14 / 36
白井 真 9
しおりを挟むコンコンといった、軽い音が耳に入る。
「……な、なんだ?」
恐る恐る、その音の方に歩み寄る。
音は、いつも食事が入れられる場所から鳴っているようだ。
(あれ? まだご飯には早くないか……?)
けど、何か理由があり。早く渡したいのかもしれないと、それを受け取りに行く。
けど、一向に食事が入って来ない。
「あの~?」
「ああ、やっと気付いたわね……」
「その声……。あっ! この前の、嘘つきお嬢様?」
あの時に、逃げて行った『奏多の婚約者』だと名乗った女性の声だった。
だいぶ落ち着いて話しているから、別人のようだが。品のある話し方はそのままだったから、ピンときた。
「……ええ、嘘をついたわよ。何もかも……」
凄まじい怒りを含んだ声。その声だけでも、恐ろしい程に激怒しているのが伝わってくる。
あまり深く聞かない方が良さそうだと思い。ここに来た理由を、率直に聞くことにした。
「また、何か言いに来た感じ?」
「違うわ。私は、三葉に頼まれて来たのよ。貴方を助けるためにね」
「え……」
(三葉。ちゃんと、約束を守るつもりあったんだ……)
三葉が訪れなくなり、5日くらい経つ。だから、ただ冷やかしに来ていただけで、やっぱり助けるつもりは微塵もなかったのだと思っていた。
「貴方を助けるのは、数日あれば出来る。これで、その首輪の鍵穴か、鍵自体をスキャンしてスペアキーを作り出せばいいのだから。鍵自体の方が、簡単に読み取りが出来るけれどね」
隙間から、小さなスキャナーのような物を見せられる。
(このドアを開ける鍵……それでスキャンしたってことか? 気付かれないように、よく出来たな。けど……――)
「なんで、三葉はそれを直ぐにしてくれなかったんだ」
簡単に出来るなら、だらだらと訪れず。さっさとしてくれたら良かったのに……と思ってしまう。
「貴方をそこから助けるのは、簡単よ。でも、結局は直ぐに連れ戻されてしまうわ。だから、奏多の勢力をなるべくは削いでからにしたいというのと、貴方の信頼を得てからにしたいとも言っていた。鍵を作ったのに、なかなか助けてくれなかったら不信感を抱くでしょう? だから、その時が来たら行動するつもりだったのよ」
「ああ、なんか……前にそんなこと言われてたかも。でも、信頼……って、なんで?」
「……貴方にも、協力をして欲しくて。私達を、助けて欲しいの……」
何を言われているのか分からなくて、首を捻る。
「助けるって、俺が? 何から……?」
「奏多からよ。三葉は、奏多に捕まったのよ……」
俺が、その言われたことに驚いていると。女性は「だから……」と沈んだ声で言い――。
「私は、三葉を助けたい。お願い、力を貸して……!」
本当に懇願している、悲痛に叫ぶような声だった。
「……え? なに、話が読めないんだけど?」
女性は、声を詰まらせながらも――篠崎家の全貌を話し出した。
♢◆♢
「――俺に『篠崎 奏多を殺せ』って?」
残酷な、篠崎家の成り立ちを伝えられ。
女性――小南 奈央子に「この連鎖を断ち切るには、篠崎 奏多を殺すしかない」と、そうするようお願いをされた。
そうしたら直ぐに「この部屋から解放してあげる」とも……。
確かに『篠崎を殺したい』と思ったのは、一度や二度ではない。
けど、あくまで思ったのはだ。
心の中であれば、どんなことだって無責任に思うことが出来る。
けど、実際には出来ない。その罪の重さに耐えられず。いずれ、自分の気が狂ってしまうのが分かるからだ。
「貴方も、酷いことを沢山されてきたでしょう? 大丈夫。罪に問われないよう、しっかりと隠蔽はするわ。お願い、貴方しか出来ないの。お願い、お願いよ。私達を、三葉を助けて……!」
聞く人全てが『助けてあげたい』と思ってしまうような、悲しみを湛える声――。
俺は、それに顔をしかめ――「いや、無理だろ」と、小南の懇願を拒否した。
「――え?」
