花はももとせ 汝はちよに

藤雪たすく

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燃える命(悪魔視点)

偵察

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散々考え抜いたあげく、とりあえずリーンシェントの体に入ったアヴィンディドールの様子を見に行く事にした。

主の側に居た所でやる事は特に無いし、寝てばかりの主から願望を読み取る事は出来ない。

アヴィンディドールの体に入ったリーンシェントの様子を見に行った方が収穫がありそうだとは思ったのだが……探ったところ、早々に神力を取り戻しつつある。

長い事、半神の奴らを見張ってきたが、獣から懐かれても神力が宿るなんて初めて知った。

もう一度向き合ったら今度は浄化されかねない、やっぱりあれは要注意だ。

さすがに昼間は目立つので夜に紛れて移動を始める。

幸いにも今夜は他の悪魔がラグゾニアの元を訪れている様なので、リーンシェントの国を取り囲むラグゾニアに気付かれずにリーンシェントの国へと入り込む事が出来た……ラグゾニアの元へ向かった悪魔は殺されるだろうが、我の知った事ではない。
同胞ではあるが、魂を狩るライバルでもある。

我はアヴィンディドールが契約した悪魔を吸収したから、その契約を引き継ぎアヴィンディドールの魂は既に我の物であり、半神の魂を狩りとった実績は確約済み……ただ今のままでは悪魔界に帰る事が出来ぬので位を上げる事が出来ない。

何か主の機嫌を取る良い情報は無いものか……黒猫に姿を変えてリーンシェントの屋敷へと入り込んだ。

主の家ともアヴィンディドールの家とも違う変わった家だな……質素と言うか、貧乏くさいと言うか……。

何かが割れる音が響いて、音の聞こえた方へ駆けた。

「煩い!!俺に指図するな!!お前は俺の側近だろう!!側近なら大人しく俺の言う事を聞いてろ!!」

どうやらリーンシェントが癇癪を起こし物を投げて喚き散らしている様だ。

穏やかな豊穣神と呼ばれたリーンシェントを名乗るにはなかなか無理があるのではなかろうか。

「……わかりました。ですが、今日は雨を降らせております。けしてご無理をなさらぬ様にお願いいたします」

「くどい。早く女を連れて来い」

主の付き添いで天上神殿を訪れた時に本物のリーンシェントを見たけれど……まるで別人だな。

清楚な空気を身に纏い、清廉な神の風格は微塵も無く、着崩した姿でベッドに横たわる姿、美しいリーンシェントの肢体は艶めかしく……幼さとのアンバランスが危うい色香を放っている。

良いねぇ……実に悪魔好みだ。

命令を受けていた側近を追いかけた。
屋敷で働く女達を集めて何かを話している。

「リーンシェント様のご様子がおかしい……誰か心当たりのある者はいないか?」

「……リーンシェント様……やはりもう……」

まるで葬式の様な暗い空気でさめざめと泣く女達。

「滅多な事を口にするな!!」

「ですが……今まで嫁を取らなかったリーンシェント様がこんな事を急に仰るなんて……私達の為に自分の子種を遺そうとしているのでは無いのでしょうか?」

随分と都合良く、好意的に捉えられている様だ。
中身があの悪評高いアヴィンディドールに変わっているとは全く気が付いていないようだな。

「遺される子を思いその様な無責任な事をなさるとは思えないのだが……リーンシェント様にはリーンシェント様のお考えがあるのだろう。誰かリーンシェント様の夜伽のお相手を受けてくれる者はいるか?」

女達は皆、挙手をした。
大した人気だな。アヴィンディドールとは大違い、逆の意味でなかなか決まらなかったが、漸く今夜の相手が決まった様だ。

「リーンシェント様は少し心が不安定になっておられる……ご無理をなさらぬように気をつけてやってくれ」

側近に連れられて寝室に向かう女の背中を見送った。

性行為など、どれも似たようなものだし、この間に屋敷の中を捜索させてもらうか……。

「きゃあぁぁぁっ!!トリフェン様!!リーンシェント様がっ!!」

急に慌ただしくなる屋敷内、バタバタと行き交う人々の間をぬって寝室へ忍び込んだ。
ベッドの上で胸を抑えて苦しむリーンシェント……毒でも盛られたのかと思ったが……そういう空気でも無い。

「くそっ!!女……お前、俺に何をしやがった……トリフェン!!早くその女を捕まえろ!!」

「今は、それよりも早くお薬を!!」

苦しみ悶えるリーンシェントを抱き起こした側近が薬を飲ませようとするが暴れるリーンシェントはその薬を払いどけた。

「くそっ!!くそっ!!何なんだよ!!胸が痛えんだよっ!!早く俺を助けろ!!」

リーンシェントの手が光り、自分に回復術を使おうとしたようだが、リーンシェントは更に苦しみだした。

集まってきた男達がリーンシェントの体をベッドに押さえつけると側近が無理やり口を開かせ薬を押し込んだ。

何の薬を飲ませたのかまでは分からなかったが……激しかった呼吸が次第に落ち着き、いつの間にか気を失っていたらしくリーンシェントは寝息を立て始め……側近や使用人達は皆、安心した様にその場に座り込んだ。

「トリフェン様……リーンシェント様は……」

「……何かが起こっても我々はリーンシェント様をお守りする。それだけだ……」

……何が起こったのか分からないが、リーンシェントには何か秘密がありそうだ。

アヴィンディドールの事なら取り込んだ悪魔の持っていた情報と筒抜けな単純な思考が読めるのだが……側近の頭を読んでみようとして、遮られた。

何かが邪魔をしている……この場に居なくても、記憶を無くしていても未だに自分の元部下を守護しようとしているのか?

忌々しい気配は側近の付けている腕輪から感じる……神樹か。本当に厄介なガキだ。

側近は止めて、伽の相手をしようとしていた女の思考を読むと……どうやらリーンシェントは体が弱く、神力は多いが術を使うのに体がついていかないようで術を使う度に激しい苦しみを負うらしい。
激しく体を動かす事も、食事も限られている……アヴィンディドールがそれを知っていたか定かではないが……愚か者だな。

魂を捧げ悪魔と契約し、自ら死期を早めただけとは……。

ーーーーーー

早速我は主に報告へ向かった。

「ああ……あいつの体はもう長くないだろうな」

……知っていたのか。

「それで?その情報が何なんだ?」

何だと言われてもな、リーンシェントの情報なら……『リーンシェントの命を助ける為に動かなければ』等とほざいて喜ぶかと思ったのだが……だがリーンシェントの国へ忍び込んだ事を叱られなかったという事は間違ってはいないのか?

もう少し観察を続けておくか……。
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