初恋の相手に再会する話

兎月悠

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「はーるちゃん」
「あはは!やめろよぉ」
 コツン、とランドセルに小石がぶつかる。
 日頃から受けるからかいにはもう随分と慣れた。頻度は彼らの気まぐれで毎日ではないし、内容も大したことはなかったから我慢できる。
 昔から可愛いものが好きだった。青よりピンク。ボールよりお人形。幼稚園の頃は女の子に混ざっておままごとをしていた。それが当たり前だったのに、小学校に上がるとだんだん"変わり者"として扱われるようになった。
 それから他の男の子と一緒にサッカーやドッチボールに参加しないのはもちろん、女の子たちと関わるのもやめた。
 休み時間も、移動教室もずっと1人。それは中学校に入学しても変わらなかった。だったらずっと、ほっといてくれたらよかったのに。

「なぁ、あいつやべーよ」
 卒業を間近に控えた朝、教室から男子の声が聞こえる。
「あいつって?はるちゃん?」
「そうそう!」
「何がヤバいん?」
 嫌な予感がする。
「あいつ、たくみのことが好きなんだってー!」
「なにそれ!」
 違う。彼のことを好きだなんて思ったことはない。ただ、昨日の放課後廊下の角から飛び出してきた彼とぶつかっただけで話したことすら無い。
 人間という生き物は噂が大好きで、時には根も葉もないことをでっちあげてしまう。
 静かで弱い僕はその標的にされて、助けてくれる人なんていない。必死に否定したところで軽くあしらわれてしまう。
「男が男の事好きっておかしくね?気持ち悪ー」
 その言葉が胸に深く突き刺さった。よく分からないけど、自分はゲイとかそういうのではないと思う。それなりに異性に興味はあるし、男の人に性的興奮を覚えるわけではないから。じゃあ何故今ショックを受けているのか。それには心当たりがあるから。
 今まで恋人が出来たことは一度もなかった。この学校で好きな人が出来たことすらない。でも、一人だけ。ずっと昔に恋をして、今でも忘れられない人がいる。しかし無情にも、その人は同性だった。
 確かに、そうだよな。教室に向けていた足を反転させる。悲しくて、悔しくて、目頭が熱くなる。気づいた時には自分の部屋で泣いていた。
 それから学校に行くことは無くなった。卒業式にも出席せず、前から決めていた通信制の高校に進学した。

 僕には名前も知らない好きな人がいる。偶然再会できたけど想いを伝えることはしなかった。だって好きな人に気持ち悪いって思われたくないから。初恋は綺麗な思い出として胸にしまっておきたい。
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