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しおりを挟む声のした方へと視線を移せば、顔を真っ赤にした侍女長が近づいてきていた。どうやら侍女長も食堂に居たらしい。近づいてきた侍女長はメラファとヴォルフを見てから、眼光を鋭くしてレフィーナを見た。
「レフィーナ!どうせ貴方が原因でしょう!」
「ち、違います!これは私が勝手に…」
侍女長の言葉にメラファが即座に否定する。しかし、それはあまり意味のないことだった。
「まぁ!メラファに責任を押し付けるなんて!メラファもこんなのを庇うんじゃありません!それとも、本当に貴方が騒ぎを起こしたというのですか…!」
侍女長の威圧感たっぷりの言葉と雰囲気に、メラファの肩がビクリと跳ねる。
自分が原因ではあるからと、ヴォルフが侍女長を宥めるために口を開く。が、それよりも早くレフィーナが立ち上がった。
「いいえ。メラファさんのせいではありません。私が騒ぎを起こしました」
「レ、レフィーナさん…!?」
立ち上がったレフィーナはメラファを庇うように侍女長に頭を下げた。その様子にヴォルフは眉を寄せる。あのレフィーナがただの侍女仲間を庇うことに違和感を感じたのだ。
何か裏があるのではないかと考える。
「…レフィーナ、来なさい!」
「はい」
怒りを強くした侍女長の言葉にレフィーナは素直に頷いて、二人は食堂を去っていった。姿が見えなくなった頃、強い視線を感じてメラファの方へヴォルフは金色の瞳を向ける。そうすれば、ヴォルフを睨んでいたメラファが怒りで体を震わせながら口を開いた。
「…今のを見ても、まだ性格が悪いだなんて言えますか…!?」
今の、と言うのはメラファを庇ったことだろう。
ヴォルフは少し考えるようにレフィーナ達が去って行った扉に視線を向ける。
レフィーナがいい人、という風にはやはりヴォルフには思えなった。そこで、城門でのやり取りを思い出して、再びメラファに視線を移す。
「猫でも被ってるんだろ。これだけの人の前でお前を庇えば、自分の印象が良くなるとでも考えたんだろ」
この考えが一番ヴォルフの中でしっくり来た。しかし、メラファは睨むのを止めず、絞り出すように声を出す。
「…令嬢が…、令嬢だった人が…」
「なんだ」
「鞭打ちされると分かっていて、自分の印象を良くするためについていくと思いますか…!」
メラファの口から出た鞭打ちという言葉にヴォルフの心臓がどくり、と嫌な跳ね方をする。脳裏に手を振り上げる母親が過って動揺した。その動揺を隠せないまま、ヴォルフは言葉を紡ぐ。
「…それは…」
「それに、毒花とまで言われた人ならあの場で私を庇うんじゃなくて、私がやったと言うんじゃないですか…?」
「………」
涙目のメラファの言葉に、もうヴォルフは何も言えなかった。
メラファの言う通り、令嬢だった頃のレフィーナは自分の体に傷をつけてまでメラファを庇ったりしないだろう。
そう考えると、城門で感じたもやもやとしたものが、再びヴォルフの中に広がった。
「…すまなかった。悪く言って。少なくとも、こんな所で話す事ではなかった」
「……謝るならレフィーナさんにです。…私も声を荒げてすみませんでした。私はこれで失礼します」
メラファは頭を下げると、トレイを片付けて早足に去って行った。ヴォルフはそんなメラファを見送ると、腕を組んで考え始める。
嫌いだったから、母親を思い出すから、ヴォルフはレフィーナの事を考えたことなどなかった。だけど、それではこのもやもやは分からないままだ。
嫌な物を押し留めて、令嬢の時のレフィーナを思い出してみる。感情に左右されず客観的に捉えてみれば、すぐにおかしな点がある事に気がついた。
なぜわざわざレオンやヴォルフ、他の貴族の前でドロシーを罵っていたのだろうか。影でやるだけならまだしも、あんな風に人前でやっていては自身の評判を落とすだけの行為だ。それに、わざわざそんな事をしなくても、レフィーナはレオンの正式な婚約者で、あのような事がなければいずれ結婚出来ていた。ドロシーに嫉妬しての行為にしてはやり過ぎている。
「あのぉ、ヴォルフ?」
「…なんだ」
考え込んでいたヴォルフにアードが控えめに声を掛ける。思考を打ち切ってアードに視線を移せば、少し話しづらそうに口を開いた。
「さっき話そうと思ってたんだけどよ…。そのあの毒…いやレフィーナちゃんさ、午前中にレオン殿下と廊下で出会ったらしいんだけど…」
「…レオン殿下と…」
「そう。ドロシー様も一緒にね。だけど…怒ることもなく、ただ黙って頭を下げたんだって。しかも、レオン殿下の言葉やドロシー様に怒ることもなかったらしい」
アードの話に、ヴォルフの中で点が線となっていく。
レオンやヴォルフ、貴族達にわざと見せつけるかのようなやり方。
舞踏会の時に見たレオン達を見る静かな表情。
犬猿の仲だったヴォルフに向かって躊躇いも無く下げた頭。
城の者の視線を当然というかのように受け止める姿。
そして、何よりレオンとドロシーに会った時の態度。
それらを繋ぎ合わせてみれば、今のレフィーナが本来の性格で、令嬢のときは何か意図があって苛烈な令嬢を演じていたのではないか。そういう結論にヴォルフは至った。
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