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〇32 その花は愛らしく無邪気に本音を隠し、男性達を寄せ集める。
しおりを挟む小さい頃から、私は花を育てるのが大好きだった。
だって、花は咲くと綺麗だもの。
私は綺麗な花が見たくて、いつもお世話をしていた。
けれど、ある日猛暑が続いて花が枯れてしまった。
私は、とても悲しんだ。
一体何が原因だったのだろうと悩んだ。
けれど、原因を知る前に思ったのだ。
きっと、自分の為に花を世話をしていた罰があたったんだと。
もっと花に親身になってお世話をしていれば、今頃とても美しい花を咲かせていたに違いないのに、と。
「○○ちゃんは可愛いね!」
えへへ!
ありがとう!
皆に褒められるのが嬉しい。
だからもっと可愛くなろう。
わたしは幼稚園の頃、もてもてだった。
「〇〇ちゃんは優しいね」
えへへ、嬉しいな。
私は、すすんで人に優しくするようになった。
だって、ちやほやされたいもの。
「○○ちゃんは皆の事気にかけてくれるんだね」
うん、えへっ。
だって、皆が私の事好きになってくれたら。
とってもとっても嬉しいから。
だから、もっともっと愛されるために、魅力的な女の子にならなくちゃ。
私には夢があるんだ。
世界中の人に愛される、幸せな夢。
でも、そんな事できるかな。
自分の為に愛されたい、なんて思ってる私って、とっても自己中だと思う。
だから、その雑念に消えてもらわないと、もっといい子になれない。優しい子になれない。皆の事を考えてあげられない。
どうしたら、いいんだろう。
どうしたら、いいんだろう。
どうしたら、いいんだろう。
花は綺麗。
とっても綺麗。
そのままでも愛おしいけれど。
花が咲くと、さらに綺麗。
だから、もっといい養分を与えなくちゃ。
質のいい栄養を。
綺麗な水を。
邪念は要らない。
汚水も要らない。
そんなもの、なくなってしまえ。
忘れてしまえ。
「ねぇ? A組の○○さん、またイケメン達をはべらして嫌になっちゃうわ」
「でも、あれ天然なんでしょ?」
「本人は無自覚だから手に負えないわよね」
「嫉妬する気もうせちゃうわ」
学校に通う私は、園芸委員をつとめています。
だから昼放課になると毎日お庭の花壇の所に向かうの。
さぁ今日も、花壇にお水をあげましょう。
だって、花が育つには水が必要だもの。
お花が枯れちゃわないように、面倒をみてあげなくちゃ。
ちょろちょろ。
お花さん、お水、おいしいかな。
「あれ、○○さん当番だっけ」
あれれ、珍しいな。
ジョウロのシャワーで水やりしてたら、話しかけられたよ?
ここは校舎の裏側。
めったに人が来ない場所なのに。
「毎日水やりやってるの? 休日も?優しいね?」
その生徒は、気まぐれにこの場所に訪れたというらしい。
私は、しばらくその男子生徒と話をした。
なんだか存在感が薄いみたい。
たまに存在を忘れそうになっちゃうけど、さすがに失礼だよね。
私は相手の事をしっかりみながら対応した。
どうやら彼はサボりの場所をさがしていたようだ。
遠くから彼の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
その人達も、なんだか存在感が無くて、ぼんやりしているようにみえる。
「僕に気が付いて話しかけてくれるなんて、嬉しかったよ。あっ、仲間の集会に参加しないとうるさいんだ。そろそろ戻らないとな」
名残惜しく思いながらも手をふる。
もう少し、お話したかったな。
今日も花壇にお水をあげましょう。
そうしたら、男子生徒がやってきた。
この学園の王子様って呼ばれている人。
かっこいいって皆は騒いでいるけれど、私はちょっとそういうのは分からないからな。
「この花壇の花はお前が育てているのか?」
「はい、そうですよ」
「うむ、見事な花壇だ。褒美をとらせよう」
「えっと、それは大丈夫です」
なんだか堂々としてて仰々しくて本物の王子様みたい。
きっと「なりきり」とかいうものをしているんだろうな。
私はほほえましい気持ちで「なりきり」につきあう事にした。
彼の設定では、どこかの小国の王子様ってことになるみたい。
王子様は、その後満足したような笑みで帰っていった。
よく分からないけれど、私も楽しかったので良い時間だったなと思った。
今日も花壇にお水をあげましょう。
暗い顔をした先生がタバコを吸いにやってきた。
けれど、生徒がいる事に気が付いてタバコを消してしまいます。
「お花にお水をあたえたらすぐにあっちにいっちゃいますね」
「別に気を遣う必要はねーよ。っていうか、お前は、タバコを吸うなんて恰好悪いって思わないのか」
「健康に悪いのは事実ですけど、恰好悪いなんて思いませんよ」
「そうか」
先生はどこかほっとした様子で、安堵の表情になった。
学校の先生はきっと大変。
たくさんの人達の安全に気を配ったり、勉強の状況をチェックしなくちゃいけないから、ストレスを発散したくなるんだと思う。
私達のために頑張ってくれてるんだから、息抜きはしっかりしてもらいたいな。
「お前は良い生徒だな、できた生徒がいてくれて先生は嬉しいよ」
ある日、世話をしている花に蜂がとまっていた。
蜜を吸うためな。
それともただ休憩しているだけ?
危ないから、近づかずにそっと見守っていると、存在感の薄い男子生徒と自称王子様と先生がやって来た。
皆は互いの顔を見ながらどこか険しい顔をしている。
一体どうしたんだろう。
「お前があっちにいけ」とか言ってケンカをしはじめた。
私は慌てて、仲裁に入る。
すると彼等はすぐ仲良しに。
よかった。
ケンカをするより仲良くやっていたほうがいいに決まっているもの。
「君は本当にいい子だね」
「お前は優しいんだな」
「皆を平等に気にかけられるヤツはなかなかいねぇよ」
三人と仲良くお話をした後、そこにどこかミステリアスな少年がやってきた。
黒いシャツに黄色いネクタイ。
それはさっき見ていた蜂を思い起こさせる色彩だった。
「花はどうしてよってくる生物に蜜をあげるのだと思う?」
「その人が、お腹が空いているから?」
私は分からなかったけれど、とりあえずそう答えた。
「利用するためだよ。厳しい自然界で生きていくために。無償の善意なんて存在しないさ。どんなに優しい人間でもね」
花の話をしていたはずなのに、どうして人間の話になっているのだろう。
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「君は、本音を忘れてしまって、建前を本音だと信じきっているんだね」
小さい頃、私は様々な図鑑を調べて、色々な花を育てていた。
どの花も魅力的で愛らしい。
素敵な花ばかりだった。
やっぱり花の事を一番に考えて、親身になって世話をしていたのが良かったのだろう。
あれから、育てていた花を枯らす事はなかった。
だから、私は思う。
私が見たいと思った花を見るには、花の事を一生懸命考えればいいのだと。
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