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篠崎 三葉 3
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急に、手を誰かに掴まれ。びっくりして、反射的に身体が跳ねる。
「あんまり、そうしてると化膿しちゃうよ?」
いつの間にか来ていた奏多が、血の滴る俺の手の平を掴み、じ~と見ていた。
「は? 化膿……? こんなの、舐めときゃ治るだろ」
「僕も、前はそうだったんだけどね」
奏多は、パッと俺の手を離し。けど、嬉しそうに、何かを撫でるような行動をとっている。
何だ……? と思い。そこに視線を向けると、奏多の手に治療が施されていた。
俺の視線に気付いた奏多が、笑顔を浮かべ――。
「三葉の飼い主が、治療してくれたんだよ」
その包帯の巻かれた手を、ひらりと振る。
(チッ! 奏多にバレたのが痛手だな……)
マコちゃんが、奏多に直接言ったわけではないだろうが……。奏多のことだ、全て分かってしまったのだろう。
こんな似つかわしくない場所や状況で、柔らかな笑みを浮かべる奏多に、イラついてくる。
「へ~へ~、さいですか~。良かったですねぇ」
――でも、奏多が怪我を負うことなんてあるか? と、その包帯の巻いてある手を眺め。
……まさか、上手くいかなかったか? といった考えが過り、サァーと身体が冷える。
「――あ、そういえば。三葉の幼なじみがね、僕の婚約者なんて言って昨日部屋に来たんだけど……あれ、何?」
「…………」
(やはり、鉢合わせしてしまったのか……。じゃあ、計画は知られて、上手くいかなかったってことか――)
小南 奈央子――俺の協力者。
このくそみたいな篠崎家を潰すために、陰から動いてくれている情報に強い人間だ。
俺は事前に、奈央子に言っていた「もし、俺に連絡がつかなくなったら、何かあったと思ってくれ。時間稼ぎはどうにかしてするから、俺との連絡が途絶えた3日後の12時に、計画通りに動いて欲しい。けど、俺の時間稼ぎがない状態なら、直ぐに引き返すんだ」と。
だから、この【犬小屋】に捕らえられ、3日経った昨日の12時に。暴れまくって、奏多をこの部屋に呼び寄せた。
理由は分からないが。今はまだ、奏多は俺を殺すつもりは無いようで。なら、俺が変に死んでは困ると思ったからだ。
本当は、計画を実行するのは、マコちゃんの信頼を得て、確実にこちら側に引き入れてからにしたかったが……。こうなってしまっては、悠長にしてられなかったのだ。
しかし、上手くいかなかったのなら……。奈央子は無事なのだろうかと、心配になる。
それで、俺が『奈央子は、悪くない。全部、俺が計画した』と口に出そうとした時。
奏多はため息をついて「これ、あまりにもムカつくことを言うから、壁なぐってたら傷が出来ちゃったんだ」と、俺が考えたこととは違うことを言葉にする。
「な、なんのことだ?」
だから、疑問をそのまま。奏多に聞いてしまった。
「『なんのことだ』って……? 真くんに、酷い暴言吐いてたんだよ? 幼なじみなら、ちゃんと人格矯正しておいてよ」
「……は?」
(まさか……。まだ、計画のことに気が付いてない?)
奏多を見ても、ただ奈央子の態度ついて怒っているだけのようだ。
確かに、奈央子の優れた『騙し』ならば、奏多も気が付かないかもしれない。
奈央子は、表情、言動、または世間に流れる情報をも騙し、【嘘】を【真実】であるかのようにすげ替えることに優れている。ある意味、奏多と似た才能を持っている。
しかし、奏多のような後ろ楯はない。だから、変にこのことを知られれば、篠崎家に取り込まれてしまう。
けど奈央子は、篠崎家という成り立ちそのものを嫌悪している。もし拒否したなら、恐らくは暗殺対象となるだろう。それ程に、優れた才能なのだ。
きっと、そんな奈央子が俺に『協力する』と言ってくれたのが、最大の幸運であったのだろう。
――俺はへらへらとした、馬鹿にしたような笑みを顔に貼り付ける。
「はははっ! 人格矯正って、まず自分のからした方がいいんじゃねぇ~の? それと、マコちゃんのもな?」
「……まだ、躾が足りないのかな?」
グッと首輪を引かれ、咳き込む。
「それと、真くんに馬鹿みたいなあだ名つけないでくれる? 三葉の『ご主人様』なんだよ?」
「ぐぅッ、ケホッ! はっ、『馬鹿みたいな』って……そんまま、だろうが……! そんな馬鹿が、俺の主人なわけあるかよ……バーカ、クソ食らえ!」
奏多は一度、スッと無表情になり。それから、ニコニコとした満面な笑みになる。
「カハッ! ぐぅ……う……」
強く鎖を持ち上げられ、喉の軌道が締まる。
(そうだ、怒れ。意識をこちらに向けろ)
今、計画がバレたら全て終わりだ。
だから、わざとマコちゃんのことを馬鹿にし、奏多を挑発した。
俺は、白井 真という存在が現れてくれて、心から感謝している。
人間味のない奏多が、唯一。その人間としての感情を揺らすものだからだ。
――そして、奏多の唯一の“弱み”にもなっている。
無理を承知で、マコちゃんから『篠崎の家から手を引け』といったニュアンスを含んだことを奏多に頼ませたかった。マコちゃんの頼みならば、聞くと思ったからだ。
だが、やはり上手くはいかなかった。
ならばと、マコちゃんを俺に惚れさせるなりなんなりして、奏多を精神的に追い込もうかとも考えたが……。マコちゃんは、かなり強敵だった。俺を好きになる気配が、全くない。
奏多の悔しそうな顔を、一度は見てみたかったのにと、残念な気持ちになったものだ。
(俺、顔はいい方だし。人間の感情を扱うのも、熟知してる方なんだけどな~。なんでだろ?)
