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しおりを挟むざわざわと騒がしい声にヴォルフはまたか、と深くため息をつきながら、そちらへと向かった。
副騎士団長に任命されてから約2年。華やかな場である舞踏会に、王族の警護の為に参加する事が増えた。
それは仕事だし別に構わないのだが、ここ最近はある人物にヴォルフは悩まされていた。
遠巻きにヒソヒソと話す貴族の間をすり抜けて、騒ぎの中心へと目を向ける。そして、ヴォルフは再び深いため息をつく。
「貴方のような方がレオン殿下の周りを彷徨くのが目障りですわっ!私の婚約者を奪おうとしているのでしょう!?」
手に持った扇子を力一杯握りしめながら、声を荒げるのはアイフェルリア公爵家の令嬢であり、王太子レオンの婚約者でもあるレフィーナ=アイフェルリアだ。
「そ、そんなつもりはありません…」
対して、レフィーナの言葉にふるふると首を横に振るのはルイス侯爵家の令嬢であるドロシー=ルイスだ。
何がきっかけかはヴォルフもよく知らないが、こうしてレフィーナがドロシーに絡むのは初めてではない。既に何度も繰り返されており、あまりの令嬢らしからぬ振るまいに、レフィーナは「毒花」なんて呼ばれるようになっていた。
嫉妬なのか、怒りなのか、綺麗に着飾ったレフィーナに不釣り合いな表情に、ヴォルフはいつも腹の中がぐるぐると気持ち悪くなる。
そして決まって、暴力を振るう母の顔が思い浮かぶのだ。
「…そこまでにしたらいかがですか、レフィーナ嬢」
吐きそうな気持ち悪さを表情に出さないように気を付けて、ヴォルフは二人の間に割り込んだ。
割り込んだヴォルフにレフィーナは握り締めていた扇子をばさり、と開いて口元を隠す。
すっと細められた緋色の瞳には、邪魔をするな、とでも言いたげな感情が宿っている。
ヴォルフがレフィーナをよく思っていないように、レフィーナもヴォルフをよく思っていないのだろう。
「あら、副騎士団長のヴォルフ様ではありませんか。私はただ忠告して差し上げただけですわ」
「…あんなに醜い忠告など、意味はないでしょう」
はじめの方はもっと言葉を選らんでいたが、今となってはそんな気も起こらない。
「醜いのはドロシー様ですわ。人の婚約者に媚びるのですもの」
「こ、媚びてなどいません…」
「あら!レオン殿下と仲良くしているのを知らないとでもおっしゃるの…!?」
これは完全にレフィーナの言いがかりだ。ドロシーはそういったタイプの人間ではない。
それに、レフィーナがこうしてドロシーを傷付けるから、レオンがフォローに回っているのだ。
「レフィーナ嬢」
「…ふん、口煩い騎士だこと」
威嚇するように低い声を出せば、レフィーナはふいっと顔を逸らした。
レフィーナの性格ならば、不敬とも言われかねないヴォルフの態度を放置する訳がないのだが、その事にヴォルフは気づかない。レフィーナの本当の思惑など気付かず、ヴォルフはただレフィーナに母の面影を感じて嫌悪する。
「ドロシー嬢…!」
ふと、一人の青年の声がその場に響いた。
この場の誰よりも豪華な服を纏った青年はドロシーに駆け寄る。
「レオン殿下…」
王太子であり、レフィーナの婚約者であるレオン。そんなレオンが真っ先に駆けつけたのは、婚約者のレフィーナの元ではなく、ドロシーの所だった。
「ふんっ…!」
そんなレオンに眉を寄せたレフィーナがその場を去っていく。
いつからか、レオンはレフィーナを追わなくなった。初めの頃はドロシーに謝罪し、真っ先にレフィーナに寄り添っていたのに。
完全にレフィーナからレオンの心は離れてしまったのだと、その場にいるヴォルフも貴族も気づいていた。
そして、もうすぐレフィーナがレオンの婚約者から外されるとも、噂されている。
正直、ヴォルフはその方がいいと思っている。レフィーナと犬猿の仲と呼ばれるようになった頃には、ヴォルフはレオンや国王にレフィーナを婚約者から外すべきだ、と何度も苦言を呈していたぐらいだ。
優しいレオンは暫くの間はレフィーナを婚約者として庇っていたが、もう耐えられなかったのだろう。いつしか、ヴォルフの言葉に反論する事もたしなめる事も無くなっていた。
「ヴォルフ、ありがとう」
「いえ…」
「私はドロシー嬢を少し休ませるよ」
「では、私が部屋まで護衛致します」
「あぁ、頼むよ」
そっとその場から立ち去るレオン達に続いて、ヴォルフは歩き出す。
ふと、何となく振り返って去ったレフィーナを探せば、貴族の間からちらりと姿が見えた。会場を後にするレオンとドロシーに向けられていた表情は、ひどく静かなものだった。
しかし、それも一瞬で、ヴォルフの視線に気づくときっと目尻をつり上げて、今度こそ見えない場所へと行ってしまった。
「ヴォルフ?」
「…すみません、すぐに行きます」
少しだけ、あの静かな表情が引っ掛かったヴォルフだが、すぐに気のせいだと思いだし、レオン達と共に会場を後にしたのだった。
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