駆け抜けて異世界

藤雪たすく

文字の大きさ
34 / 95

かわいそうなまじん

しおりを挟む
数体ママタンゴを狩ってホクホクした気分で9階層の雪山へ。

「奏は防寒具持ってるか?」

心配しなくても寒さぐらいで死にそうにはないが、声をかけながら、前に奏から貰ったコートに袖を通す。
まだ顔色が悪い。そんなにキノコが嫌だったのだろうか?網焼きしてボカチスの果汁を搾ってやると美味いんだけどな……ママタンゴ。

「ヒューってなった、主に下半身が……」

お腹を押さえている、昔毒キノコにでもやられたか。厄介なキノコも多いからな。

「美味しく食べれる様にしてやるから安心しろって……それより早く上着を着たほうが良い」

「ああ……はい……」

コートを羽織った奏の前を歩き、9階層に降り立つ……相変わらずのもう吹雪。

「ほら……」

「何?」

「手、ここは姿を見失いやすい。逸れられたら面倒」

手を繋いで、右手は負傷していて……魔物が出てきたら対処出来ないが、そこは奏が何とかするだろう。

深い雪をギシギシと踏みしめながら山頂を目指す。下の階層へ向かうのに山を登るというダンジョンの不思議。

魔物の姿は目にしていないんだけど……チラリと後ろを見ると、俺達の通ってきたあとの雪は赤く染まっている。

いつの間に倒してんだろうな……。

俺は何事もなく山頂に到着した。
足で雪をかき分けて、岩肌に刻まれた魔法陣に剣を突き立てると地面が割れて階段が現れる。

「はぁ……冷えたな。クダン茶飲むか?」

階段へと入り、寒さの収まって来たところでコートを脱いでアイテムバッグからクダン茶を取り出してカップに注いで奏に手渡した。

「あ~染みる……」

階段に座り、暫しの休憩。

「ルカちゃん凄いよね。地図を見てるわけじゃないのに一切の迷いなく進んでく」

「母親が方向音痴というか……地図を見ようと目を離した瞬間何処かへ消えるから、地図は頭に叩き込んでおくのが基本」

連れ戻すのに何度も苦労させられたもんだ。

「それ方向音痴というのかな……苦労したんだね」

「かなりな」

本当に手の掛かる人だった。思い出してもため息が出る。

「10階層は?いきなりボス部屋?」

「いきなりボス部屋。ボスはオーガファイター。美味しくない。オーガの斧は重たいだけだし、角だけ取れれば良い。問題は……」

「出るかな、魔人」

「どうだろうな。出てくれないのが一番だけど……出ても奏と入れば帰還への心配はないんだろ?」

自分が転送される魔道具を帰還の御守りと宣うぐらいだ。

「その点は、しっかり自分の仕事を務めさせていただきますよ」

「それしか取り柄がないんだ、励めよ」

「あ、待ってよルカちゃ~ん」

カップをアイテムバッグにしまって、小休憩は終わり。嫌な仕事はサクッと終わらせてしまおう。

階段を降りきってボス部屋に入ると見知ったオーガファイターが現れた。

「どう?」

「いつも通りだな。特に変わったところはない……あれぐらいなら俺がやる」

「右手使っちゃ駄目だよ?」

「問題無い」

駆け出し、オーガファイターの斧が振り降ろされる前に頸動脈を断ち切った。
やはり左手だと浅いな……。

不満を感じつつ周囲を確認すると、そこには通路があった。先程までは確実に無かったのに、最初からそこに存在していたかの様に。

「ルルケーヤやバンドロンもこんな感じ?」

「うん、あの時も普通に通路が伸びてたから普通かと思った」

初めてのダンジョンならそう思うかもな……それぐらい普通にそこに存在していた。

「ルカちゃんはどうする?」

「さすがに片手で躱せるとは思ってない。観戦」

万全の状態で躱すのがやっとだった力量の差で見せるプライドも何も無い。

「ルカちゃんに観られてると思うと張り切っちゃうなぁ。もし戦闘後、興奮収まらなかったらルカちゃんお願いね」

「死ぬ気で治めろ」

通路を通り……そこはやはり魔人部屋だった。
荒涼の大地と朽ち果てた神殿の様な建物が建っている。その神殿の廻廊の向こうから、巨大な頭が近づいてきた。

異様に大きな赤ん坊の顔だけの異形。
閉じられて目が開かれると光線が発射された。

「おい……」

観戦と言っておいたのに、飛び登った柱の上から奏を睨む。

「ごめん、ごめん……気持ち悪い顔にちょっと引いてた」

再び閉じられていた瞳が開こうとした瞬間、奏の剣が横薙ぎに一閃走った。
「ギイィィィィィッ!!」

眼球を切られて顔から血を噴き出しながら狂った様に転げ回る頭……確かに気持ち悪い。

「核はどこかなぁ……あそこか」

転げる頭を観察した後、魔人の髪を掴んで動きを止めさせると、大きな眉間に剣を突き刺した。

「キアァァァァァァッッッ!!」

断末魔の悲鳴を残して魔人は動かなくなった。まさしく赤子の手を捻るが如く。

「終わった?」

「終わった」

鏡の魔人や双子の魔人に、俺はあんだけ苦労したんだけどな……もう悔しがる気にもなれない力の差。

「その木剣まだ使ってたんだな。もう十分稼いだだろ?」

奏の持っていたのは初めて見かけた時に携えていた片手剣。
確かにそこらの剣よりも切れ味も硬度も扱いやすさが上だが、見た目がな。Sランクの冒険者のメイン武器が木剣っていうのも考えものだ。

「ルカちゃんに買ってもらった短剣とセットで作ったからさ……思えばあそこから俺とルカちゃんの運命がつながったんだと思うとなかなか買い替える気にもなれなくてさぁ」

柱から飛び降りて奏の側へ近づき、横たわる?魔人を見上げる。
これをどうするか。

「ギルドへ提出したいが、本部までいちいち戻るのもな……」

近くのギルドへも、本部との秘密の直接依頼なので持ち込めない。しかしこのまま放置しておくと消えてしまうだろう。
解体の仕方もわからないし、余計な物でアイテムバッグを圧迫したくないな。

「今度本部へ行くまで、俺のマジックボックスに入れとく?」

「容量は大丈夫なのか?」

「無制限だから大丈夫。ついいろいろ突っ込んじゃってて自分でも何が入ってるかわからないけど……」

「整理しろよ」

巨大な魔人の死体はそのまま奏のマジックボックスの中へ消えた。あのボックスの中には何が入っているんだか……。

「ボスを倒してまた魔人も復活するのか一回試してみとく?」

「そうだな。じゃあ時間までママタンゴ狩「9階層と10階層の間の階段で休もうか!!疲れちゃったなぁ!!俺!!」

ボスのリポップまでは1時間ほどある。それだけの時間があれば結構な素材が集まるんだがなぁ。疲れるほど動いていないであろう奏とともに面白くもない階層の間の階段に腰を下ろした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ
BL
 神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。  硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!  設定はふんわりしております。 少し痛々しい。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。 満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。 よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。 愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。 だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。 それなのに転生先にはまんまと彼が。 でも、どっち? 判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。 今世は幸せになりに来ました。

処理中です...