悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「ヴォルフ!」


 呼び掛けられた声に、ヴォルフは後ろを振り返る。小走りでヴォルフに並んだ男は同時期に騎士となったアードだ。
 何だかんだ同期ということもあって一緒に居ることも多い。


「いよいよ今日が退団式かぁ」

「…ケルン騎士団長、体は大丈夫なのか?」

「まぁ、何とかな。本人はもっと居たかったらしいけど、母さんが体を心配してなー。親父も若く無いし病気持ちなんだから、無理しない方が家族としてはいいしさ」


 アードは苦笑いを浮かべながら、ポリポリと頬を掻いた。
 アードはケルンの息子だ。それを入団の時に知って驚いた。アードの方はよくケルンから話を聞いていたらしく、ヴォルフの事は知っていたらしい。


「それより、副騎士団長って誰だろうな!」


 本日、ケルン騎士団長の退団式が行われる。次の騎士団長は副騎士団長であるザックだ。
そして、副騎士団長が新たに選ばれる。


「さぁな。だが、先輩方の誰かだろう」

「そうだなぁ…」


 ヴォルフは今、入団してから7年目、23歳だ。だいたい副騎士団長に選ばれるのは経験を積んだ30代。
 だから、選ばれるならその年代の先輩騎士だろうとヴォルフは返す。


「でも、俺はヴォルフもありだと思うけどな?」

「は?」

「だって、騎士団の中でも屈指の剣の使い手。しかも、状況判断なんかも的確だしよ。…ありだと思うけど」


 入団した頃からヴォルフは惜しみ無く剣技の才能を開化させていた。今では先輩騎士をも圧倒する強さだ。
 それに、冷静さも持ち合わせている。実力的には選ばれても問題ないとアードは思っているのだが、ヴォルフはそれは無いだろうと肩をすくめた。


「なしだろ」

「ちぇー、つまんねぇな」

「ほら、ケルン騎士団長の退団式なんだから、しゃんとしろ。息子だろう」

「はいはい」


 会場について指示通りに他の騎士達と共に並んでいれば、ザックとケルン、そして国王であるガレンが現れる。
 一斉に頭を下げた騎士達に合わせて二人も頭を下げた。

 そして、ケルンの退団式が始まった。


「ケルン騎士団長、国王陛下の前へ」

「はい」


 指示に従ってガレンの前に出たケルンは腰に携えていた剣を鞘ごと取り外すと、ひざまづいて頭を下げ、その剣を献上するかのように上へと持ち上げた。


「ケルンよ。そなたは今までわしの、そしてこの国の剣としてよく働いてくれた。お前のおかげでこの国は平和であった。これからは、守られる側へと移り、ゆったりと過ごすが良い」


 ガレンはそうねぎらいの言葉を掛けると、ケルンから剣を受け取った。手から剣の重みが消えると、ケルンはすっと立ち上がり、頭を下げたまま後ろへと下がる。


「ザック副騎士団長、国王陛下の前へ」

「はっ」


 今度はザックがガレンの前に行って跪く。


「次の騎士団長にザック=ボレルを任命する!この剣の重みを、誇りを決して忘れる事なく、この国の剣として騎士達を纏めあげよ」

「はっ!」


 ガレンの手によってザックにケルンの剣が受け渡される。
 騎士団長の剣は特別な物で、代々受け継がれている。その剣には歴代の騎士団長達の重みが込められていた。

 ザックは立ち上がると、それを大切そうに腰に携える。そして、今日この瞬間から、ザックが騎士団長になったのだった。


「そして、続いて副騎士団長を任命する!」


 ガレンの言葉に騎士達が目を輝かせた。副騎士団長へと選らばれるのでは、と目に見えてそわそわする者もある。
 そんな中でヴォルフは誇らしげに立っているザックを見て、表情を和らげていた。
 そして、新たな副騎士団長となる人物の名前が呼ばれる。


「新たな副騎士団長は、ヴォルフ=ホードンだ!」

「は…?」


 ガレンの言葉にヴォルフは反応出来なかった。ただぽかん、と口を開けた状態で、ガレンを見る。


「ヴォルフ=ホードン、前へ」


 式を取り仕切っていたガレンの従者にうながされて、ヴォルフはやっとの思いで口を閉じる。
 戸惑いながらも、ざわめく騎士達の間をすり抜けて前へと出た。

 ちらりとザックをの様子を伺えばニコニコとしている。
 そんなザックから視線を逸らして、ガレンの前にケルンやザックと同じように跪いた。そうすれば、ガレンがゆっくりと口を開く。


「ヴォルフ=ホードンよ。そなたはまだ若いが、わしはこの地位に最も相応しいのはそなただと思っておる。飛び抜けた剣の才能、冷静さ、判断能力。どれも副騎士団長になるのに適している。自信を持って副騎士団長を務めよ」

「…はっ」


 ガレンの言葉にヴォルフは深く頭を下げた。
 まだ頭が追い付いていない部分も多いが、ガレンからの指名に背く訳にはいかない。それに、騎士団に所属している以上、ヴォルフとて上を目指していたのだから、喜ばしい事だ。

 そうしてヴォルフは23歳という若さにして、副騎士団長に任命されたのだった──…。
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