過去に繋がる電話

兎月悠

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 もうすっかり日が昇っている。あれから一睡も出来なかった。中途半端に投げ出されたダンボールもそのまま積み重なっている。
 もう一度かけたら繋がるだろうか。でももし繋がったとして何を話せばいい?彼が亡くなってから数年、話したいこと、共有したいことはたくさんあったはず。しかしいざとなると出てこないもんだ。
 非現実的であることはわかっている。もしかしたら夢を見ているのかもしれない。それでもいい。夢でもいいからまた優輝と話したい。内容なんてなんでもいいから声が聞きたい。

「――はい」
「あ、もしもし」
 繋がった。速くなった鼓動が、耳の中に心臓があるのではないかと錯覚するほど大きく聞こえる。
「あれ、この間の?」
「昨日は急に電話を切ってしまって申し訳ありませんでした」
 少しの間、沈黙が流れる。
「あぁ、いえ」
 何を話そう。いや、朝から電話なんて迷惑に決まっている。もう切るべきか。でも、まだ…

「ゆうきー」
 電話口から聞こえてきた名前に心臓が跳ね上がる。心の隅に追いやっていた"声が似ているだけの他人"という可能性は無くなった。
「今電話中!ちょっと待って!」
「お、お名前…ゆうきさんっていうんですか」
「はい」
「やさしいに、かがやく」
「そうです。よくわかりましたね」
 やっぱり。彼は間違いなく優輝だ。俺の大切な人。また目頭が熱くなる。昨日から泣いてばかりだ。
「…どうかしました?」
「すみません。大丈夫です」
「……」
「……」
相手は友人を待たせている。そろそろ本当に切らなければ。
「邪魔してすみませんでした……また、またかけてもいいですか」
「もちろん。お名前、お伺いしても?」
 そうだ、まだ自分は名乗っていなかった。相手には漢字まで聞いておいて失礼だったな。
「こ…」
 自分の名前を言いかけて、やめた。
「… 光です」
「光さん。ではまた」

 左手で頬をつねる。鈍い痛みが夢ではないことを確信させる。
 まさかこんなことが起こるだなんて。霊も魔法も信じなかったが、今起きていることは科学的に証明することは不可能である。
 「ひかる…」
 何となく偽名を使ってしまったが、正解だったと思う。彼のそばには絶対に"俺"がいる。まだ親しくなる前かもしれないが、何れにせよそのうち混乱の原因になるだろう。未来からの電話なんて気味が悪いだろうから説明もしないつもりだ。自分自身としてではなくても彼と話が出来るだけで充分だから。
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