最凶のダンジョンで宿屋経営

藤雪たすく

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アスの愛した者の話

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どうしよう。眠くない。
昼間あれだけ寝てれば当然か?

アスを起こす訳にいかないので、寝返りもうたずにじっとしている。苦痛だ。
こういう時はやっぱり羊の数か?

…………羊が46匹、羊が47匹、羊が……

眠くならないし面倒くさいので止めよう。

「……眠れないのか?」
アスに髪を撫でられた。

「あ……ごめん、起こしちゃった?昼寝し過ぎたみたいで……」

「いや、起きていたから気にするな」

アスの方に体を移動させる。
ラフな服装だと、生地が少なく薄い分、細いのにしっかりついている筋肉とか、鎖骨の骨のラインとか……諸々が伝わってくる。

「……アス」

ちらりとアスを見上げる。
アスは困った様な顔をして頭をポンポンと叩いた。

「そんな目で見ないでくれ……俺はお前を失いたくない。セバスチャンに話を聞いた時は愕然とした。初めてお前を抱いた時、欲望のまま気を失ったお前を犯していたら、お前を消していたかもしれない……ヤマトの体力の無さに救われたな」

強く抱き締められて、アスの体温が伝わってくる。

「じゃあ……1回だけ……ダメ?俺だってレベル上がったよ?レベル1だった時に平気なら大丈夫だよ……」

「駄目だ。ヤマトのレベルも上がったが俺も上がった。ヤマトのおかげで1000を超えた」

レベル999でカンストではないのか……。

「俺のおかげでって……アスのレベルは精気で上がるの?」

精気を吸い続けて、レベル1000。
流石、色欲のダンジョンの主。
俺と出会ったときには900はとっくに越えてたから……アスってばヤリチン……。

「何だ?その目は……言っておくが、性行為だけが精気を吸う方法ではないし、精液=精気では無いからな?」

「え?違うの?」

「精気は生物の生命力だ。指先からでも触手からでも俺が精気を吸おうと意識すれば吸いとれる……普通はな……」

そう言って俺の額に人差し指をトンと当てた。

じゃあ、アスが吸いとろうと意識しなければエッチできるじゃん。俺はアスの体に手を回した。

「お前は別だ。お前は体内で精液を精気に変えて蓄え、俺と交わると俺が拒否しても俺に精気を送りつけてくる。その体内に宿るものがなければ、自分の命を削ってでもな……」

おお……スゴい押し付けがましいな……俺。

「だから我慢してくれ。俺も本当はお前を自由に抱きたいんだ。誰かと交わった後でなく……俺だけがお前を愛したい」

強く抱き締められた。
アスに嫉妬されて独占欲を見せられる事が嬉しい。

「人狼はいい……お前の気持ちをある程度は優先出来るし、本能でヒエラルキーに従う。他の奴等は駄目だ。俺からお前を奪おうとする」

甘えるように顔を擦り寄せられる。
ヒュウガは俺がアスに騙されてるって言うけど……こんなアスを見ていると、そうは思わないし、むしろ騙されてても良い思う。

「俺はアスの側から離れない……」

俺もアスの体を抱き締め返した。

眠れないなら、少し外を歩くか?と言ったアスに大喜びで返事をした。

そう言えば夜はあまり出歩いた事がなかった。
しかもアスと手を繋いで……。
暗いけど、風景もアスの顔も月明かりではっきりと見える。

繋いだ手から伝わる熱に浮かれて歩いていると、前方が光り輝いていた。

生命の泉の方だ。

「……蛍?」

生命の泉の周りをゆっくりと舞う光の粒。

「生まれたての精霊達だな」

精霊……いろんな色の光が飛び交っている。

青い光は水の精霊。
赤い光は火の精霊。
白い光は光の精霊。

アスがおもむろに、空中で何かを捕まえる様な動作をして、俺の目の前で、そっとその手のひらを開くと……。

「黒いのに光ってる、光ってるのに黒い……」

「闇の精霊だ……暗い場所だと見づらいが……」

闇の精霊……アスの愛しい者……。

ほわりと飛んで逃げていった光を目で追いながら……アスは愛おしそうに笑った。

「ヤマトに似ているだろう?」

俺が心理学者や哲学者なら、理解ができたのかもしれない……髪が黒い部分が似てると言えば似てる……のかな?

畔に腰を下ろして、二人で寄り添って光を眺めているうちに段々瞼が重くなってきた。

それに追い討ちをかけるようにアスが背中を撫でてくれていた。
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