鍵が見つかるかもしれない。
「雪路くん。モテるんでしょう」
 イタリアンレストランで、食事を共にしながら、則子はそう尋ねてきた。
「まさか、全然だよ」
 少し動揺しながら、僕は首を振った。
「きっと嘘ね。だって雪路くん、優しいもの」
 則子は笑った。しかし、一度が二度になり、二度が三度になり、僕と則子はカウンセリングの後には、必ず一緒の時間を過ごすようになっていた。その頃にはもう、どこまでがカウンセリングで、どこまでかプライベートなのか、区別がつかなかった。マズイな、と僕は思った。完全な逆転移だ。
「ミイラ取りがミイラになるぜ」
 冴木の言葉が頭に響いた。だけど、そのときにはもう、後戻りはできなくなっていた。
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