こんな状況で。そんなどうでもいいことを、ぼんやりと思った。
奏多が、掴んでいた鎖をあっさり離す。
もっと痛みつけられるだろうと考えていたから、驚き。奏多を視界に入れて、更に驚いた。
「そんな必死に、何かを隠したいんだろうけど……。あまり、おいたをしちゃ駄目でしょ?」
いつ、命令していたのだろうか。配下から、消毒液と包帯を受け取り。俺の手を掴んで、治療を始めた。
「ケホッ、ケホッ……! な、何、言って……。つか、何してんだよ……」
「何って、治療だよ。見てわからない? 免疫力が落ちている時に、化膿したら危ないみたいだし。今、三葉はそうだからね」
奏多に、何を当たり前なことを……といったように言葉を返される。
「だから、なんで、そうするか意味分かんねぇって……」
奏多の大事な人に纏わり付く人間なんて、死んだ方がいいはずだ。
「三葉のことは、昔からけっこう気に入ってるからだよ」
「……はっ? な、なんで?」
(気に入ってる? こんな、化け物じみた奴が、俺を……?)
「だって、三葉は小動物をいつも大事にしていたでしょ? 自分のが、直ぐに死んじゃいそうな顔しててさ。それが、哀れでしかたなかったよ。それで、三葉は僕の【可愛い弟】みたいに感じていたんだ。守ってあげなきゃ死んじゃいそうだったからね。だから、お兄ちゃんとして、あの幹部の奴らから助けてあげたんだよ。小さな頃に、色々されてたもんね?」
なんで、俺の幼少期の詳細を知ってるんだというよりも、奏多が『可愛い弟』『幹部の奴らから助けてあげた』と言うのに、血の気が引く。
幹部の奴らは――俺に、虫や小動物を殺すよう積極的に命令をしていた奴らだった。
それを、弟のように可愛いと思っている人のためだからって。目の前で死んでも、顔色一つ変えずにいられるものか?
そうなった原因は、自分なのに……?
それも全て、『お兄ちゃんとして』当たり前にする優しさだというのか――?
「は、はははっ、なんだそれ……? お前の優しさや愛情表現、ぶっ壊れてるわ。じゃあ、なんで……。そんな【可愛い弟】が、今は【飼い犬】になってんだ?」
「……? そんなの、真くんがそう言ったからだよ。僕にとってじゃない。真くんにとって、三葉が犬なら……そうなるでしょ? それに、いくら弟として可愛がってても、やっていいことと悪いことがある。真くんを奪うなら……許さない」
(……家族と恋人の【愛情】が違うって、こういうことか。恋愛の方は冷静でいられない、盲目的になるって本当だったんだな。マコちゃん、こんな奴に好かれて可哀想になぁ……)
「……はっ、俺。女性にしか興味ねぇから」
――でも、マコちゃんの目。あれは、確かに惹きつけられた。
俺は、女性しか恋愛対象にはならないが……。あの目は、純粋に『美しい』と思う。
(なんだか、懐かしさのあるような……――ああ、そうだ。……大切だった『リコちゃん』に似ているのか)
俺は、大切な兎に『リコちゃん』という名を付けていた。
綺麗な真っ直ぐな目。人間のような打算的でない、美しい存在。
だから、知らず知らずのうちに『リコちゃん』に似ているマコちゃんを、似た名で呼び。会いに行くのも、とても楽しみだったのだと気付く。
過去の、あの【苦しい記憶】を塗りつぶしてくれる存在だと思って――。
「ふ~ん、だったらいいけど……。くれぐれも、間違いは起こさないでね? あと、真くんの食事にバイ菌入れたの、会ったらちゃんと謝るんだよ?」
一瞬、それはなんだ……と思って。マコちゃんのご飯を、俺が食べたことを言いたいのだと理解する。
「……バ、バイ菌? 俺、そんな汚くねぇぞ!」
「なに言ってるの? 真くん以外の人間は、汚いよ。三葉だって、そうなんだよ?」
「じゃあ、自分はどうなんだよ!? めちゃくちゃ汚してんだろうが!」
ぜぇぜぇと息が上がる。今、体力が無いというのに、大声を出してしまったせいだろう。
「うん。真くんは、僕だけが汚していいんだ」
「…………」
結局、『真くんは、自分だけのもの』って言いたかったらしい。
ドッと脱力する。
「はぁ……。もう、分かったからさぁ。とりあえず、水と飯……普通にくれねぇ? マジ、死にそう……」
「まだ、躾が終わってないから駄目」
(ほんっと、面倒くせ~奴)
「ほら……。お前にとって、可愛い弟が愛らしくおねだりすればいいか? 『お兄ちゃん、た~くさんご飯ちょーだい!』」
「なんか、気持ち悪いから止めて」
「色々気持ち悪いこと言ってる、お前には言われたくねぇよ!」
――奏多が【犬小屋】から去って行った後に、寄越された食事は。ガッツリとしたスタミナ定食のような食事だった。
久しぶりのちゃんとした食事でだ。
勿論、胃もたれした。
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