花はももとせ 汝はちよに

藤雪たすく

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燃える命(悪魔視点)

風の導き(ルーンヴェイン視点)

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神樹プラタナシア。

かつて地上にもその恵みをもたらしていた神樹も創造神のちが薄まり神力も薄れてきた今では天上神殿に一本残るだけとなっていた。その樹もすでに朽ち果てようとしていた……。

風に誘われた。
風が救いを求める様に俺の背中を押す。

神樹プラタナシアの根元に小さな塊がうずくまっている。あれを助けるためにプラタナシアが俺を呼んだのか。
駆け寄り、抱き起こしてみると……風が止まる。
風の属性を持つ俺の周囲ではいつも風が吹いていて、こんな事は初めての事だった。

幼い体……銀色の髪に真っ白な肌……いや、白過ぎる。
小さな口は、薄く開いているが息をしていなかった。

聞き覚えがある……幼いながらに水と土の属性を持ち、すでに豊穣の神と呼ばれるリーンシェント。
プラタナシアから神術の気配がする温かく、優しいく包み込んでくれる様な神力……この幼い神はまさか神樹を復活させようとしていたのだろうか?
自らの命をかけて……。

俺たち神の力を受け継いだ半神を産んだ人間の女には神から神樹の実を与えられる。
一つ食べれば100年間は歳をとらない。半神を育てるため、また次の半神を産む為に寿命を伸ばされるが、力を失いつつある神樹プラタナシアに実を育てる力は残っていなかった。

数十年前に一つだけつけた実は、数日先に生まれたアヴィンディドールの母親に与えられた……賤しくもその実はアヴィンディドールが食べてしまい一時騒ぎになっていたが……リーンシェント、母親に実を食べさせるたいと思ったか。

小さな遺体を抱き上げた。

固く閉じられた瞳、目尻には涙が浮かんでいる。

神樹プラタナシアよ……俺を買いかぶりすぎだろう。

小さな唇に唇を重ねると力強く風を送り込んだ。

戻って来い……リーンシェント。
この固く閉じられた瞳が開くところがみたい。優しく柔らかな神術の名残り、こんなに綺麗な神力を持つ者の瞳はどれだけ綺麗なんだろう。その開いた瞳で俺を見て欲しいと思った。

その瞳が開くまで、自分の神力を風に乗せながら、何度も何度もリーンシェントの体に風を送り続けていると……小さな手が俺の服を掴んだ。

唇を離して、その顔を伺うと瞼が微かに動いている。

「待ってろ、水を持ってきてやる」

結構な量の神力を譲り渡してしまった様だ、ふらつく体で水を探す。
小川にたどり着いたが、器を持っていないことに気が付き器を探した。

そうしてやっと神樹プラタナシアの元へ戻った俺が見たのは、兄、ラグゾニアに支えられ、笑顔を溢すリーンシェントの姿。開かれた瞳は真っ直ぐに兄を見ていた。

兄は強い。
兄が欲しいと願った物は何でも兄の物だった。

荒々しく乱暴な兄が珍しくただゆったりと笑っている。

ああ、そうか……その瞳もそうなのか……。

走り去る俺の背中に、ただ兄の笑い声だけが聞こえてきた。

ーーーーーー

悪魔が持ち帰ってきたリーンシェントの首、その瞳は……ついに俺を見ることはなかった。

リーンシェントは兄を慕っていたと思っていた。そして兄もリーンシェントに対してだけは特別なのだと思っていた。

たった一言、たった一度でも「助けて」と声にしてくれたなら……風が運んでくれただろうに……。

掘った穴にリーンシェントの首を埋めると、かつてリーンシェントが天上神殿で大切に育てていた花を一緒に埋めた。花の名前は知らないが水辺に咲く青い花、天上神殿から持ち帰った物を民が増やしていた。

「うっううっ……ううぅ……」

全身を包帯に巻かれた男は地面に額を押し付け、墓の前でいつまでも嗚咽を漏らしていた。
俺の風でも完璧に治してやることはできなかったが……人間の身でありながらあの兄に焼かれて生きていただけ奇跡だろう。

リーンシェントと共に死ぬ事を望んだこの男を生かしたのは、天上神殿で見かけたことがあったから。
リーンシェントとこの男の間にあったのは確かな絆だったから。

「お前は死ぬその瞬間までリーンシェントの信者だと言ったな。お前の魂は常にリーンシェントと共にあると……それではお前はまだ死んではいけない」

ずっと泣いていた男が、ピタリと固まり俺を見上げた。
「ルーンヴェイン様……一体……リーンシェント様は……」

「それはお前次第だ。その体をもってリーンシェントとするか、その魂をもってリーンシェントとするか……」

男は少しの間、何も言わずに思案していた。
「まさかパムパイル様の誕生祭……アヴィンディドール様ですか……リーンシェント様はアヴィンディドール様の中で生きている……」
男には思うところがあったのだろう、すぐに解答を導き出した。

「ああ、お前にとって大切な主の仇となる男の体の中に主はいる……お前はどうする?」

「あの方が生きている……リーンシェント様が、リーンシェント様……」

またボロボロと泣き出した男には迷いはなさそうであった。

「ルーンヴェイン様、あの方は今どうしていらっしゃるのでしょうか?アヴィンディドール様といえば……悪評高き方。国も貧しく、民からの信頼は……無いとお聞きしております。あの方は今、どんな暮らしを……辛い目に合ってはいないでしょうか」

「……幸せかはわからないが楽しそうに笑ってはいる」

誰かの為の笑顔では無く心からの笑顔で……。

「ルーンヴェイン様、お願いがございます。どうか、どうかあの方の元へ私を連れて行ってはもらえないでしょうか」

「あいつは記憶が無い。もし自分を見て思い出してもらえるなどと期待をしているなら諦めろ。止めようとしたが……もう記憶は全て喰われた。あそこにいるのはアヴィンディドールでもリーンシェントでも無い」

「構いません!!例え嫌われようと、一目……あの方の笑顔を見ることが出来たなら、それだけで……いえ、むしろ昔の記憶なんて戻らない方がいい。あんな記憶は……なくて良い」

元よりリーンシェントに会わせるつもりだった。
リーンシェントの記憶が戻るのではと期待したのは、俺の方だったのかもしれない。

記憶など無い方が良い……のか……。


風が吹いた。

どこから運んできたのか、葬送の様に白い花びらが空へと飲み込まれていくのを見送った。
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