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第1章 神子

連れて来られた世界

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花嫁さんのベールの様な透ける様な薄い布は……体を隠すのに役に立っているのかいないのか……。
同じ様な薄い布が垂れ下がるベッドに寝かせられている。

ベッドの周りには女の子と見紛うような男の子たちが目を閉じて座り待機中。

『神子』として神に拉致られてしまった俺はこれからの未来に溜め息を吐くばかりだった。


ーーーーーーーーーー


二人の『神』の会話が聞こえなくなってしばらくたった後、揺さぶられる感覚がして、あれだけ開かなかった目が開いた。

石造りの建物。
台の上に寝かされており、若い頃にはさぞモテただろうとわかる妙に顔の良いおじいさん達に見下ろされていた。
「お目覚めですか、神子様。偉大なる女神ヴァージュ様から神託は授かっております。どうぞこの世界の危機をお救いくださいませ」
一斉にかしづかれた。
そして俺は真っ裸だ。慌てて腿を閉じて何となく隠した。

何……夢じゃないのか?
じゃあ、じゃあ、俺はあの神たちの言っていた様に子種を……。
サァァ……と頭から血の気が引いた。
冗談じゃない!!いくら女性とやれないからって男にやられてたまるか!!

「人違いです!!」
慌てて台の上から飛び降りて入り口へ走った。
「神子様!!」

もう少しで扉だというところで、自動で扉が開いた。
いや、外から人が入ってきた。
キラキラしたオーラを振りまく金髪碧眼なベタなイケメンが立っていた。
「ルシアン王子!!」
しかも王子様!!
王子の前で真っ裸で走る俺。
不敬罪で捕まる前に方向転換したが、背後から抱き上げられた。
「このお方がヴァージュ様が仰られていた神子様かい?なんて愛らしいお方だ」
少女漫画に出てきそうないかにも王子にお褒めいただいたが、俺の頭の中には『犯される』の4文字しか浮かんでこない。

「やだ!やだやだやだ!!離せっ!!」
体を暴れさせても俺を抱き上げた腕はピクリともしない。
「随分と元気な神子様だね。沢山の子を授けてくれそうだ」
王子様の言葉に血の気が引く。
沢山の子……沢山犯されろって言われている様なもんだ。

何で俺がこんな目に……確かに女性は怖い、怖いけどだからって男に抱かれたい訳じゃ無い。
ただ勃起不全を治したかっただけなのに……。
「こんなのやだ……帰りたい」
「それは困ります。貴方はこの世界を救う救世主。そのお力をどうぞ我が世界の為にお使い下さい」

王子様にぷらぷらと持上げられたまま移動させられる。
どうでも良いがそのマントくらい貸して欲しかった。
大勢の人に粗末なモノを見られながら、行き着いた先は浴場だった。

王子様に降ろされた俺を、俺より幼い少年たちが取り囲む。
「神子様のお身体をよくお清めして差し上げるんだ」
王子様に申しつけられ、少年たちは一斉に頭を下げる。
清めてどうする?
……理由は1つしか無いよな……俺、あの王子にやられるんだ。
泣き出したいのを唇を噛んで堪えていると、程よい温度のお湯を掛けられた。
「な……何!?」
布を持った少年が近づいてきて……体を撫でる様に洗っていく。
花の様な香りの泡が体にまとわりつく。
「じっ自分で洗いますから!!」
少年の手から抜け出そうとしても……見た目の幼さに反して力が強い。
いたる所、驚く様な場所まで丁寧に洗われて、俺はお風呂から追い出された。
抵抗しながら体と髪を乾かされ、よくわからないがこれまた良い香りのするクリームの様な物を塗りたくられて服を着せられ別室に運ばれた。


ーーーーーーーーーー


さあ、やるぞ!と言わんばかりのベッドしかない部屋。

俺が少しでも動けば周りの少年達がピクリと動く……野良猫との攻防の様だ。
なんとか隙が出来ないものかと様子を伺っていると扉が開き、先程の王子様とお爺様が入ってきた。

遂に来たかとじりじりと後退るが、王子様とお爺様は床に片膝をついて頭を下げた。
「神子様、湯加減はいかがでしたか?」
下を向いている隙に窓から逃げ出そうとベッドから飛び降りかけて少年たちに阻まれる。暴れる体をベッドに押し倒されて、無表情の少年たちが見下ろして、ギシリとベッドが軋み王子様がベッドの上へ腰をおろした。
「いやだ!!やだやだやだやだやだっ!!!!」
子供の様にやだやだと騒ぐ俺の体を押さえつける手にますます力が籠る。
その拘束にさらに頭がパニックを起こしかけたその時、落ち着いた声が制止をかけた。
「お前達は下がっていなさい」

その声に離れて行った少年たちに変わり、王子様の手が頬に触れ、ひっと喉の奥で引きつった悲鳴が鳴った。
王子様の指が、恐怖に溢れていた俺の涙を拭う。
「いやです……男に抱かれるなんて無理です……」
グズグズと情けなくしゃくり声をあげる俺に王子様は優しく語りかけてくる。
「神子様、どうか落ち着いてください。我々は貴方様を無理矢理どうにかするつもりはありません。どうか話を聞いてはいただけませんか?」
「無理矢理しない?本当ですか?」
やられなくても済む?
王子様の顔を伺うとこれから人を襲うとは思えない優しい笑顔で微笑まれた。
女神は人の話を全く聞かない傍若無人だったけど世界の人々は良い人なのかもしれない。

いたしませんよ」
柔らかく目を細めて笑う笑顔に少し安心して警戒心が解かれていく。
にこにこ笑う王子様の笑顔に俺も安堵感からつられて笑った。

現金なもので……安心した途端にお腹が鳴り、王子様は一瞬目を見開いてから楽しそうに笑った。
「女神様より授かった神託と神子様の認識には相違がある様に思うのですが……まずはお茶でもご一緒にいかがですか?神子様の事情をぜひお聞かせください」
は……話が通じるって良いな。
あの神様達は話をする気もなかったからな。

王子様に手を引かれ部屋の隅に隠れる様にあった扉から隣の部屋に移動した。
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