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優しい風がレースのカーテンを揺らしている。5年前に恋人と選んだ物だ。この部屋にある家具はほぼ全てそう。大学に入学してから始めた同棲生活は毎日が楽しくて、(たまには喧嘩もしたけど)今まで過ごしてきた時間で1番幸せだった。カーテンもベッドも食器もその頃と何も変わらない。しかし今のこの空間には最も大切な存在が足りなかった。
優輝、俺の恋人であった彼とは高校で出会った。気さくで物腰の柔らかい彼には友達が多く、俺もその中の一人でしかなかった。しかし2年でクラスが被り、部活も同じであったため自然と共に過ごす時間が増えた。そこから彼に恋をするまでにそう時間はかからなかった。
高校3年の夏に交際をスタートさせ、大学に入学すると同時に同棲を始めた。それはもう順調に、素敵な日々を過ごした。しかし今から3年と少し前、彼はこの世から居なくなってしまった。
今日は梅雨時には珍しく晴れた気持ちの良い日だったため、幾分か気持ちが楽だった。いつかは手をつけなくてはならないと思っていた部屋の片付けに取り掛かる。未だに何かしていないと寂しくなるのは未練がましいのだろうか。自分は強い人間だとは思っていなかったが、ここまで弱いとも思っていなかった。
「あれ、懐かしい」
ふと、箱の中から灰色の四角い機械が出てきた。高校時代に使っていたガラパゴス携帯、通称"ガラケー"を数年ぶりに手に取る。
「さすがにもう使えないかな」
とは言ったものの、何となく充電コードを差してみる。
洋服の入れ替え、棚の整理、あぁ、積み重なったダンボールも何とかしなきゃ。
一休みしようと思った時にはもう日が暮れていた。部屋の電気をつけるために立ち上がると何かに足を引っ掛けてしまった。その先に繋がれたものを拾い上げる。折りたたまれた携帯を開くと、明かりがついた。
「まだつくんだ」
久しぶりに触るボタンの感触やアルバムに入った懐かしい写真。そこには高校時代の思い出がたくさん詰まっていた。
後でゆっくり見よう。そう思いひとつ戻ると電話帳が目に入った。今はほとんど連絡を取らなくなってしまった古い友人の名前がずらりと並んでいる。
"七海優輝"
その中にあった四文字から目が離せなくなる。美しく、大好きな名前。
「優輝」
海のようにおおらかで、笑顔が優しく輝くその名の通りの彼が恋しくなる。1日に何度呼んでいただろうか。その回数は減り、当たり前のように返って来た声はもうない。
「あ」
前の画面に戻ろうとした時、誤って発信ボタンを押してしまった。
プルルル…プルルル…
無機質な発信音が鳴る。
「――はい」
「え、あ、すみません、間違えました」
焦って相手の返事を聞く前に通話を切ってしまった。失礼にも程がある。でもまさか繋がるなんて思わないじゃないか。
「……え」
何故繋がったのだろうか。よく考えたらこの携帯の契約はとっくに解除している。不思議に思い試しに他の人に掛けてみようとしても発信すらされなかった。それに、
「今の、声」
途端に頬を温かいものが伝った。たった一言。加えて咄嗟のことですぐに切ってしまったが、今になって先程の声が何度も響く。それは間違いなく、最も恋しい声だった。
優輝、俺の恋人であった彼とは高校で出会った。気さくで物腰の柔らかい彼には友達が多く、俺もその中の一人でしかなかった。しかし2年でクラスが被り、部活も同じであったため自然と共に過ごす時間が増えた。そこから彼に恋をするまでにそう時間はかからなかった。
高校3年の夏に交際をスタートさせ、大学に入学すると同時に同棲を始めた。それはもう順調に、素敵な日々を過ごした。しかし今から3年と少し前、彼はこの世から居なくなってしまった。
今日は梅雨時には珍しく晴れた気持ちの良い日だったため、幾分か気持ちが楽だった。いつかは手をつけなくてはならないと思っていた部屋の片付けに取り掛かる。未だに何かしていないと寂しくなるのは未練がましいのだろうか。自分は強い人間だとは思っていなかったが、ここまで弱いとも思っていなかった。
「あれ、懐かしい」
ふと、箱の中から灰色の四角い機械が出てきた。高校時代に使っていたガラパゴス携帯、通称"ガラケー"を数年ぶりに手に取る。
「さすがにもう使えないかな」
とは言ったものの、何となく充電コードを差してみる。
洋服の入れ替え、棚の整理、あぁ、積み重なったダンボールも何とかしなきゃ。
一休みしようと思った時にはもう日が暮れていた。部屋の電気をつけるために立ち上がると何かに足を引っ掛けてしまった。その先に繋がれたものを拾い上げる。折りたたまれた携帯を開くと、明かりがついた。
「まだつくんだ」
久しぶりに触るボタンの感触やアルバムに入った懐かしい写真。そこには高校時代の思い出がたくさん詰まっていた。
後でゆっくり見よう。そう思いひとつ戻ると電話帳が目に入った。今はほとんど連絡を取らなくなってしまった古い友人の名前がずらりと並んでいる。
"七海優輝"
その中にあった四文字から目が離せなくなる。美しく、大好きな名前。
「優輝」
海のようにおおらかで、笑顔が優しく輝くその名の通りの彼が恋しくなる。1日に何度呼んでいただろうか。その回数は減り、当たり前のように返って来た声はもうない。
「あ」
前の画面に戻ろうとした時、誤って発信ボタンを押してしまった。
プルルル…プルルル…
無機質な発信音が鳴る。
「――はい」
「え、あ、すみません、間違えました」
焦って相手の返事を聞く前に通話を切ってしまった。失礼にも程がある。でもまさか繋がるなんて思わないじゃないか。
「……え」
何故繋がったのだろうか。よく考えたらこの携帯の契約はとっくに解除している。不思議に思い試しに他の人に掛けてみようとしても発信すらされなかった。それに、
「今の、声」
途端に頬を温かいものが伝った。たった一言。加えて咄嗟のことですぐに切ってしまったが、今になって先程の声が何度も響く。それは間違いなく、最も恋しい声だった。
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