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146.〖ミィーナ〗過去(終)
しおりを挟む――私は塔主様を追い掛けるのを止め、魔術塔の皆と交流を持つことにした。
それにより、自分の意識も徐々に変わっていった。
過去を忘れられはしないけど、あの男達はもう生きてはいない。
だから、恐怖に怯える必要はないのだと……魔術塔にいる皆のお陰でそう思うことが出来るようになった。
それで、ずっと辛くて口に出すことが出来なかった過去の事や、魔術塔に来て皆と知り合い、これが本当の家族なのだと感じる程に穏やかに過ごせて救われたという事を――塔主様には知って欲しくて伝えた。
塔主様は、私が皆と話しているのを嬉しそうにしてくれた。
私も皆と打ち解けられて良かったと思う。けど、塔主様の想いが消えたわけではない。
だから、本当は――ずっと離れたくはないという矛盾した気持ちもあって、私が離れたことを喜んでいる塔主様に胸が引き裂かれるような思いもした。
でも、あんなことをした私にはそんな資格はない。
それで私は、自分の想いを断ち切るために形から入ろうと――塔主様と【レイド・ハートシア】の2人を全面的に応援することに決めた。
魔術塔内で2人はいかにお似合いであるのかと話し回り、もし【レイド・ハートシア】が魔術塔の仲間となり塔主様と恋仲になっても、皆から祝福されるように環境を整えていった。
そんな私を、ロンウェルさんは苦笑しながらも黙って見守ってくれていた――。
それから時が経ち、【レイド・ハートシア】――……ハートシア様が魔術塔の仲間になった。
その経緯は、最近になって頻繁に起こっている不可解な事件による調査に加勢する為だという。
そして、ハートシア様はその事件を起こしていたもの――【禁術機】を発見したことで魔術塔内も慌ただしくなり、魔術塔内で塔主様とハートシア様が話しているのをよく見るようにもなった。
やっぱり胸が苦しかった。
でも、何だか……。本当に塔主様が幸せそうに笑っていたから、私も少しだけ嬉しくなった。
けど、ハートシア様は塔主様を鬱陶しいというように追い払っていて……何故だか分からない。
あんなに綺麗で可愛い塔主様になぜそう出来るのか、いくら考えても理解が出来なかった。
それから暫くして、禁術機の事件が多発し収まりがつかなくなったことで――塔主様は【炎竜】という存在が禁術機による事件を収められるかもしれないと、国を出て行く決断をした。
ハートシア様はその決断をした塔主様に苛ついているようで、私はもう我慢が出来なかった。
ハートシア様が塔主様に対し、どのような気持ちを向けているのかを知るため。愛し合っているのは知っているんだというように『いつ結婚するんですか?』と聞くことにした。
本当にハートシア様が塔主様のことを想っていないのなら、きっぱり拒否するかなにか言い返すと思った。
もしそのように拒否したなら、きっと私は塔主様を諦めることは出来ないだろう。
それを知るのが怖くて、ハートシア様の前で少しの間モジモジとしてしまった後に、勢い余って大声で聞いてしまった。
私の声が思った以上に部屋中に木霊したことに、自分がしたことながら驚き。ハートシア様も驚いたように、何故かと問い掛けてきた。
その言葉に対しては、2人がラブラブだからだとペラペラといっぱい喋り倒した。
私はいったい何を言ってるんだと恥ずかしく思いながらも、ハートシア様の反応を伺ったが――ハートシア様の気持ちがいまいち良く分からない。私には、ただ驚いているようにしか見えなかった。
結局よく分からないまま、ハートシア様は用があるからと出て行ってしまった。
********
自分が許せない。
二度も塔主様を殺してしまった。
皆やハートシア様は、禁術機のせいだと言っていたけど……それは違う。
全部、私のせいだ。
だからせめて、ハートシア様が言っていたもの――白の禁術機を囲う為に必要な、防御壁の製作を任せてもらうことにした。
