二周目悪役令嬢は、一味違う。 ~ヤンデレ乙女ゲームの世界でヒロインの代わりに攻略対象を導くよう、神様に言われました~

透けてるブランディシュカ

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第五章 邪神ミュートレス02

第53話 その人自身を見る事

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 本来なら眠っていても良い時間。
 しかし休息をとるのは後。お兄様と、ウルベス様、アリオやトールを集めてこれからの事について話しあう事にした。

 本来なら、そんな時刻に男性を部屋に呼ぶのは常識的ではないが、兄も同席しているし大丈夫だろう。後々誰かに言われるかもしれないが、非常事態なので今気にしていても仕方がない。

 部屋に集まった面々を見回して、まずお兄様とウルベス様の二人に視線を向ける。

 アリオに相談した後に、屋敷の庭に邪神がいるという内容の手紙を送っていたのだが、私がそうした目的は討伐などではないのだ。(ちなみに情報の出所については、加護をもらった時に女神ユスティーナ様から聞いたという事にしておいた)

「助けて下さった事は嬉しいですけど、お兄様もウルベス様も逸り過ぎですわ。私は戦うつもりで助力をお願いしたわけではありませんのに」

 私に強い口調でそう言われたのがよほど意外だったのか、二人は目を丸くして驚いた。
 だが、さすがというか人間ができているというか、彼等はすぐに頭を下げて、謝罪の言葉を口にしてくれた。

「誤解して悪かったね、アリシャ」
「面目ない。この通り詫びようアリシャ殿」
「はい、ありがとうございます」

 過ぎた時は戻せないから、それ以上こちらから言う事は無い。
 早期解決に至る為に、些細な行き違いを訂正した後は、すぐに本題へと入る事にした。

 頭をあげたお兄様がまず疑問を口にした。

「誤解した事は申し訳ないよ。だが、しかしアリシャはどうするつもりだったんだい?」
「説得しようと思ってました」
「まさかと思うけどね、あの邪神に?」
「ええ、何か問題でも?」

 だが、私がそう言葉を返すと、その場にいた全員が信じられないといった顔をする。

 その中で一番立ち直りが早かったらしいウルベス様が、私に言葉をかけてきた。

「分かってるのか、婚約者殿。相手は邪神だ。普通の存在とは違う。あれは堕ちた存在で、我らを守ってくださる神ではないのだ」
「いいえ、何も違いません。例外なんてありませんわ。貴方だって、エルフではなくハーフエルフですわよね」
「それとこれとは……違う」

 ウルベス様は、躊躇いながらも反論してくる。
 迷いが見られる表情ながらも、おそらく私を心配してくれているのだろう。

「相手が狂暴であってり、邪悪であったりする事は、その方の在り方には関係ありませんわ。それはその方の心が悪いだけの事ですもの。神様だから、人だから特別だなんて、おかしな考え方だと思いませんか?」
「それは……っ。いや、そうだな。申し訳ない。種族や生まれの違いを理由にする愚かさなら、私はよく分かっていたはずだったのだが……」
「構いませんわ。心配してくださっての事でしょうし。ウルベス様はその事はちゃんと分かっているでしょうから」
「すまなかった」

 落ち込むウルベス様に「気にしていませんわ」と言葉をかけながら私は思う。

 その人を見て判断する、ということは「ラブ・クライシス」の中では大切な事だった。
 ハーフエルフ、獣人、吸血鬼。
 攻略達章たちはみなそれぞれ、主人公とは違う種族で、そして多数からみた少数の存在だ。

 アリオ以外は、みな己の種族の問題で、多数が思う意見に苦労してきた。
 直接的な苦労を強いられてこなかったアリオにしても、生まれ持った体質で苦汁を舐めてきているのだ。

 だからこそ、彼等は差別なく己を見て欲しいと思っている。
 ゲームでの攻略対象者は、そうしてくれるヒロインに恋をしてくれていたのだ。

 だから、邪神であってもそれは同じなのだろう。
 神様だから、堕ちた邪神だからと線を引いて考えるべきではない。

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