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+02 当たり前の便利さ

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 ずっと昔は、隣の町までいくのにもすっごく時間がかかったんだろうな。

 町の展望台に上った時、たまにそう思うんだ。

 きっと昔の人にとって、世界はうんと広かったに違いない。

 なんでこんな事考えてるかって?

 今、電車に乗ってるから。

 とまってる、やつにね。

 何気なく使っている電車が遅れて、みんながイライラしてる。

 三分。五分。

「会社に送れる」とか「今日は試験があるのに」とか、皆暗い顔でぶつぶつ。

 こっちは大事な用事なんてないのに、どうしてだか私まで暗い気持ちになってしまう。

 文明の発達とか、科学技術の向上とかで、皆すごく豊かになったと思うよ。

 でも、その反面。

 すごく大事な事を忘れちゃってる気がするな。

 たとえば、そう……感謝とか?

 電車が遅れるのはもちろん駄目な事だと思うよ。

 運転手さんとか駅員さんとか誰かがミスしたのなら、しっかりしてって思うし、誰かが小石をなげたり障害物を置いたりして、そういういたずらするのもいけないと思う。

 けど、「間に合ってあたり前」って思っていない?

 私は、皆がたくさん苦労して「不便が当たり前」であるはずなのを「便利で当たり前」に変え続けてくれているんだと思ってる。

 水も、電気も。
 ひょっとしたらガスとかも。

 昔よりずっと便利で、思った所にすぐいけるのに、便利なのが、出来るのが普通って思うのはなんだかとても失礼だと思う。

 なんて考えてたら。

 運転手さんの声。

 放送だ。

 車内にほっとした雰囲気。

 ゆら、と動き出す車体。

 あ。

 もう解決したんだ。

 ガタゴト。音を立てて早くなっていく電車の中で、私は周りの人達の顔を見る。

 大変な人じゃなくていい、余裕がある人でいいから、「大変だったね」、「ありがとう」って思っててほしいな。

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