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諦める勇気

実害あるお化け屋敷

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「……」
体をよじって隣で眠る勝利君の背中に体を引っ付けた。
勝利君がわずかに体を離したので、また追いかける。
それを数回繰り返す内にベッドの端まで勝利君を追い詰めた。

「ミャオちゃん……怖いの?」

ちょっと困った様に振り返られた。

怖いのかと問われれば……怖いよ!!
こっちが見えてないのは分かってても、窓の外をあの気味悪い幽霊みたいな顔が移動してるのは怖いだろ!?
ここは強がるところでは無いと賢明な判断をして素直に頷いた。

「スラ、モフ、雪、おいで」
従魔達を呼び寄せ、俺と勝利君の間に寝かせる。
俺と寝るのが嫌なのか、怖がる俺を面白がっているのか……。

「いつもは離してって言っても離してくれないくせに……」

「そんな可愛い顔しないでよ。寝てる時は危険だってこの前……学習したからね。従魔達はミャオちゃんの防衛機能にかからないから大丈夫」

何を学習したのかわからないけど、勝利君はそう言いながら従魔達越しに手を繋いでくれた。
ちょっと寂しくて不満はあったけど、従魔達の体温と従魔達越しに感じる勝利君の存在感に心は安らいで……あれだけ昼間に寝たにも関わらず、目蓋がゆっくりと下がってきた。

魔物を惹きつけるフェロモンとか笑えない……もう擬態なんて2度とするかと心に決めた。

ーーーーーー

殺戮の森を走り抜けた勢いで、下り坂をそのまま転がり落ちた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を整えながら、やっと森を抜けられた事に安堵した。


一晩ゆっくり休み、意を決して突入した『殺戮の森』はトラウマになるレベルだった。
お化け屋敷なんてそんなに行った事は無いけど間違いなくトップレベルの怖さ。

魔物のくせにわざわざ人をビビらせる登場の仕方をするなと叫びたい。

「ミャオちゃん、殺戮の森攻略おめでと~!!」
上からにこやかな笑顔の勝利君が降ってきて、抱きしめられた。
おめでとうじゃないよ……このやろう。

叫び過ぎて喉はガラガラ。
涙が乾いてカサカサになった目尻を擦った。

森の外まで連れて行ってとお願いしたところ『ミャオちゃんの一人エッチ見てみたいな』と返されたので自らの足で乗り込んだ……自慰を見せるなんてと断固拒否だが……恥など捨ててしまえば良かったかもと少し後悔した。

この森の魔物は全て人面、その顔はみんなホラー映画のお化けみたいな顔をしていた。
突然木の上から降ってきたり、地面から這い出てきたり、水の中から半分顔を出してこちらを覗いていたり……攻撃方法が内臓をぶちまけてくる魔物に出会った時は卒倒しかけた。

特に最後に現れた『ゴーストマッシュルーム』は面倒だった。

地面に生えたキノコだけど、意思を持って地面の上を這って移動してくる。
青白くうっすら透けていて、その形は人の手の様に見え……地面を這う無数のゴーストマッシュルームに追われるのはなかなかの恐怖体験だった。

スライムの攻撃でも倒せるレベルだが、如何せん数が多い。
勝利君の攻撃で一掃しても後から後から生えてくる。

「途中で接続切れたらごめんね~」と笑った勝利君の言葉に、戦わずに逃げるという戦法に変わった。
途中で接続が切れたら、俺はスライムにすら勝てない。

ゴーストマッシュルームの動きは早く無いので、勝利君の言う『接触判定範囲外』まで逃げればいいだけの話だけど……ずっと引き籠もっていた体には辛いし、隣でずっと「大丈夫?抱っこしようか?」と笑いかけてくる勝利君に本気でイラついた。


「もう二度と……こんな森……来るもんか!!」
寝転がって見上げた、森を抜けた事を告げる様な明るい空に涙がまた溢れた。
怖かった!!ひたすら怖かった!!

「だから抱っこしてあげるって言ったのに」
額に張り付いた前髪を勝利君の指が軽く梳いていった。
「あんな交換条件のめないよ!!」

「交換条件?抱っこする代わりに何かしてなんて俺、言ったっけ?」

「俺が一人でやってるとこ見せろって!!」
「見たいって言っただけで見せろなんて言ってないよ?」

大声をあげた俺の言葉を勝利君が遮った。

「なっ……な…ん……」
怒りのあまり言葉が出ない。

「あはは、いい運動になった?ミャオちゃん運動不足だって気にしてたもんね」

詰め寄ろうと思ったけど体が動かなかったので目だけで勝利君に不満を向けた。

「確かにみんなについて行ける様に少しは体鍛えたいって言ったよ?言ったけどいきなりこれは無いよ」

まず鍛える為に体を動かせる為の体づくりから始めてもらいたい。
突然こんなハードな特訓、体が壊れるかと思ったよ。

「ふふふ……軽く昨夜の仕返しだよ」

「こんな仕返しされる様な事した覚えがない……」

「無いだろうね。ミャオちゃんはぐっすり夢の中だったもんねぇ……でも無意識だからってアレはヒドいよ」
おでこを指で弾かれた。

「???……俺は何をしたんでしょうか?」

恐い……先日もそうだけど寝てる間に俺はどれだけの事をやらかしているんだろう……擬態中の意識が無ければ良いとか思ったりもしたけど……無意識でしでかした事の方が恐いな。

「う~ん。ミャオちゃんはお酒が飲めるようになっても飲まない方が良いなって感じかな?もしアレが俺相手じゃ無かったら俺、嫉妬に狂ってミャオちゃん殺しちゃいそう」
「……善処いたします」
にっこりと微笑まれて、俺もにっこりと笑い返した。

本当に……何をやったんだ俺は!!
夢遊病の気でもあるのだろうか?

俺と勝利君の仲を平穏なものにする為にも寝室を分ける良い方法は無いものか?

何も思い浮かばず……ただ見上げた空には真っ白な雲が風に流されていった。
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