オメガなのにムキムキに成長したんだが?

未知 道

文字の大きさ
2 / 7

2

しおりを挟む
 


 そろそろ発情期だからと、引き出しから抑制剤を取り出す。

「あっ、ヤベ! あと、ちょっとしかねぇな……。ん~、明日病院いけるかなぁ」

 バイト帰りだと、行きつけの病院には間に合わない。

「あ~、確か……。バイト帰りに病院があったな。そこで貰うか」

 ついでに和紗の家にも寄って、タッパー返そう。



 ♢◆♢


「……どういうことですか?」
「言った通りだよ。君の身体に、男性ホルモンを過剰に分泌させる成分が検出された。これは、故意に取らなきゃこんな成分は出ない。だからオメガであるのに、こんなに身体が大きくなったんだろう。何か、心当たりないかな?」

 心当たり? 心当たりなんて……――。

「ま……さか」

 医師は、何かを察したようにひとつため息をつき。

「きっと、その薬は医師が調合したものだろう。オメガの身体に異常が出ないものを使われている。その筋肉のついた身体も、身長は変わらなくとも筋力は落ち、オメガらしい見た目になるはずだ。まぁ、アルファが原因なら……。オメガサポートセンターに連絡して、保護してもらいなさい」

 スッと紙を差し出された。
 そこには、『アルファによるモラハラ、過激な束縛に悩んでいるオメガの救済』といった文字が目に入る。

 信じられないといった気持ちと、カッとした怒りで、頭がぐちゃぐちゃだ。

 その情緒のまま、病院を出て向かった先は――和紗のアパートだった。


「彰! 今日、バイトじゃ――ッ!?」

 満面の笑みでドアから顔を出した和紗に、タッパーをおもいっきり投げつけた。

「てめぇ! この、クソ野郎がっ! どういうつもりだよっ!?」

 和紗は、俺の手元――抑制剤が入っている手提げの方に視線を向けた。

「あぁ~……。駄目じゃん、彰……。なんで、他の病院に行ったんだ?」

 まるで俺が悪いというように、やれやれと困った顔をする和紗。
 そのあり得ない態度に怒りがさらに増す。

「お前……っ!! 俺が、俺が……アルファ達に馬鹿にされて悩んでるの、一体どういう気持ちで聞いてたんだよ!? こんなの、いたずらじゃ済まねぇぞ!」
「くっ、くく……ははははははっ!!」

 腹を抱えて笑う和紗を見て、呆然とする。

 なんで、笑える? そんなに楽しかったのか……?
 全てがまやかしだったのか、和紗の優しさも、全てが……。

 今まで和紗と過ごしてきた日常が、黒く塗り潰されていく――。


「……くっそ、苛ついたに決まってるだろ。彰が他のアルファを見る度、俺じゃないアルファに見てもらえないと悲しむ度に……。そのアルファ達を八つ裂きにしてやりたいと、何度思ったか……」
「はっ? か、和紗……? ――ッ!」

 和紗に強く睨み付けれ、腕を掴まれて室内に引きずり込まれた。

「お、おい……!」
「俺が彰に告白した時、なに言ったか覚えてる?」
「告白……?」

 和紗にいつ告白されたと、記憶を辿るが……思い出せない。

「はははっ! まさか、それすらも覚えてないのか……『運命じゃなくても、運命より大事に出来る』って言った時、『馬鹿じゃん? 運命じゃなきゃ意味ねぇだろ。殆どの奴、そう思ってんじゃね~の? まぁ、運命を振り向かせられねぇなら別だろうけど……』って、彰は言ったんだ」
「…………」

 そんなこと、和紗に言った覚えなんて――あ……あった。

「待て、違うからっ! それ、和紗に言ったんじゃねぇ! ってか、いま言われるまで、俺への告白だったなんて知らなかった!」
「……え?」

 確か、7年くらい前に『貧乏アルファ、社長令息オメガとの運命ないばら恋』といった人気なドラマがあった。
 勿論、簡単には上手くいかせないスパイスのようなものがあって、運命じゃない健気オメガが主人公を狙っていた。
 それで、社長令息のオメガにも、実家と取り引きのある大金持ちの幼なじみのアルファが恋敵だった。

 多分、それを見終わった時。和紗にそう言われて、ドラマとして運命とくっつかなきゃ視聴者からブーイングの嵐だろ……と思いながら言葉を返したのだ。


「っつかさ、なんでそのタイミング? 見てたドラマのこと話してんのかと思うだろ! 馬っ鹿じゃねぇの?」
「ドラマ……。じゃ、じゃあ……告白、断ったわけじゃないんだ」

 期待した顔をする和紗に、ジトリとした目を向け――。

「こんな馬鹿なことした奴と、付き合うかボケーーーッ!!」

 そう、7年越しの返事をした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

姫ポジ幼馴染の貞操を全力で守っていたのに、いつの間にか立場が逆転して伸し掛かられた件

イセヤ レキ
BL
タイトル通りのお話しです。 ※全七話、完結済。

失恋したと思ってたのになぜか失恋相手にプロポーズされた

胡桃めめこ
BL
俺が片思いしていた幼なじみ、セオドアが結婚するらしい。 失恋には新しい恋で解決!有休をとってハッテン場に行ったエレンは、隣に座ったランスロットに酒を飲みながら事情を全て話していた。すると、エレンの片思い相手であり、失恋相手でもあるセオドアがやってきて……? 「俺たち付き合ってたないだろ」 「……本気で言ってるのか?」 不器用すぎてアプローチしても気づかれなかった攻め×叶わない恋を諦めようと他の男抱かれようとした受け ※受けが酔っ払ってるシーンではひらがな表記や子供のような発言をします

雪解けに愛を囁く

ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。 しかしその試験結果は歪められたものだった。 実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。 好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員) 前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。 別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。 小説家になろうでも公開中。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

いくら気に入っているとしても、人はモノに恋心を抱かない

もにゃじろう
BL
一度オナホ認定されてしまった俺が、恋人に昇進できる可能性はあるか、その答えはノーだ。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語

サトー
BL
スローン王国の第五王子ユリアーネスは内気で自分に自信が持てず第一王子の兄、シリウスからは叱られてばかり。結婚して新しい家庭を築き、城を離れることが唯一の希望であるユリアーネスは兄の親友のミオに自覚のないまま恋をしていた。 ユリアーネスの結婚への思いを知ったミオはプロポーズをするが、それを知った兄シリウスは激昂する。 兄に縛られ続けた受けが結婚し、攻めとゆっくり絆を深めていくお話。 受け ユリアーネス(19)スローン王国第五王子。内気で自分に自信がない。 攻め ミオ(27)産まれてすぐゲンジツという世界からやってきた異世界人。を一途に思っていた。 ※本番行為はないですが実兄→→→→受けへの描写があります。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

優しい騎士の一途な初恋

鳴海
BL
両親を亡くした後、靴屋を継いで一人で暮らしているトーリには幼馴染がいる。五才年下の宿屋の息子、ジョゼフだ。 ジョセフは「恋人になって欲しい」とトーリに告白をし続けている。 しかしトーリはとある理由から、ジョゼフからの告白をずっと断り続けていた。 幼馴染二人が幸せになる話です。

処理中です...