好きになってしまいました

藤雪たすく

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二人の話

穏やかな魔女

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「カフェが開店するそうよ?」

「え?」

いつの間にか隣に女性が立っていて話しかけられた。

「あら、ごめんなさい。とても真っ直ぐに見ていらしたから……」

ニコッと微笑まれて、つられて笑顔になる。優しそうな上品な女性。

「まぁ……あなた何かに似てると言われたことはないかしら?」

誰かじゃなくて何か?物?
上品でおっとりとした雰囲気だけど、独特な人なようだ。

「真紀子さ~ん!!」

遠くから館長が走ってくる。

「あら、光さんちょうど良かったわ」

いきなり女性に腕を組まれる。

「この子……スカウトしようかと思ってたの礼雅が喜びそうじゃない?」

礼雅?え?誰?
館長に顔を近付けられる。

変装してこそこそ遊びに来たなんて、恥ずかしくてバレたくないので、顔を反らしたが……。

「んん~?何だ、山川君じゃないか。真紀子さん、残念だけど彼はもう礼雅のものだよ」

あっさりバレた。

「あら、そうなの?前にあった時、病んでたから……この子を雇ったら喜んで貰えると思ったのだけれど……」

「今の礼雅は幸せそうにしているよ……それより……おかえり、真紀子さん」

「ただいま、光さん」

目の前でいきなりハグをする二人。もしかして……もしかすると……。

「山川君、紹介しよう。妻の都居 真紀子、礼雅の母親だ」

やっぱり!!

慌てて帽子とマスクを外して頭を下げた。

「山川 太一です!!礼雅君と……お世話になっています!!」

何と説明していいかわからず、無難にしめる。

「はじめまして、都居 真紀子です。古賀 真紀子と言う名前で料理研究家をしているの……海外に行っていたものだから何も知らなくて、ごめんなさいね」

古賀……古賀 真紀子……あっ!!

