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しおりを挟む「彰さん、面会要請が来てますが……。どうしますか?」
――職員の人が、俺にそう聞きに来た。
ここは、あの病院から渡された紙に書いてあった保護施設だ。
和紗に告白の断りをして、ダッシュで逃げ出し。直ぐ様、電話をして保護してもらった。
保護されるには十分過ぎるくらいの理由だからか、すぐに迎え入れてくれた。
「いつもの?」
「はい、そうですが……」
「じゃあ、会わない」
『いつもの』で職員に通じるくらい、和紗はずっと面会を要請していた。
何を言いたいのかは知らないが……。謝ったからって簡単に許せるくらい、軽いものじゃない。和紗を信用していたから余計に、裏切られた思いだった。
「かなり、反省しているように見えます。いつも、何時間も待っておられますよ」
「……今日は、どのくらい待つって言ってますか?」
「本日はお仕事が休みだからと、1日待っているとおっしゃられています。せめて一度だけでも……お会いになってはいかがですか?」
「マジかよ、あいつ……」
面会したいと要請を出しても、待つ時間は決められていない。通常、オメガが会わないと言えばアルファは帰るからだ。
アルファはプライドが高く、恥をかくのを嫌う。待ちぼうけなど、オメガに袖にされているアルファに見られてしまうからと、普通ならば即座に帰るはずなのだ。
「はぁ……。分かった、会うよ」
職員の人は、あからさまにホッとした顔をした。和紗にだいぶ同情していたようだ。
「了解してもらえたと伝えてきますね」と小走りで去って行く職員の人に、あいつの外面には騙されるな、と言ってやりたかった。
♢◆♢
「彰っ!」
和紗がこちらに近付こうとして、すぐに職員の人に止められていた。
オメガに無体を働かないよう、職員に監視されながらの面会だからだ。
「……っ、彰……。ごめん、俺が間違ってた。お願いだから、戻って来てくれ……」
寝不足なのか、泣いたのか……。和紗は、目が真っ赤だった。
「戻って来てってさ……。俺、お前の番じゃないし。そんなこと言われても、怖くて戻れねぇよ……」
確かに……。こいつからすれば、俺は酷い振り方をした奴だと思って、ムカついたのかもしれないけど……。今まで薬を盛られてたんだ。
次、また何かされるかもしれないと恐怖を覚えるのは当たり前だろう。
「もし、運命が現れたらどうしようって……。ぽっと出の運命なんかに、彰が取られるって思ったら……自分が抑えられなくなった。本当に、本当に……ごめん、ごめんっ!」
「ちょっ、止めろよっ! 頭あげろって……!」
和紗は人目を憚らずに土下座した。
それを止めさせたくて、和紗に慌てて近づく。
「俺は、別に運命に拘っているわけじゃない。確かに、最近は運命のことをよく言ってたけど。こんなでかく成長しちまったからさ……。もしかしたら運命なら、こんな俺でも受け入れてくれるかもって、思い始めただけで……」
「……彰なら、どんな姿になっても可愛い。彰、愛してる――俺と番になって欲しい」
…………。なんで今、ここで言う?
俺だけじゃなく、周りの職員もポカンとしている。
「お前、空気読めねぇの? そんなオメガにとって一大事なことを、こんな場所で職員の皆に見られながら……。しかも、土下座の格好した奴に言われても、まったくときめかねぇ……」
「なら! ときめくようなシチュエーション作るから、戻って来て欲しい」
「…………」
あれ、こいつ……。まさか、天然?
長い間、幼なじみしてるけど。いつもやることなすことスマートで、出来たアルファな姿しか知らない。
こんな、ハチャメチャな事を言ったりやったりするなんて、なんだか――。
「はははっ! お前、変だ……マジ、変だって……!」
こう思うのは失礼だけど。完璧アルファだと思ってた和紗の欠点を見つけてしまい、非常に面白く思う。
ときめくようなシチュエーションってなんだよとか、それは本人に言ったら意味ないだろとか言いながら、大爆笑してしまった。
すぐに許せないと思っていたのが、そう思うのが馬鹿らしくなってきた。
それに、今思うと……。筋肉ムキムキなオメガになって、馬鹿にされて嫌な思いもしたけど。実は、助けられたことのが多かった。
オメガは、このように助けられるような社会体制にあるが……。それは同時に、助けなければならない状況下にあるということだ。
未だ、オメガを下に見るアルファやベータが多く。性的な被害に遇うオメガは、少なくなかった。
知り合いのオメガで、被害に遭った子を何人も知っている。
だが、俺はそういうのは一切なかった。それは、俺がガタイの良いオメガだからだろう。
当時はかなりキレたが、『間違っても手を出したくない』と直接言われたこともあったくらいだ。
和紗は薬を盛った。やってはならないことだから感謝する必要もないし、非常に傷付いたけど……。
ここまで無事に生きてこられたのは、それのお陰なのかもしれない――。
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