38 / 45
第4章 記憶の裏手にひそむ影
第9話 型を刻んだ者
しおりを挟む
「……刻んだ本人を消す、ってどうやって?」
結衣の問いに、森は短く答えた。
「“二度目”を踏ませて、その上で型を壊す」
「じゃあ……あのストーカーを探すしかないってこと?」水沢の声は硬い。
「いや、もう奴は半分向こう側だ。人間としての足はほとんど残ってない」森は淡々と言う。
「じゃあ無理じゃん!」結衣が声を荒げる。
翔は二人のやり取りを聞きながら、脳裏に昨夜の影を思い出していた。
柱の陰に立ち、気づいたときには消えていたあの姿——あれが、刻んだ本人だとしたら。
「……待てよ。そもそも“本人”って……最初に型を作ったのは、あのストーカーじゃないかもしれない」翔の言葉に、場が静まる。
「どういうこと?」水沢が眉をひそめる。
「型は古い。何十年も前からあったはずだ。なら……」
森が続けた。
「……刻んだのは、この館に最初からいる“別の何か”かもしれない」
沈黙を破ったのは、廊下の奥から響く足音だった。
一度目——間を置いて、二度目。
それが三度、四度と続く。まるで、こちらの会話をなぞるかのように。
「来る……」水沢が息を呑む。
森は即座に指示を飛ばした。
「奥の回廊へ回れ! 踏み跡を避けろ!」
全員が壁沿いに駆ける。黒い板の間をすり抜け、古びた階段を上る。
二階の廊下に出ると、空気が重くなった。
そこにも黒い踏み跡が点在している。
だが、その奥に——影が立っていた。
背は高く、異様に長い手足。顔は靄に隠れて見えない。
しかし、その歩き方は異常なまでに整っていた。まさに“型”そのもの。
「……お前か」森の声が低く響く。
影は一歩踏み出し、一度目の足音を響かせた。
間をおいて、同じ場所で二度目。
その瞬間、床の板が黒く染まり始める。
「下がれ!」翔が結衣を引く。
だが影は止まらない。正確な間隔で踏み、踏み、踏み——足音が館全体を包み込んでいく。
「森、これ……どうするんだ!」翔が叫ぶ。
「……型を崩す!」森は腰のナイフを構え、影の足元に飛び込む。
しかし次の瞬間、影の足が板を踏み抜き、黒い水のようなものが溢れ出した。
それは生き物のように森の腕に絡みつき、引きずり込もうとする。
「森さん!」結衣が悲鳴を上げる。
翔と水沢が同時に腕を掴み、引き戻す。
影はわずかに首を傾け、まるで笑ったかのように二度目の足音を響かせた——
そして、靄の奥へと消えた。
残されたのは、深く沈んだ黒い踏み跡だけ。
「……今のが、型を刻んだ本人だ」森の声は低かった。
「次は……必ず仕留める」
結衣の問いに、森は短く答えた。
「“二度目”を踏ませて、その上で型を壊す」
「じゃあ……あのストーカーを探すしかないってこと?」水沢の声は硬い。
「いや、もう奴は半分向こう側だ。人間としての足はほとんど残ってない」森は淡々と言う。
「じゃあ無理じゃん!」結衣が声を荒げる。
翔は二人のやり取りを聞きながら、脳裏に昨夜の影を思い出していた。
柱の陰に立ち、気づいたときには消えていたあの姿——あれが、刻んだ本人だとしたら。
「……待てよ。そもそも“本人”って……最初に型を作ったのは、あのストーカーじゃないかもしれない」翔の言葉に、場が静まる。
「どういうこと?」水沢が眉をひそめる。
「型は古い。何十年も前からあったはずだ。なら……」
森が続けた。
「……刻んだのは、この館に最初からいる“別の何か”かもしれない」
沈黙を破ったのは、廊下の奥から響く足音だった。
一度目——間を置いて、二度目。
それが三度、四度と続く。まるで、こちらの会話をなぞるかのように。
「来る……」水沢が息を呑む。
森は即座に指示を飛ばした。
「奥の回廊へ回れ! 踏み跡を避けろ!」
全員が壁沿いに駆ける。黒い板の間をすり抜け、古びた階段を上る。
二階の廊下に出ると、空気が重くなった。
そこにも黒い踏み跡が点在している。
だが、その奥に——影が立っていた。
背は高く、異様に長い手足。顔は靄に隠れて見えない。
しかし、その歩き方は異常なまでに整っていた。まさに“型”そのもの。
「……お前か」森の声が低く響く。
影は一歩踏み出し、一度目の足音を響かせた。
間をおいて、同じ場所で二度目。
その瞬間、床の板が黒く染まり始める。
「下がれ!」翔が結衣を引く。
だが影は止まらない。正確な間隔で踏み、踏み、踏み——足音が館全体を包み込んでいく。
「森、これ……どうするんだ!」翔が叫ぶ。
「……型を崩す!」森は腰のナイフを構え、影の足元に飛び込む。
しかし次の瞬間、影の足が板を踏み抜き、黒い水のようなものが溢れ出した。
それは生き物のように森の腕に絡みつき、引きずり込もうとする。
「森さん!」結衣が悲鳴を上げる。
翔と水沢が同時に腕を掴み、引き戻す。
影はわずかに首を傾け、まるで笑ったかのように二度目の足音を響かせた——
そして、靄の奥へと消えた。
残されたのは、深く沈んだ黒い踏み跡だけ。
「……今のが、型を刻んだ本人だ」森の声は低かった。
「次は……必ず仕留める」
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。
子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。
――彼女が現れるまでは。
二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。
それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私の優しいお父さん
有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。
少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。
昔、私に何があったんだろう。
お母さんは、どうしちゃったんだろう。
お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。
いつか、思い出す日が来るのかな。
思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる