9 / 97
09
しおりを挟む「ヴォルフ!」
呼び掛けられた声に、ヴォルフは後ろを振り返る。小走りでヴォルフに並んだ男は同時期に騎士となったアードだ。
何だかんだ同期ということもあって一緒に居ることも多い。
「いよいよ今日が退団式かぁ」
「…ケルン騎士団長、体は大丈夫なのか?」
「まぁ、何とかな。本人はもっと居たかったらしいけど、母さんが体を心配してなー。親父も若く無いし病気持ちなんだから、無理しない方が家族としてはいいしさ」
アードは苦笑いを浮かべながら、ポリポリと頬を掻いた。
アードはケルンの息子だ。それを入団の時に知って驚いた。アードの方はよくケルンから話を聞いていたらしく、ヴォルフの事は知っていたらしい。
「それより、副騎士団長って誰だろうな!」
本日、ケルン騎士団長の退団式が行われる。次の騎士団長は副騎士団長であるザックだ。
そして、副騎士団長が新たに選ばれる。
「さぁな。だが、先輩方の誰かだろう」
「そうだなぁ…」
ヴォルフは今、入団してから7年目、23歳だ。だいたい副騎士団長に選ばれるのは経験を積んだ30代。
だから、選ばれるならその年代の先輩騎士だろうとヴォルフは返す。
「でも、俺はヴォルフもありだと思うけどな?」
「は?」
「だって、騎士団の中でも屈指の剣の使い手。しかも、状況判断なんかも的確だしよ。…ありだと思うけど」
入団した頃からヴォルフは惜しみ無く剣技の才能を開化させていた。今では先輩騎士をも圧倒する強さだ。
それに、冷静さも持ち合わせている。実力的には選ばれても問題ないとアードは思っているのだが、ヴォルフはそれは無いだろうと肩を竦めた。
「なしだろ」
「ちぇー、つまんねぇな」
「ほら、ケルン騎士団長の退団式なんだから、しゃんとしろ。息子だろう」
「はいはい」
会場について指示通りに他の騎士達と共に並んでいれば、ザックとケルン、そして国王であるガレンが現れる。
一斉に頭を下げた騎士達に合わせて二人も頭を下げた。
そして、ケルンの退団式が始まった。
「ケルン騎士団長、国王陛下の前へ」
「はい」
指示に従ってガレンの前に出たケルンは腰に携えていた剣を鞘ごと取り外すと、跪いて頭を下げ、その剣を献上するかのように上へと持ち上げた。
「ケルンよ。そなたは今までわしの、そしてこの国の剣としてよく働いてくれた。お前のおかげでこの国は平和であった。これからは、守られる側へと移り、ゆったりと過ごすが良い」
ガレンはそう労いの言葉を掛けると、ケルンから剣を受け取った。手から剣の重みが消えると、ケルンはすっと立ち上がり、頭を下げたまま後ろへと下がる。
「ザック副騎士団長、国王陛下の前へ」
「はっ」
今度はザックがガレンの前に行って跪く。
「次の騎士団長にザック=ボレルを任命する!この剣の重みを、誇りを決して忘れる事なく、この国の剣として騎士達を纏めあげよ」
「はっ!」
ガレンの手によってザックにケルンの剣が受け渡される。
騎士団長の剣は特別な物で、代々受け継がれている。その剣には歴代の騎士団長達の重みが込められていた。
ザックは立ち上がると、それを大切そうに腰に携える。そして、今日この瞬間から、ザックが騎士団長になったのだった。
「そして、続いて副騎士団長を任命する!」
ガレンの言葉に騎士達が目を輝かせた。副騎士団長へと選らばれるのでは、と目に見えてそわそわする者もある。
そんな中でヴォルフは誇らしげに立っているザックを見て、表情を和らげていた。
そして、新たな副騎士団長となる人物の名前が呼ばれる。
「新たな副騎士団長は、ヴォルフ=ホードンだ!」
「は…?」
ガレンの言葉にヴォルフは反応出来なかった。ただぽかん、と口を開けた状態で、ガレンを見る。
「ヴォルフ=ホードン、前へ」
式を取り仕切っていたガレンの従者に促されて、ヴォルフはやっとの思いで口を閉じる。
戸惑いながらも、ざわめく騎士達の間をすり抜けて前へと出た。
ちらりとザックをの様子を伺えばニコニコとしている。
そんなザックから視線を逸らして、ガレンの前にケルンやザックと同じように跪いた。そうすれば、ガレンがゆっくりと口を開く。
「ヴォルフ=ホードンよ。そなたはまだ若いが、わしはこの地位に最も相応しいのはそなただと思っておる。飛び抜けた剣の才能、冷静さ、判断能力。どれも副騎士団長になるのに適している。自信を持って副騎士団長を務めよ」
「…はっ」
ガレンの言葉にヴォルフは深く頭を下げた。
まだ頭が追い付いていない部分も多いが、ガレンからの指名に背く訳にはいかない。それに、騎士団に所属している以上、ヴォルフとて上を目指していたのだから、喜ばしい事だ。
そうしてヴォルフは23歳という若さにして、副騎士団長に任命されたのだった──…。
6
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします
紫
恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。
王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい?
つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!?
そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。
報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。
王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。
2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……)
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる