【本編・改稿版】来世でも一緒に

霜月

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第14話

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 衝撃の舞踏会から早くも二ヵ月ほど経ち、季節は春から夏へと移り変ろうとしていた。

 閣下は、あれから一度だけ侯爵家へ挨拶に来られた。もちろん私もお会いしたが、その際も無表情で、どちらかというと素っ気ない態度だった。

 望まれた婚約だというのはやはり気のせいだったかと寂しい気持ちにもなったが、まぁ結局は、それこそ想像していた通りな訳で。
 相手がどんな人であれ粛々しゅくしゅくと嫁いでいく。それが私の務めであることに変わりはないと、私は思いを新たにした。

 そして今日、私は花嫁修行の為にガルシア大公の屋敷へと移る。

 結婚式は来年の初夏、つまりはちょうど今頃に行われる予定だ。準備期間は一年取れるかどうか、というところであった。

(式までに、少しは閣下と打ち解けられるといいのだけれど……)

 迎えの馬車の中、身を揺られながらそう思う。

 今日も閣下は迎えに来られないらしい。仕事があるのだと、謝罪の手紙が事前に届いていた。
 その手紙を読んだ父と母と弟、そしてアンナやマクシムまでが怖い顔をしていて、閣下はお忙しい方なのだからと、何故か私がなだめてまわったものだ。

(というか、私、歓迎してもらえるのかしら?)

 打ち解けなければならないのは、なにも閣下だけではない。

(緊張する……。でも、頑張らないと)

 最初が肝心なのだと軽く頬を叩いて気合いを入れると、私は窓の外へと視線を移した。


 ガルシア公の屋敷は王都の一等地に建っていた。
 敷地は広く、門を通り、屋敷の前まで馬車で進む。

 馬車がゆっくりと止まった。御者ぎょしゃが到着したことを教えてくれる。すると外から扉が開き、その先に、執事服を着た一人の男性が待っていた。

 男性にエスコートをされて馬車を降りる。
 外には、その男性の他に、30代後半ぐらいと思われるメイド服の女性と、私と同じくらいの年齢と思われる、同じくメイド服を着た女性が立っていた。

 視線で誰かと問う。

「ようこそおいでくださいました、マリアンヌ様。私の名前はジルベール。ジルとお呼びください。この家の執事を務めさせていただいております」

 男性が自身の胸に手を当てながらそう答えた。

「そして、こちらがソフィ。この屋敷のメイド長でございます。その隣がサラと申しまして、マリアンヌ様付きのメイドとなります」

 続けてあとの二人も紹介してもらう。

「本日より私どもが精一杯お世話させていただきますので、どうぞよろしくお願い致します」

 最後にジルがそうくくると、三人は揃って頭を下げた。

「ジルに、ソフィに、サラね。私がマリアンヌよ。こちらこそ、これからよろしくね」

 私もそう言って笑顔で少し首を傾げる。すると三人も笑顔になり、私たちの間には緊張の解けた空気が流れた。

 ジルが屋敷の方へと手を差し出す。

「それでは中へご案内致します」

 三人に付き添われ、私は、これから暮らす事になる屋敷の中へと足を踏み入れた。



 *



「まぁ!」

 玄関を抜けた先のホールには、多くのメイドやフットマンが整列して待っていた。

「マリアンヌ様、ようこそおいでくださいました。貴女様がお越しになることを、我々一同、心よりお待ち申し上げておりました」

 手前の一人がそう言うと、皆が一同に頭を下げた。
 言葉だけでなく、空気も温かい。とりあえず歓迎してもらえているようだとホッとした。

「みんな顔を上げてちょうだい」

 そう声をかけ、全員が顔を上げきったところで、もう一度しっかりと皆の顔を見回す。

「マリアンヌよ。これからこちらでお世話になるわ。どうぞよろしくね」

 笑顔で伝えると、ゆっくりと、私も頭を下げた。
 これからここに居る皆が私の家族になるのだと思った。礼儀をもって大切にしていかなければならない。

 そうして挨拶が終わると、私はサラに私室となる部屋へと案内されたのだった。



 *



 サラが扉を開ける。

「結婚式を迎えられましたら、旦那様のお部屋の近くへと移っていただくことになります。今はまだ準備中でございまして、なので、婚約期間中はこちらのお部屋をお使い下さい」

 通された部屋は、パステルイエローと白を基調とした、日差しが程よく入る明るい部屋だった。

 部屋の奥には天蓋付きのベッドと、その側にドレッサー。手前にはテーブルと、それを挟むように二人掛けのソファが二つ置いてある。壁には三つのドアがあり、それぞれが、バスルーム、トイレ、衣装部屋へと続いていた。

 一通り見せてもらうと、ソファへと案内される。私が横になっても十分に余裕がある程の大きさのソファだ。腰を落とせば、ふかふかだが柔らか過ぎず、抜群の座り心地だった。

(ここで寝ても気持ちよさそう)

 そんなことを考えていると、サラが紅茶を淹れてくれた。

 一口飲んで、一息つく。

「お疲れになったのではないですか?」

 その声に顔を上げれば、笑顔ながらも心配そうな顔をしたサラと目が合った。その眉を下げたサラの様子に、ふっと笑みが零れる。彼女とは仲良くしていきたいと思った。

「少し緊張して疲れたけれど。大丈夫よ」

「旦那様に言われまして、出来る限りご用意させて頂きました。まだ足りない物等ありましたら、すぐにおっしゃってくださいませね」

「うーん、今のところは無いと思うけれど。そうね、何かあったらすぐに言うわ。ありがとう」

「いいえ」

 再度一口紅茶を飲んでから、改めてサラを見る。

 サラは明るめのブラウンの髪に、ダークグリーンの瞳をした可愛らしい女性だった。歳は私と同じくらいだと思うが……。

「ねぇ、サラ、あなた歳はいくつ?」

「私は今年20になります」

「ということは、私の二つ上ね」

「はい。マリアンヌ様付きのメイドが選ばれる際、旦那様が、マリアンヌ様と歳が近い者がいいだろうっておっしゃられまして、私が選ばれたんですよ」

「そうなの?」

「ええ。マリアンヌ様が寂しい思いをされないようにと、歳が近いほうが色々と話が出来るだろうからとおっしゃってました。こちらのお部屋も、マリアンヌ様に気に入っていただけるように、屋敷のメイド達に女性の好みそうな色や家具などを聞いて回られて、急いでご用意されたんです」

「……まぁ。アレクサンドル様がそんな事を?」

 正直、意外だ。

「はい。私は二年前、旦那様が大公の爵位を得られ、この屋敷へ移られた時からこちらで働かせて頂いております。でも、あの様な旦那様は初めて見ましたわ。マリアンヌ様のことを、とても大事に思われているようですね」

 とびきりのサラの笑顔に、驚きが増す。

(私の事を……? 大事に……?)

 それにしては、余りにも素っ気なさ過ぎではないだろうか? 

 閣下の人柄がいまいち掴みきれない。

(……まぁ、お会いした事も、言葉を交わした事もまだ二回しかないのだから当然だわね。……今日、閣下が帰ってこられたら、もう少しお話が出来るといいのだけれど)

 そう考えながら、私はもう一口紅茶を飲んだのだった。
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