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透けてるブランディシュカ

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〇140 婚約破棄はもう七度目です 呪殺令嬢は運命に翻弄される

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 私はこういう運命の元に生まれてきたのだろうか。

「君と結婚なんてできるわけがない!」

 ああ、まただ。

「婚約破棄だ! 僕の目の前から消えろ!」

 何度繰り返せば良いのだろう。

「人に迷惑をかけるような奴は生理的に受け付けないんだ。だから、お前を妻にすることは無理だ」

 また、婚約破棄された。

 これで七度目だ。






 私は人から呪殺令嬢と呼ばれている。
 それはなぜか?

 関わった者達が、ことごとく無残な死をとげたり、怪我をするからだ。

 そのおかげで、嫁の貰い手がつかない。

 没落しそうな家のために、良い家とつながりを持ちたいと思っているが、関わった家からはことごとく婚約を無しにされる。きつい。

 苦労して、相手とのお見合いにこぎつけ、良い印象を与えて婚約に、と行くところまでは良い。

 けれど、そこから先になかなか進まなかった。

 だから両親は、娘の人生があまりにもうまくいかないために「何か悪霊でもとりついているのでは」と思うようなってしまっていた。

 実際両親二人は、

「貴方には、もしかして何かよからぬものが付いているんじゃ」
「お前の言う通りだ。きっとそうだろう。一度見てもらった方が良いかもしれないな」

 このような反応だ。

 私は「お母様、お父様。気にしすぎですわ」と、笑い飛ばしたのだけれど、二人の目は本気だった。

 そのため、心配顔になった両親に、専門家に見てもらう事になったのだ。

 それで、何百人ものお客さんを見てきたという専門家中の専門家の前に出向いたら、私を見て真っ青になった。

「ひぃっ!」

 しかも不吉な事に、その人は私と出会った瞬間に叫び声をあげて、気絶してしまったではないか。

 どうやら私の体の中には、かつてこの世界を滅ぼそうとしたものがいるらしい。おとぎ話の中にでてくるような存在、邪神が眠っているとか。





 両親には気の毒な結果になってしまった。

 私を心配して、わざわざ専門家を探してくれたというのに。

「私には手に負えません」と専門家にさじをなげられてしまったからだ。

 これはもう本格的にお嫁にはいけないな、とそう思った。

 あいかわらず身の回りでは不幸な人死にが出ていて、どこから広まったのか知らないが「邪神の子」とか言われる始末。「呪われている」とか「近づいたら死ぬ」とかショッキングだが、あながち間違っていないから否定しづらい。

 いよいよ嫌われ者の立場も極まってきたかと思えてきた頃。

 悪口を言っている集団の中に、

「あのご令嬢、人を呪殺する力があるみたいですわよ」
「家で藁人形にクギを打っているとか」
「馬鹿らしい。そんな噂で人を見る目をくもらせるなど、あってはならない事だ!」

 その人物が現れた。

 とある名家のご子息。

 鋭い目つきをした彼は、噂話に興じるご令嬢に一喝し。私の元へやってきた。

 そして、

「私と婚約していただけませんか?」

 と、婚約を申し込んできたのだ。

 当然、私も両親も驚いた。

 こちらが散々働きかけて、やっとこぎつける事ができるのが「私達にとっての婚約の常識」。

 それなのに、向こうから婚約の話を出されるとは。

 夢にも思っていなかった。






 そういうわけで、私は彼の家とお付き合いする事になった。

 貴族の婚姻は平民同士のそれとは違うため、交流を持ち、血筋を保つために、家族や親せきと何度もやり取りをしなければならない。

 だから、婚約者となった彼以外の人とも、話をする事になったのだが。

「うちの息子をよろしくおねがいしますね」
「噂はやはり噂だな、家族思いの良い子じゃないか」
「おにいさまをよろしくお願いしますわ! ほんとうはわたくしが、おにいさまのお嫁さんになりたかったんですけども!」

 ご両親も、親戚の人達も、みな友好的に接してくれたのだ。

 しかもなぜだか、その頃から身の回りの不幸がだいぶ減った。

 人死にが出るわけでもない。怪我をする人がいるわけでもない。

 首をかしげていると、婚約者である彼が昔話をしてきた。

 それは、二人っきりになった時のことだ。

「昔とあるご令嬢と一緒に遊んでいた事があってね、けれど、そのご令嬢と一緒にいる人達が次々と怪我をしてしまった。当時は不思議に思っていたよ」

 懐かしそうな顔をして彼が話すのは、私の過去にまつわる事でもあった。

「君の噂を聞いて、最初は恐ろしいと思った。けれど、友達を心配している君を見て、怪我をしている人達を懸命に助けようとしている君を見て、胸をうたれたのさ」

 その事実は、私の記憶の中にもしっかりと焼き付いている出来事だ。

 何度も何度も誰かが傷つくのを見てきた。

 それでも、家の為、両親の為と思いながら、人と距離をとりつつも社交界に出続けた。

「君をとりまく運命については正直あまりよく分かっていない所が多いけれど、でもこんな心優しい人が、運命に振り回されるのは間違っているって思ったよ」

 だから、と彼は続ける。

 遙か昔の古代では、邪神を封じるために戦った存在がいた。
 それは女神だ。

 邪神と戦い、相打ちになった女神は、どこかで眠りについているらしいが、それは……。

「この体には女神が眠っているらしいんだ。だから女神の力が働いて、身の回りの人間を手厚く庇護してくれる。君はもう一人にならなくていいんだよ」

 私は、今まで自分をとりまく運命に辟易していた。憎み、呪った事も少なくなかった。

 だから、運命なんて言葉耳にするだけでも嫌だったのに。

「運命という言葉を聞いて、嬉しくなるなんて思いもしませんでしたわ」

 都合の良い考えだと思うけれど、今だけは彼と私を導き合わせてくれた運命に感謝しようと思った。

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