「『料理の国の王子様』の前身だった『おっとり魔女の台所』の料理監修してた……」

「さすが、良く知ってるね。父と仕事をしている所を見初めてね……俺が押しに押して、それで産まれたのが礼雅とレッカー王子だよ」

レッカー王子が急に生々しくなった……。

ーーーーーー

館長室へ通されて礼雅の両親に挟まれる。

「ねぇねぇ山川君、礼雅ってどう?あの子自分勝手だから……あなたの事ちゃんと大事にしているかしら?」

「礼雅君はとても優しい人だと思います……」

「山川君……カフェの名前で礼雅と揉めてるんだ。山川君から言ってやってくれないかい?」

「は……はい……」

…………気まずい。

バンッと大きな音がして礼雅が飛び込んで来た。
「親父!!母さん!!なにやってんだよ!!太一が困ってんじゃん!!」

「礼雅……」

手を引かれて、腕の中に収められる。
ご両親の前で……と思ったけれど、救世主と思ってしまった。

「なんだ、もうバレたのか」

「ちぃさんから連絡貰った。太一、大丈夫?変な事されてない?」

「話をしてもらっていただけだよ」

心配そうに頭をわしゃわしゃされる。

「あら、あらあらあら……ふふ……山川君、礼雅を宜しくお願いしますね」

お母さんはさすが『おっとり魔女』のモデル……その笑顔の真意は読めなかったが……礼雅と一緒にいる事は反対されて無さそうだった。

ーーーーーー

閉館後の小路を手を繋いで歩く。

「何で変装なんてしてたの?」

変装して、こそこそしてたのがバレるって恥ずかしいな。

「これからは楽しませる側でしょ?最後に楽しんでおこうと思って……」

居たたまれなくて視線をあげられない。

「一緒に働く事に意気込みを持ってくれるのは嬉しいけど……働いている人が楽しんでないとお客さんも楽しくないと思うけど?」

?礼雅を見上げると礼雅は空を見上げていた。視線を追うと大きな満月。

礼雅の視線がこちらに移動した。

「楽しませる側が楽しんじゃいけないって事はないでしょ?太一がこのミュージアムを楽しいって思って働いてくれれば、周りもきっと楽しんでくれるよ」

楽しんで働く……接客とか、未知の職業に難しい事ばっか考えてた。

「そうだね。それが大切かもね……ありがとう礼雅」

二人で満月を見上げる。

「いよいよだね……」

「宜しくね、太一」

月を見上げていた俺の前に礼雅が移動して……唇を重ね合わせた。

大丈夫……きっと大丈夫。
礼雅が一緒ならなんでも出来そうな気がした。

ーーーーーー

「太一?とりあえず座って落ち着こうよ」
部屋の中をぐるぐる30周ぐらいしたところで礼雅に手を引かれてソファーに座らされた。

それでもソワソワした心が首や腕を動かし落ち着かない。

「ゆっくり眠れるようにホットミルクでも作ろうか?今からそんなに緊張してたら、明日はどうなるんだろうね?」

どうなるんでしょうね?

「……て、言うか……何で礼雅はそんなに落ち着いてられるの?明日オープンしちゃうんだよ?」

ハラハラ視線を泳がせる落ち着きの無い頭を礼雅が優しくポンポンと叩いた。

「太一はオープンして欲しく無いの?」

「そう言う訳じゃ無くて……だってなんか失敗したら……」

「いっぱい『いらっしゃいませ』の練習もしたし、メニューも二人で考えたからばっちりでしょ?大丈夫、太一は優しいもん、人の事を親身になって考えてくれるもん……その気持ちが一番なんだから」

うぅ……たとえ親身になって考えられても言葉に出せないと考えて無いのと一緒だよ。

ちゃんとハキハキ喋れるかなぁ?
どもらないで喋れるかなぁ?

「太一……そんなに緊張しないでよ……何か悪い事をしてしまった気分になる」

申し訳なさそうに、ギュッと抱き締められた。

「礼雅……ごめん……」

あんまり不安がっていると礼雅まで不安にさせてしまうのか……落ち着け……落ち着いて礼雅を引っ張って行くぐらいの男気を見せねば……。

頑張るよ!!と伝えるために俺からも礼雅の体に抱き付いた。

「……オロオロしてる顔、すげぇ可愛い。明日のこと気にせず、悪いことしたくなるね」

チュッと軽く首筋を吸われて、慌てて体を引き離した。

「なっ!!……何しよんの!?」

「だって太一が可愛すぎるから……ねぇ?駄目?」

おねだりするような甘えた目を向けられて、思わず目をつぶった。

「駄目っ!!絶対駄目!!明日は絶対失敗出来んのやけん!!」

「触るだけ……緊張して寝られなくて起きてるんなら一緒でしょ?」

「駄目!!」

「キスだけは?」

薄目を開けて礼雅の様子を伺う……失敗した。
見るんじゃなかった。キラキラしたお願いビームにあてられた。

「うぅ……駄目……やって……」

手で顔を隠してビームを避ける。

「礼雅とキスなんかしたら止める自信ない……よし!!もう寝よう!!それが良いよ!!」

礼雅の手を取って立ち上がると、礼雅も笑いながら立ち上がった。

「そうだね。早く寝ちゃおう」

二人で当たり前の様に同じベッドに入った。

明日は大事なカフェのオープンなのに。
一人でハラハラしてた自分が馬鹿みたい。
さっさと寝てしまおう。

そんな事を考えながらうつらうつらとしてきた頃、礼雅が手を握ってきた。

「……大丈夫……きっと上手くいくよ。ゆっくりおやすみ」

おまじないをかけるように額に唇が触れる。

緊張を解そうとしてくれてた……?

「ありがとう……」

柔らかな唇に触れるだけのキスをして……そうだ……礼雅が一緒にいてくれるんだもん。きっと大丈夫だよね……。

俺の手を握る手を握り返し、穏やかな気持ちで眠りについた。
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