拾われた子犬は無償の愛に戸惑う

reina

文字の大きさ
4 / 7
迷子の子犬?

拾いました。

しおりを挟む
「お~い、て~ん!どこ行った~!」

先ほど散歩をしていた矢先、飼い犬の天がいきなり走り出した。
普段の散歩ではよほどのことがない限りそんな行動をしない飼い犬に驚いてリードを離してしまった。

公園に差し掛かったところで走り出したので、おそらくこの公園のどこかにはいるはず。
この公園は近所で評判のスポーツ公園。
人気の散歩コースであるのはもちろんのこと、普段からウォーキングやジョギングの人々でにぎわっている。
普段はなにも思わないが、こういうときはなかなかに辛い。
今は夜で視界が悪い上に、先ほどからちらちらと雪が降ってきたせいでなおの事探しずらい。

「ああもう、ほんとどこ行ったんだ?」

天は大型の犬で、明るい茶色の毛並みから夜でもある程度目立つ。
なのに全く見つからない。

「お?」

公園を半周した当たりで、目の前に降り積もり始めた雪に点々と付き始めた動物の足跡。
間違いなく、天の足跡だった。
この雪のせいで視界は悪いが、これはいい方向に転んでくれた。

足跡をたどった先には確かに天はいた。

「ん?」

膝を抱えてベンチうずくまる子供を温めるように寄り添っていた。











「ちゃんと肩まで浸かれよ」

そういって抱き上げていた小さい体を脱衣所に下した。
帰ってきてから風呂に入るつもりで準備して言ってよかった。

天に寄り添われていた子供は、中学生か高校生ぐらいだった。
話かけても返事はなく、ぼんやりしているので仕方なく抱き上げて連れて帰ってきた。
温まれば少しは話してくれるようになるといいんだが。

「て~ん。そんなとこにいてもすぐには出てこないぞ」

閉じられた脱衣所の前で前足をそろえて座り、じっと扉を見上げている天。
何がそんなに気になるのか、公園で発見してから今まで、あの子のそばから一瞬たりとも離れようとしない。
一応声をかけてみたが、それでもそこから動きそうはなかった。

「さて、何を作るかね・・・」

とりあえず、体が温まるものを・・と考えて、冷蔵庫を除くが、あいにくうどんやそばなどの麺類はない。
雑炊でいいか、と鍋をかけると、パタン、という音がした。
どうやら風呂から上がったらしい。

ペタペタとはだしで歩く音が近づいてきたのでキッチンの入り口を見る。

「・・・・・・・・・は?」

裸に、バスタオルを巻いただけの女の子がそこに立っていた。








いやいやいや、ちょっと待とうか・・。
服が濡れているだろうから、一応着替えにスエットを置いておいたはずだ。
だから着るものがなかった、ということはないはずだ、うん。
じゃあ、この子はなぜこの格好でここにいるのか、という問題がでてくる。

「あ~・・と、スエット気に入らなくてもそれしかないから着てくれると助かるんだが」

そういうと、その子は小さくわからない、という風に首を傾げた。

え、まさか見るからに日本人なこの子は実は日本語通じないとかじゃないよな。
それとも噂に聞く裸族とか?
いやいや、もしそうだとしても普通自宅以外では普通に服を着るはずで・・・

混乱がぐるぐると頭の中を回っていると、小さく、その子が口にした言葉は、

「・・・・しないの?」

だった。

は?
しないってなに?
なにって、もしかしてナニ!?

「あ~、っと。さすがに、子供には興味ないぞ?」

そういいつつ、視線はその子の胸の部分へ。
あ、意外と胸ある?
いやいやいや、そうじゃなくて!!
彼女がいくつかはわからないが、さすがに未成年なのは確実で、犯罪者にだけはないたくない。

「とにかく、服着てこい。せっかく温まったのに湯冷めするだろ」

着替えるように促しつつ、視線を火にかけている鍋に移す。
お、いつの間にかいい具合。

「・・・・やっぱり、いらないんだ」

え?
なんのことだと思った時には、その子は脱衣所の方へと歩いていた。
いらない?
なんのことだ?

とりあえず戻ってきてから聞けばいいかと思っていれば、玄関の方から天の鳴き声が聞こえた。
普段めったに上げない声に何事かと足を向ければ、そこには先ほどの子が着替えにだしたスエットではなく元々の自分の服を着てそこにいた。

「ごめんね、どいて」
「ワン!」
「うん、ありがと。でも、ご主人様、私の事いらないみたいだから。ここにいちゃダメなの」
「ワワン!」
「暖かかったよ。ありがとう」

そういってぎゅっと天を抱きしめると、そのまま外に出ていこうとするのを見て、慌てて引き留めた。

「って、おい!まだ外雪降ってるし、しかもこんな時間にどこ行くつもりだ!?帰るなら明日送ってってやるから、とりあえず家に電話して「だれもいない」やる・・・って、え?」

誰もいない?
思わず時計を見上げるが、時刻はすでに21時を回っている。
仕事で帰ってきてないってことか?

「両親、仕事か?」
「お父さんは死んだ。お母さんは・・・知らない」

そういってこっちをみる彼女の目に光はなく。
反射的にその体を抱きしめた。
先ほど温まったはずのその体は冷たく冷えていた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...