3 / 7
3
しおりを挟む「彰さん、面会要請が来てますが……。どうしますか?」
――職員の人が、俺にそう聞きに来た。
ここは、あの病院から渡された紙に書いてあった保護施設だ。
和紗に告白の断りをして、ダッシュで逃げ出し。直ぐ様、電話をして保護してもらった。
保護されるには十分過ぎるくらいの理由だからか、すぐに迎え入れてくれた。
「いつもの?」
「はい、そうですが……」
「じゃあ、会わない」
『いつもの』で職員に通じるくらい、和紗はずっと面会を要請していた。
何を言いたいのかは知らないが……。謝ったからって簡単に許せるくらい、軽いものじゃない。和紗を信用していたから余計に、裏切られた思いだった。
「かなり、反省しているように見えます。いつも、何時間も待っておられますよ」
「……今日は、どのくらい待つって言ってますか?」
「本日はお仕事が休みだからと、1日待っているとおっしゃられています。せめて一度だけでも……お会いになってはいかがですか?」
「マジかよ、あいつ……」
面会したいと要請を出しても、待つ時間は決められていない。通常、オメガが会わないと言えばアルファは帰るからだ。
アルファはプライドが高く、恥をかくのを嫌う。待ちぼうけなど、オメガに袖にされているアルファに見られてしまうからと、普通ならば即座に帰るはずなのだ。
「はぁ……。分かった、会うよ」
職員の人は、あからさまにホッとした顔をした。和紗にだいぶ同情していたようだ。
「了解してもらえたと伝えてきますね」と小走りで去って行く職員の人に、あいつの外面には騙されるな、と言ってやりたかった。
♢◆♢
「彰っ!」
和紗がこちらに近付こうとして、すぐに職員の人に止められていた。
オメガに無体を働かないよう、職員に監視されながらの面会だからだ。
「……っ、彰……。ごめん、俺が間違ってた。お願いだから、戻って来てくれ……」
寝不足なのか、泣いたのか……。和紗は、目が真っ赤だった。
「戻って来てってさ……。俺、お前の番じゃないし。そんなこと言われても、怖くて戻れねぇよ……」
確かに……。こいつからすれば、俺は酷い振り方をした奴だと思って、ムカついたのかもしれないけど……。今まで薬を盛られてたんだ。
次、また何かされるかもしれないと恐怖を覚えるのは当たり前だろう。
「もし、運命が現れたらどうしようって……。ぽっと出の運命なんかに、彰が取られるって思ったら……自分が抑えられなくなった。本当に、本当に……ごめん、ごめんっ!」
「ちょっ、止めろよっ! 頭あげろって……!」
和紗は人目を憚らずに土下座した。
それを止めさせたくて、和紗に慌てて近づく。
「俺は、別に運命に拘っているわけじゃない。確かに、最近は運命のことをよく言ってたけど。こんなでかく成長しちまったからさ……。もしかしたら運命なら、こんな俺でも受け入れてくれるかもって、思い始めただけで……」
「……彰なら、どんな姿になっても可愛い。彰、愛してる――俺と番になって欲しい」
…………。なんで今、ここで言う?
俺だけじゃなく、周りの職員もポカンとしている。
「お前、空気読めねぇの? そんなオメガにとって一大事なことを、こんな場所で職員の皆に見られながら……。しかも、土下座の格好した奴に言われても、まったくときめかねぇ……」
「なら! ときめくようなシチュエーション作るから、戻って来て欲しい」
「…………」
あれ、こいつ……。まさか、天然?
長い間、幼なじみしてるけど。いつもやることなすことスマートで、出来たアルファな姿しか知らない。
こんな、ハチャメチャな事を言ったりやったりするなんて、なんだか――。
「はははっ! お前、変だ……マジ、変だって……!」
こう思うのは失礼だけど。完璧アルファだと思ってた和紗の欠点を見つけてしまい、非常に面白く思う。
ときめくようなシチュエーションってなんだよとか、それは本人に言ったら意味ないだろとか言いながら、大爆笑してしまった。
すぐに許せないと思っていたのが、そう思うのが馬鹿らしくなってきた。
それに、今思うと……。筋肉ムキムキなオメガになって、馬鹿にされて嫌な思いもしたけど。実は、助けられたことのが多かった。
オメガは、このように助けられるような社会体制にあるが……。それは同時に、助けなければならない状況下にあるということだ。
未だ、オメガを下に見るアルファやベータが多く。性的な被害に遇うオメガは、少なくなかった。
知り合いのオメガで、被害に遭った子を何人も知っている。
だが、俺はそういうのは一切なかった。それは、俺がガタイの良いオメガだからだろう。
当時はかなりキレたが、『間違っても手を出したくない』と直接言われたこともあったくらいだ。
和紗は薬を盛った。やってはならないことだから感謝する必要もないし、非常に傷付いたけど……。
ここまで無事に生きてこられたのは、それのお陰なのかもしれない――。
51
あなたにおすすめの小説
失恋したと思ってたのになぜか失恋相手にプロポーズされた
胡桃めめこ
BL
俺が片思いしていた幼なじみ、セオドアが結婚するらしい。
失恋には新しい恋で解決!有休をとってハッテン場に行ったエレンは、隣に座ったランスロットに酒を飲みながら事情を全て話していた。すると、エレンの片思い相手であり、失恋相手でもあるセオドアがやってきて……?
「俺たち付き合ってたないだろ」
「……本気で言ってるのか?」
不器用すぎてアプローチしても気づかれなかった攻め×叶わない恋を諦めようと他の男抱かれようとした受け
※受けが酔っ払ってるシーンではひらがな表記や子供のような発言をします
雪解けに愛を囁く
ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。
しかしその試験結果は歪められたものだった。
実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。
好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員)
前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。
別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。
小説家になろうでも公開中。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話
屑籠
BL
サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。
彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。
そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。
さらっと読めるようなそんな感じの短編です。
兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語
サトー
BL
スローン王国の第五王子ユリアーネスは内気で自分に自信が持てず第一王子の兄、シリウスからは叱られてばかり。結婚して新しい家庭を築き、城を離れることが唯一の希望であるユリアーネスは兄の親友のミオに自覚のないまま恋をしていた。
ユリアーネスの結婚への思いを知ったミオはプロポーズをするが、それを知った兄シリウスは激昂する。
兄に縛られ続けた受けが結婚し、攻めとゆっくり絆を深めていくお話。
受け ユリアーネス(19)スローン王国第五王子。内気で自分に自信がない。
攻め ミオ(27)産まれてすぐゲンジツという世界からやってきた異世界人。を一途に思っていた。
※本番行為はないですが実兄→→→→受けへの描写があります。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
優しい騎士の一途な初恋
鳴海
BL
両親を亡くした後、靴屋を継いで一人で暮らしているトーリには幼馴染がいる。五才年下の宿屋の息子、ジョゼフだ。
ジョセフは「恋人になって欲しい」とトーリに告白をし続けている。
しかしトーリはとある理由から、ジョゼフからの告白をずっと断り続けていた。
幼馴染二人が幸せになる話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる