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第二章 アリオ・フレイス

第23話 アリオ・フレイス

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 今日、公演が終わった後に女の子が控室にやってきた。
 俺の幼なじみで、知り合いだ。

 その子とは、長い付き合いになるので、色んな事を知ってる。
 絵がすごく下手だという事や、料理がとても下手ヘタだという事とか。

 でも俺はそんな幼なじみの女の子の事が好きだ。
 その子の名前はアリシャ。
 貴族だけど、子供の頃も今も垣根を感じさせずに一緒に接してくれるから、俺にとっては特別な存在だった。

 アリシャは良い子だ。
 貴族の権力を無駄に振るったりしないし、平民の俺とも遊んでくれる。
 それに、人間として性格が優しいし、明るくてとても好きになれた。
 耳とか尻尾とか触る時も、たまに他の人がやるみたいに無遠慮なのじゃないし、優しいし気持ちいいし、ちゃんと触って良いか聞いてくれる。
 だから、大好きだ。

 でも俺は、そんなアリシャに一つだけ良くない感情を抱いていた。

 いけない事だと思いつつも、その黒い感情は止める事が出来なかったし、どうやっても無くす事が出来なかった。

 俺は子供の頃から、不運だった。
 色んな事で遠回りしたり、やらなくていい事もたくさんやった。何かやりたい事があってもその邪魔が入るのは日常茶飯事だ。

 だから俺はいつも、何かをしたかったらそれをカバーする為に、血のにじむ様な努力をしなければならない。
 人が簡単に飛び越えられる障害を、何倍もの時間を費やしていかなくちゃならなかった。

 だから、俺は小さい頃からずっと、アリシャの様な幸運な人間が妬ましかった。
 ただ良い家に生まれただけで、ただ優しい人に囲まれただけで、幸せになれる。
 アリシャを見ていると、妬ましくなってしまうのだ。
 
 良くない事だと分かっていても。

 未だに不思議に思ってしまう。
 アリシャは何で不幸なアリオ・フレイスなんかと一緒にいるのか。
 何か裏があるのではないかとたまに思ってしまうのだ。

 それが間違った感情である事はよく分かっているのに。

 アリシャが恵まれているのは、アリシャが悪いわけじゃない。
 そもそも恵まれている事は悪い事などではないというのに。
 アリシャが不幸な目に遭ったら、俺は悲しくなってしまうだろう。

 けれど止められない。
 そんな気持ちが増えていく事を抑える事ができなかった。
 
 俺の気持ちなんて何も知らずに笑ってる彼女を引き裂いてしまいたくなる。

 こんな事考える俺は、悪い子だ。
 不幸になって当然だ。
 もしかしたら、俺がそんな人間だから不幸になったのかもしれない。

 こんな事考えてて……ごめんね、お嬢。

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