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「と言う事でヨモに負担がかかるかもしれないけど、その時はよろしくね」
「まあ、そのぐらいなら特に負担という事はないけど…声を掛けて宣伝とかしないわよ?」
「しなくていいわよ。遊びで作ったんだから」

 ヨモとお茶をしているとギルから声を掛けられた。
「許可がおりましたよ」
「え?早かったですね」
「上に話をしに行ったら魔法円の貢献度もあるし迷惑を掛けたことへの詫びとして受け入れましたよ。今から一緒にその雪だるまを作ってほしいのですがね」
 ギルは眉間に皺が寄っている。兎に角面倒だったのだろう。

「あら、そこは気にしなくてよかったのに、でもありがとうございます」
「ヨモもなんなのか聞かれるかもしれないから一緒に来てくれ」
「分かりました」

 道に魔法円を直に置き、ジュっと魔法円が無くなったのと同時に2段の雪だるまが現れた。リアは近くにある枝や小石を使い、手や目、鼻、口を作り、落ちていた松ぼっくりを枝に引っかけた。
「可愛くないですか?」
「可愛いわね。この松ぼっくりがいい感じね。雪だるまに装飾するのが流行ったりして」
「これは周りの雪を使うから、玄関先に作れば雪かきにもなるし、もっと太い枝にすればランプを引っかけられて、寒い夜の冬の道が温かく明るい感じになると思うんですよね」
「…ふむ。これは溶けないのかね」
「陽が出れば溶けますよ。でも通常より長く持ちますが」
「では、ヨモ管理を含め、よろしくお願います。給金もこちらの魔術部から特別手当を出すようにしよう」
「あら、やった」
 臨時収入に思わず声が出るヨモであった。


 それから年が明け、長期休暇にはヨモと一緒にのんびりと過ごしていた。街中を歩くと大通りには雪が無くなっていたり、玄関先には3段の雪だるまが1件、また1件とあった。その腕の部分には太い枝が刺してありランプが仄かに光っている。

「リアの思惑通りになったわね」
「最近ちょっと見るようになっただけでしょう。そんなに流行ってはないわよ」
「でも日に数人は質問に来るわよ?あれは何だ、とかなぜ溶けないとか、職員の手作りかとか、暇か、とかね」
「売れてるの?」
「ん~なんかお土産に買って帰る人もいるわね。安いからって。でも暇な部署ではまあまあの稼働率よ」
「ならよかったわ。それより引っ越しの準備は進んでいる?」
「ええ、私の荷物は少ないの。夫の物を処分したら私の物なんてほとんどなかったわ。いつでもOKよ。それより、紅茶と一緒に出すお茶請けの練習をしているけどそっちの方が難しいのよね。もういっそ紅茶だけで行こうかなって」
「それでいいんじゃない?紅茶専門店なんだし」
「そうねぇ」

 スノーショベルのおかげで、封鎖されていた街道が通常より早く開通したため、春を待たず王都に出発するようだ。春前に準備をして春になったらお店をオープンにしたいようだった。
 思ったより早い別れだったため、ひどく寂しくなった。

 まだリアの所におじさんからの返事はない。

 おじさんの家は貴族街にあり、平民になったリアがノコノコと会いに行けるような場所ではないのだ。貴族街に入るのでさえ許可いる。相手先にも許可を貰わなければ訪問も出来ないのだ。

 ひとりの友人の別れに寂しさを感じた。ヨモのおかげで楽しかった。街に来る度にヨモにお茶をごちそうになって世間話をした。それなのに自分は同居を嫌がったり我儘だったとヨモに取った態度に後悔した。

 おじさんの返事がなくても春になったら王都に行こう。イケメン兵士の影もないし、シシリーに長くいる意味もなくなった。
 家族もきっと王都にいるはず、リアはそう心に決めたのであった。
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