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しおりを挟むそろそろ発情期だからと、引き出しから抑制剤を取り出す。
「あっ、ヤベ! あと、ちょっとしかねぇな……。ん~、明日病院いけるかなぁ」
バイト帰りだと、行きつけの病院には間に合わない。
「あ~、確か……。バイト帰りに病院があったな。そこで貰うか」
ついでに和紗の家にも寄って、タッパー返そう。
♢◆♢
「……どういうことですか?」
「言った通りだよ。君の身体に、男性ホルモンを過剰に分泌させる成分が検出された。これは、故意に取らなきゃこんな成分は出ない。だからオメガであるのに、こんなに身体が大きくなったんだろう。何か、心当たりないかな?」
心当たり? 心当たりなんて……――。
「ま……さか」
医師は、何かを察したようにひとつため息をつき。
「きっと、その薬は医師が調合したものだろう。オメガの身体に異常が出ないものを使われている。その筋肉のついた身体も、身長は変わらなくとも筋力は落ち、オメガらしい見た目になるはずだ。まぁ、アルファが原因なら……。オメガサポートセンターに連絡して、保護してもらいなさい」
スッと紙を差し出された。
そこには、『アルファによるモラハラ、過激な束縛に悩んでいるオメガの救済』といった文字が目に入る。
信じられないといった気持ちと、カッとした怒りで、頭がぐちゃぐちゃだ。
その情緒のまま、病院を出て向かった先は――和紗のアパートだった。
「彰! 今日、バイトじゃ――ッ!?」
満面の笑みでドアから顔を出した和紗に、タッパーをおもいっきり投げつけた。
「てめぇ! この、クソ野郎がっ! どういうつもりだよっ!?」
和紗は、俺の手元――抑制剤が入っている手提げの方に視線を向けた。
「あぁ~……。駄目じゃん、彰……。なんで、他の病院に行ったんだ?」
まるで俺が悪いというように、やれやれと困った顔をする和紗。
そのあり得ない態度に怒りがさらに増す。
「お前……っ!! 俺が、俺が……アルファ達に馬鹿にされて悩んでるの、一体どういう気持ちで聞いてたんだよ!? こんなの、いたずらじゃ済まねぇぞ!」
「くっ、くく……ははははははっ!!」
腹を抱えて笑う和紗を見て、呆然とする。
なんで、笑える? そんなに楽しかったのか……?
全てがまやかしだったのか、和紗の優しさも、全てが……。
今まで和紗と過ごしてきた日常が、黒く塗り潰されていく――。
「……くっそ、苛ついたに決まってるだろ。彰が他のアルファを見る度、俺じゃないアルファに見てもらえないと悲しむ度に……。そのアルファ達を八つ裂きにしてやりたいと、何度思ったか……」
「はっ? か、和紗……? ――ッ!」
和紗に強く睨み付けれ、腕を掴まれて室内に引きずり込まれた。
「お、おい……!」
「俺が彰に告白した時、なに言ったか覚えてる?」
「告白……?」
和紗にいつ告白されたと、記憶を辿るが……思い出せない。
「はははっ! まさか、それすらも覚えてないのか……『運命じゃなくても、運命より大事に出来る』って言った時、『馬鹿じゃん? 運命じゃなきゃ意味ねぇだろ。殆どの奴、そう思ってんじゃね~の? まぁ、運命を振り向かせられねぇなら別だろうけど……』って、彰は言ったんだ」
「…………」
そんなこと、和紗に言った覚えなんて――あ……あった。
「待て、違うからっ! それ、和紗に言ったんじゃねぇ! ってか、いま言われるまで、俺への告白だったなんて知らなかった!」
「……え?」
確か、7年くらい前に『貧乏アルファ、社長令息オメガとの運命ないばら恋』といった人気なドラマがあった。
勿論、簡単には上手くいかせないスパイスのようなものがあって、運命じゃない健気オメガが主人公を狙っていた。
それで、社長令息のオメガにも、実家と取り引きのある大金持ちの幼なじみのアルファが恋敵だった。
多分、それを見終わった時。和紗にそう言われて、ドラマとして運命とくっつかなきゃ視聴者からブーイングの嵐だろ……と思いながら言葉を返したのだ。
「っつかさ、なんでそのタイミング? 見てたドラマのこと話してんのかと思うだろ! 馬っ鹿じゃねぇの?」
「ドラマ……。じゃ、じゃあ……告白、断ったわけじゃないんだ」
期待した顔をする和紗に、ジトリとした目を向け――。
「こんな馬鹿なことした奴と、付き合うかボケーーーッ!!」
そう、7年越しの返事をした。
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