魔法具の製作は、ロンウェルさんから教わってからだいぶ経ち、購入した人から絶賛される程の魔法具を作れるようになっている。
その魔法具も問題なく製作できるはず。
――私はそれを作るのに、命をかけるつもりだった。
でも、やっぱり怖くて……防御壁の期間を設定するところで手が止まってしまった。
ここで私の全ての力を注ぎ込み、魔力切れを起こしても、少し回復した途端に注ぎ込み――を繰り返し繰り返し行うのだ。
これを製作するのには、ちゃんと魔力が回復するまで時間を置くことが出来なかった。
最悪、半時置いただけでも期間がそこで定まってしまう。
それに、期間を設定するところになるまで製作するのも、精密な魔法具だからこそ非常に時間がかかったのだ。
もし、この魔法具をロンウェルさんと共同製作が出来るなら、問題はなかったのかもしれない。
けど、魔法具は共同で作った場合――なぜか上手く機能がしなかったり、お互いの相性が悪い場合は発火や爆発をしてしまうものが出来てしまう。
それは、魔法具職人に強く出る個性や、魔法具の製作には魔力を注ぎ入れるので、性質の違う魔力同士で拒絶反応を起こしているのだと考えられる。
それで私は、【塔主の間】にいる塔主様に会いに行こうと思った。
今の気分を変えたかったから――。
私がそこに着いた時、ハートシア様が塔主様に愛を告げ口づけを落としていた。
話には聞いていた――塔主様が亡くなる直前に、ハートシア様は『愛している』と告げていたと。
私は信じられなかった。だって、あんなにも塔主様に素っ気なかったのだから。
きっと塔主様の気持ちを知っていて、自分のために命をかけてくれたから感謝の思いで言ったのだと、私はそう解釈していた。
でも、私が間違っていたんだ。
塔主様とハートシア様は、お互いに愛し合っていた。
だから、私はハートシア様に聞いた。
塔主様を心から愛しているのか、何があっても変わらないのかと――。
その問いかけに、ハートシア様は是と答えた。
――それで、私は漸く覚悟を決めることが出来た。
唯一の心残りは、塔主様とハートシア様が幸せそうに寄り添う姿が見れなかったこと。
結婚式と言ったのは行き過ぎな言動だったかもしれないけど、せめてそんな風に肩を並べる2人が見れたなら……私はちゃんと塔主様を諦めることが出来たと思うから――。
********
「――こ、れで、大丈……夫。きっ……と、大、丈夫……」
私の近くに栄養剤がたくさん入っている瓶を置き、塔主様宛に書いた手紙や完成させた魔法具も置いている。
塔主様の手紙のような――精密な性能の魔法具をもう一つ作る時間がなかったから、単純な性能の魔法具を使用し、ロンウェルさんへの手紙は床下に隠した。
ロンウェルさんだったら、その魔法具を解けるはずだから――。
それから、塔主様が以前私に――ハートシア様は特殊な体質で、太陽の光だけでも生きていけるらしい……と言っていたのを覚えていた。
太陽エネルギーだけで生きていけるハートシア様が、防御壁の内に入りそのエネルギーが摂取出来なくなった場合の、命を繋げられる日数を計算したら――栄養剤が一粒あれば、最低でも1ヶ月程は持つという結果が出た。
だからそれを多く見繕い、100年くらいは持つように瓶に詰めたのだ。
多く見繕っていて良かった。
自分でも驚く程に、良い出来の魔法具が出来たからだ。
きっとこの魔法具は、100年は防御壁を張ることが可能だろう。
「――ごめ、んなさい。塔主……様」
近くに置いていた塔主様の手紙を、震えた手で手繰り寄せ握り締めた。
普通の紙だったら、当然グシャグシャだろう。
だけど、精密な魔法具であるこの手紙はそうはならない。
だから気にせずに、思いのまま強く握った。
少しして、全身がガクンと降下した感覚がし、意識がふわりと浮かんだ――――。
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とても面白くてスイスイ読んでしまいました!
ありがとうございます!
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