可哀想な君に

未知 道

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白井 真 4

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 ――篠崎に監禁されてから、一週間ほどが経過した。

 その間に、暴れたり、怒鳴ったり、食事ボイコットしたりしたが。
 篠崎には、爽やかな笑顔で『大丈夫、大丈夫。怖くないよ』と子供を相手にするような態度を取られ、食事は無理やり口移しで流し込んできたりと……むしろ楽しんでいるように見えた。


「はぁ……。クソッ! 腰いてぇ……」

 篠崎は、馬鹿みたいに絶倫だ。最低でも、精を5回は吐き出している。長い時には十数回されるから、こちらはたまったもんじゃない。しかも、毎日かかさずにだ。
 もしかしたら、篠崎と過去に付き合っていた人は、それに耐えきれずに別れたのかも……と篠崎がひどく振られる場面を想像して、今の鬱憤を晴らそうとした。けど、篠崎が振られる場面が想像できない。
 逆に、篠崎が『もう好きじゃなくなったから~』なんて言って、ニコニコ顔で振っている場面が脳裏に浮かび、不快感で顔をしかめた。あり得るからだ。


「あぁ~……。余計、気分悪くなった。止めよ……。もう、寝る。ガチ寝して、ヤるのが申し訳なくなるように仕向けてやる」

 寝る前に、トイレに向かう。鎖は程々に長く、トイレにいけるまではあった。
 この鎖で篠崎を絞め殺してやろうかと思ったのは、一度や二度ではない。でも、そんなことをして、もし此処が篠崎しか分からないプライベートな場所だった場合。俺は、飢え死にするしかないだろう。
 というより、篠崎と一緒の部屋で死ぬなんて嫌だ。


 ――昨日、俺が「こんなことは、いつかバレるからな」と言ったら、篠崎は「行方不明者って、年間に7、8万人くらいいるの知ってる? 大人の場合は、大抵がちゃんと捜査されずにそのままなんだよ。真くんは、誰かに捜索願も出されないだろうし、気付かれないんじゃない? アパートは、僕が解約しといたしね」――なんて言いやがった。

 こんな奴と、死んでからも一緒の空間にいなきゃいけないかもしれないのは、ごめんだ――。



 ♢◆♢



「……え?」

 トイレから戻ると、ベッドの上に人がいた。

「おぉ? へぇ~、やっぱいたんだ。とりま、座れよ」

 金髪で、耳に沢山のピアスを付けているチャラチャラした男が、へらへら笑って手招きしている。

 ジリジリと後ろに下がり、警戒する。
 篠崎が、この男を部屋に呼んだとは思えないからだ。


「ははっ! そんな警戒すんなって。お前にとっては、悪くない話だぞ?」
「……こんな状況で、信じられると思うか?」
「あ~無理か? でも、お前は話を聞くべきだ。今後の為にもな。出たいんだろ? 此処から」

 男は、スッと笑みを引っ込め、俺を見つめてくる。
 この男と会ったのは初めてだが、その顔には見覚えがあった。

「お前……。篠崎と、何か繋がりあるか?」
「あ、やっぱ似てる? 従兄弟なんだよな~。確かに、無表情になると似てるとか言われるからな。……だから、いつも笑うようにしてんだわ」

 その冷たい声に、ゾワリと鳥肌が立つ。それで、理解する。篠崎と、この男は対立している立場にあるのだろうと。

「ま、時間ないから直球に言う。奏多に『全てを捨ててくれるなら、恋人になる』って伝えろ。要するに、お前となら受け入れるということだ」
「……」

(同じようになる……だと? どいつもこいつも、人の事情にずかずかと入り込んで来やがって――)

「そうしたら、然るべき時に、ちゃんとお前を逃がしてやる。ただ、口約束をするだけだ。簡単だろ?」


 再び、へらへら笑った男を、俺は鋭く睨み付けた。


「そんなの、知らねぇ」
「……ふ~ん、嫌だってことか? じゃあ、ずっとこのままでいいってことだな?」
「少なくとも、お前には頼まない。お家事情を他人に任せ、篠崎と面と向かって戦いもしないような弱虫にはな」
「…………」


 男はストンと表情を無くす。


「――成る程。その目か」
「……は?」


 ぐっと男に距離を詰められ、驚く。
 後ろに下がろうとして、足がもつれてしまい、尻餅をついた。


「……ッ! うっ……! いっ……てぇ……」


 ただでさえ、毎晩毎晩、酷使している尻だ。めちゃくちゃ痛い。


「奏多は、やることなすこと何でも出来て、人生イージーで生きている人間だ。だからか、誰にも興味が無く、何にも執着をしなかった。けど、そんな奏多が、依存ともいえる行動を取っているなんて、俺は到底信じられなかったが……」
「……はぁ? なに言って……?」

 狂ったように何やらペラペラと話し始めた男に、愕然とする。

「……そうだ。あいつから奪う方が、一番楽しそうだな」

 男に笑みが戻り、それから手を差し出された。

「俺は、篠崎 三葉みつはだ。さっきは不躾に言って悪かったな。確かにお前の言う通りだ。ま、これも何かの縁。すぐには無理だが、俺が此処から逃がしてやる」
「はぁ? だから、お前には――」
「――……と、ヤバいヤバい! とりま、そういうことで! またな!」
「あっ! ちょっ、勝手に……おいっ!」

 三葉が、バタバタと部屋を去って行き。俺は意味も分からぬまま、ポツンと部屋に残された。

「ってか、手を差し出したの……何だったんだよ」

 結局、未だに尻餅をついたまま、閉まった扉を呆然と見た。


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