「嫌に決まってるだろ。馬鹿か? 簡単に『殺せ』とかさ……無理だろ」
「え、あ……え? ど、どうして……?」
小南は、断られたのが信じられないといった、動揺しているような声を上げている。
その動揺するのが理解出来ない。なんで、『断られない』なんて考えたんだろうか。普通は、こんな申し出……真っ当な理由があっても断るだろう。
人を殺す、なんてことは。断らなければならない。
「じゃあ、言わせてもらうけどさ。その『殺せ』とか『隠蔽』とか――あんたらが嫌悪する【篠崎家】と何が違うんだ? やり方が、全く一緒じゃねぇか。その潰したいくらいに大嫌いな【篠崎家】と」
「――ッ」
暫く、言葉になっていない「あ……」「う……」といった声が聞こえ。
そして「じゃあ、どうしろっていうのよ……」と、ボソリと呟かれた。
先程までの声色ではない、高めな少女らしい声。
もしかしたら、これが素であるのかもしれないな……と感じる。
「どうしろ……? 違うやり方はないのかよ?」
「違うやり方は、三葉が最初に言ったでしょ! あんたが、あのキチガイを受け入れて、お願いすればいいの!」
(キチガイって……その通りだけどさ。イメージチェンジに追い付かねぇ)
小南は、ぷりぷりと逆ギレを始めた。初めの、お嬢様キャラの影すらない。
「受け入れるは置いといて。俺がお願いして……聞くとは思わないけど?」
「置かないでよ、そこが大事なんだから! 私の見立てによると。あのキチガイは、貴方のためなら死ねるくらいの愛情を持っている。なら、『愛してる! 全てを捨ててくれ。俺と駆け落ちしよう!』なんて言えば、簡単に叶えるでしょうね」
(そんな、馬鹿な……)
言われた言葉に、唖然とする。
というより、なんでこんなことに一般市民の俺が巻き込まれてんだろうと……。小南に言われた言葉の数々が、グルグルと頭に回り。気分が悪くなってきた。
「あっ、そろそろ時間が……! 一先ず、このスキャナーを渡すから、首輪の鍵穴に当ててスキャンして! 取っ手にあるボタンを押せば出来るから」
けど、スキャナーは狭い穴にガチャガチャと引っ掛かって、なかなか入ってこない。
「チッ! ここ狭いじゃないの、ムカつくわね……! どうせあいつに顔バレしたし、室内に入って……でも、三葉がそう言ったから……」
小南は、何かを小声でブツブツと言い。一体なにを言っているんだと耳を澄ますけど、よく分からなかった。
そうしている内に、スキャナーが隙間に入ってきた。
これは断ることではないからと、言われるままボタンを押して鍵穴をスキャンする。少し時間がかかったが、無事にスキャンが完了した。
そのスキャナーを返そうとしたが。確かに、上手く入らない……。小南が「早く、早く!」と急かすから、余計に焦る。
押し込むようにして、漸く返せたけど。小南は俺に一言もなく、慌てたように小さなドアをバタンと閉め、鍵も掛けた。
(な、なんだよ……自分が言いたいことだけ言って……)
俺に、モヤモヤとした感情を置き土産にして。小南は、嵐のように去って行った。
27
あなたにおすすめの小説
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
気づいたらスパダリの部屋で繭になってた話
米山のら
BL
鎌倉で静かにリモート生活を送る俺は、極度のあがり症。
子どものころ高い声をからかわれたトラウマが原因で、人と話すのが苦手だ。
そんな俺が、月に一度の出社日に出会ったのは、仕事も見た目も完璧なのに、なぜか異常に距離が近い謎のスパダリ。
気づけば荷物ごとドナドナされて、たどり着いたのは最上階の部屋。
「おいで」
……その優しさ、むしろ怖いんですけど!?
これは、殻に閉じこもっていた俺が、“繭”という名の執着にじわじわと絡め取られていく話。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる