蒼月館の招待状

天音 翔杜

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第4章 記憶の裏手にひそむ影

第9話 型を刻んだ者

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「……刻んだ本人を消す、ってどうやって?」
 結衣の問いに、森は短く答えた。
「“二度目”を踏ませて、その上で型を壊す」

「じゃあ……あのストーカーを探すしかないってこと?」水沢の声は硬い。
「いや、もう奴は半分向こう側だ。人間としての足はほとんど残ってない」森は淡々と言う。
「じゃあ無理じゃん!」結衣が声を荒げる。
 翔は二人のやり取りを聞きながら、脳裏に昨夜の影を思い出していた。
 柱の陰に立ち、気づいたときには消えていたあの姿——あれが、刻んだ本人だとしたら。

「……待てよ。そもそも“本人”って……最初に型を作ったのは、あのストーカーじゃないかもしれない」翔の言葉に、場が静まる。
「どういうこと?」水沢が眉をひそめる。
「型は古い。何十年も前からあったはずだ。なら……」
 森が続けた。
「……刻んだのは、この館に最初からいる“別の何か”かもしれない」

 沈黙を破ったのは、廊下の奥から響く足音だった。
 一度目——間を置いて、二度目。
 それが三度、四度と続く。まるで、こちらの会話をなぞるかのように。

「来る……」水沢が息を呑む。
 森は即座に指示を飛ばした。
「奥の回廊へ回れ! 踏み跡を避けろ!」
 全員が壁沿いに駆ける。黒い板の間をすり抜け、古びた階段を上る。

 二階の廊下に出ると、空気が重くなった。
 そこにも黒い踏み跡が点在している。
 だが、その奥に——影が立っていた。
 背は高く、異様に長い手足。顔は靄に隠れて見えない。
 しかし、その歩き方は異常なまでに整っていた。まさに“型”そのもの。

「……お前か」森の声が低く響く。
 影は一歩踏み出し、一度目の足音を響かせた。
 間をおいて、同じ場所で二度目。
 その瞬間、床の板が黒く染まり始める。

「下がれ!」翔が結衣を引く。
 だが影は止まらない。正確な間隔で踏み、踏み、踏み——足音が館全体を包み込んでいく。

「森、これ……どうするんだ!」翔が叫ぶ。
「……型を崩す!」森は腰のナイフを構え、影の足元に飛び込む。
 しかし次の瞬間、影の足が板を踏み抜き、黒い水のようなものが溢れ出した。
 それは生き物のように森の腕に絡みつき、引きずり込もうとする。

「森さん!」結衣が悲鳴を上げる。
 翔と水沢が同時に腕を掴み、引き戻す。
 影はわずかに首を傾け、まるで笑ったかのように二度目の足音を響かせた——

 そして、靄の奥へと消えた。
 残されたのは、深く沈んだ黒い踏み跡だけ。

「……今のが、型を刻んだ本人だ」森の声は低かった。
「次は……必ず仕留める」
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