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第5章 巡りの外
第2話 境界
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西棟の奥へ続く廊下は、昼間のはずなのに妙に薄暗かった。
窓はすべて曇りガラスで覆われ、外の光は鈍く滲んでいる。壁に掛けられた古い額縁の絵は、誰の顔かも判別できないほど色が落ち、額の隙間からは黒い埃がこぼれ落ちていた。
翔は前を行く森の背を見つめながら、足音をできるだけ殺して歩いた。
背後では水沢が何度も靴底を確かめるように足元を見ている。そのたびに、あの黒い染みが微かに脈打つ。
「この先が……吊り橋?」結衣が小声で問う。
森は振り返らず、「ああ」とだけ答えた。
短い返事だったが、その声には奇妙な硬さがあった。
「なんで、この館に吊り橋が?」翔が重ねて訊く。
森はわずかに間を置き、「……昔からある」と言ったきり、口を閉ざす。
その沈黙が、やけに長く感じられた。
何かを隠している。そんな気配が、森だけでなく、後ろを歩く水沢や涼太郎夫妻にも漂っている。
彼らは決して互いの目を見ようとしない。視線が交わる寸前、必ず逸らす——まるで、そこに自分の罪を映したくないかのように。
やがて廊下の突き当たりに、木製の扉が現れた。
森が押し開けると、冷たい霧が流れ込んできた。
外には、切り立った崖と、その向こうへ細く伸びる吊り橋が見えた。
板は所々欠け、縄の手すりは風に揺れ、かすかに軋む音を立てている。
「ここを渡れば……?」結衣が息を呑む。
「巡りの外だ。ただし——」森はそこで言葉を切り、橋の向こうの霧を見据えた。
「向こう側には何があるか、誰にも分からん。生きて戻った奴はいない」
その瞬間、霧の中から微かな足音が響いた。
一度、間をおいて、もう一度。
それは、廊下で水沢が語った“二度目の足音”とまったく同じリズムだった。
涼太郎夫妻が顔をこわばらせ、同時に視線を落とした。
翔は、その様子を見逃さなかった——まるで、その音に聞き覚えがある者の反応のように。
窓はすべて曇りガラスで覆われ、外の光は鈍く滲んでいる。壁に掛けられた古い額縁の絵は、誰の顔かも判別できないほど色が落ち、額の隙間からは黒い埃がこぼれ落ちていた。
翔は前を行く森の背を見つめながら、足音をできるだけ殺して歩いた。
背後では水沢が何度も靴底を確かめるように足元を見ている。そのたびに、あの黒い染みが微かに脈打つ。
「この先が……吊り橋?」結衣が小声で問う。
森は振り返らず、「ああ」とだけ答えた。
短い返事だったが、その声には奇妙な硬さがあった。
「なんで、この館に吊り橋が?」翔が重ねて訊く。
森はわずかに間を置き、「……昔からある」と言ったきり、口を閉ざす。
その沈黙が、やけに長く感じられた。
何かを隠している。そんな気配が、森だけでなく、後ろを歩く水沢や涼太郎夫妻にも漂っている。
彼らは決して互いの目を見ようとしない。視線が交わる寸前、必ず逸らす——まるで、そこに自分の罪を映したくないかのように。
やがて廊下の突き当たりに、木製の扉が現れた。
森が押し開けると、冷たい霧が流れ込んできた。
外には、切り立った崖と、その向こうへ細く伸びる吊り橋が見えた。
板は所々欠け、縄の手すりは風に揺れ、かすかに軋む音を立てている。
「ここを渡れば……?」結衣が息を呑む。
「巡りの外だ。ただし——」森はそこで言葉を切り、橋の向こうの霧を見据えた。
「向こう側には何があるか、誰にも分からん。生きて戻った奴はいない」
その瞬間、霧の中から微かな足音が響いた。
一度、間をおいて、もう一度。
それは、廊下で水沢が語った“二度目の足音”とまったく同じリズムだった。
涼太郎夫妻が顔をこわばらせ、同時に視線を落とした。
翔は、その様子を見逃さなかった——まるで、その音に聞き覚えがある者の反応のように。
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