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されるがままのヴォルフが面白かったのか、レフィーナがくすりと笑う。それに気付いた店員の意識がそちらに向いた。
「それにしても、ヴォルフがこんなべっぴんさんを捕まえるなんて…中々やるな!ん?」
「別にそんな間柄じゃない。それより、いい加減仕事しろ!」
「ははっ!照れてやがる!ヴォルフはいつものでいいだろ?嬢ちゃんは何にする?」
「…えっと…」
注文を聞かれてレフィーナが慌てたように、メニューに目を通し始める。ペラペラとメニューをめくっていたレフィーナが手を止めると、ふっと顔を綻ばせた。どこか懐かしそうな表情だった。
「じゃあ、オムライスをお願いします」
「ふっ…。はいよ!ちょっと待ってな!」
まさか自分と一緒のものを頼むとは思っていなくて、内心驚いた。城の食堂ではオムライスは出ないし、勿論令嬢はそんなものを食べない。なのにレフィーナはオムライスがどういうものか尋ねること無く頼んだ。
その事を疑問に思ってレフィーナを見れば、懐かしさと切なさを織り混ぜたような、そんな複雑な表情を浮かべていた。
どこか遠い日を懐かしみ、そして寂しく思っているような…そんなレフィーナにヴォルフの胸がきゅっと苦しくなる。声をかけることも何だか躊躇われて、結局料理が運ばれてくるまでただ見つめていることしか出来なかった。
「お待たせな」
二つのオムライスを持ってきた店員がそれぞれの前に置く。そうすれば、レフィーナが自分のオムライスを見てから、ヴォルフの方に視線を移した。そして、驚いたように緋色の瞳を丸くする。
オムライスはどちらかと言えば子供や女性が好む料理だ。だから、そんな風に意外そうな顔をされるのも仕方ないのだが、さすがに少し恥ずかしくなってヴォルフは視線を窓の外に投げながら口を開いた。
「…このオムライスは昔からよく食ってたからな。たまに食いたくなるんだよ」
「ふふっ。私も懐かしいです」
「懐かしい……?」
レフィーナの口からこぼれ落ちた言葉に視線を戻しながら聞き返せば、レフィーナがはっとしたように口を噤んだ。
やはりなにか引っかかる気がする。自分のことが他人事のようだったり、寂しそうな何かを憂うような表情だったり、食べた事のないだろう料理を懐かしんだり…。まだレフィーナには何か隠し事があるように感じる。
見極めるように真っ直ぐに見つめれば、レフィーナは誤魔化すように笑みを浮かべた。
「いえ、食べたことはないのですが、公爵家の使用人からよく話を聞いていたものですから」
「話を?」
「えぇ、そうですわ」
「……」
誤魔化そうとしているのか、口調が令嬢の時の様になっている。本人はその事に気づいていないようで、やはり誤魔化すようにニコニコと笑みを浮かべていた。そんなレフィーナを問い詰めようとヴォルフは口を開きかけたが、結局何も言わず閉じる。
ここで問い詰めるのは簡単だが、触れられたくないことを無理やり聞き出そうとは思えなかったのだ。
「…食わないと冷めるぞ」
「そ、そうですね」
居心地が悪そうなレフィーナに話題を変えるようにそう言って、先にオムライスを食べ始めた。そんなヴォルフに、レフィーナも自分の分のオムライスをスプーンで掬って口に運ぶ。
とろっとした卵と熱々のケチャップライスの味が口の中に広がる。レフィーナを見れば、熱そうにはふっと息を吐いていた。
「美味しいですね!」
「あぁ、そうだな。ここは他の料理も旨いぞ」
「そうなんですね…そう言われると他も気になります」
「また連れてきてやる」
自分でも驚くくらいにすんなりとそんな言葉が出た。でも、それを撤回する気は起きない。
こうしてレフィーナと過ごす穏やかな時間が、案外悪く無いと思う。
「ふふっ。何だか、親しい友人が出来た気分です」
「…友人、か」
「ヴォルフ様?」
嬉しそうな様子のレフィーナが言った友人、の言葉に少しもやりとしたものが胸に広がる。友人になれたらきっと楽しいし、お互いに気の置けない存在になるだろう。だが、ヴォルフはそんな関係になることに不満を感じたのだ。
そして、そんな風に思う理由もいい加減分かっている。短い間に芽吹いた物は、ヴォルフの戸惑いなんて無視して、今この時も少しずつ大きくなっていた。
そんな風に考え込んでいれば、レフィーナが急に苦しそうな声を上げたので、慌ててそちらに意識を移した。
「ぐっ、げほっ!」
「お、おい!大丈夫か?ほら、水!」
どうやら食べていたものを喉につまらせたようで、ヴォルフは苦しそうなレフィーナに水を渡す。その水でなんとか食べ物を飲み込んだらしいレフィーナは、何故か慌てた様子で窓から外を見た。それからすぐに声を上げる。
「ヴォルフ様!私を追いかけてきた奴らが今外に!」
「どこだ」
「あそこです!あっ!」
レフィーナが男女の二人組を指し示し、ヴォルフはその指の先に鋭く視線を投げた。姿を確認した直後に慌ててその二人は人混みに紛れ、それを追いかけようしたレフィーナをすぐに制止する。ここでレフィーナが追いかけるのは危険すぎるし、そういう事はヴォルフの仕事だ。
「お前はここにいろ。顔は覚えたから俺が追う」
レフィーナにそう言ってとヴォルフは立て掛けていた剣を掴んで、店の外に飛び出したのだった。
「それにしても、ヴォルフがこんなべっぴんさんを捕まえるなんて…中々やるな!ん?」
「別にそんな間柄じゃない。それより、いい加減仕事しろ!」
「ははっ!照れてやがる!ヴォルフはいつものでいいだろ?嬢ちゃんは何にする?」
「…えっと…」
注文を聞かれてレフィーナが慌てたように、メニューに目を通し始める。ペラペラとメニューをめくっていたレフィーナが手を止めると、ふっと顔を綻ばせた。どこか懐かしそうな表情だった。
「じゃあ、オムライスをお願いします」
「ふっ…。はいよ!ちょっと待ってな!」
まさか自分と一緒のものを頼むとは思っていなくて、内心驚いた。城の食堂ではオムライスは出ないし、勿論令嬢はそんなものを食べない。なのにレフィーナはオムライスがどういうものか尋ねること無く頼んだ。
その事を疑問に思ってレフィーナを見れば、懐かしさと切なさを織り混ぜたような、そんな複雑な表情を浮かべていた。
どこか遠い日を懐かしみ、そして寂しく思っているような…そんなレフィーナにヴォルフの胸がきゅっと苦しくなる。声をかけることも何だか躊躇われて、結局料理が運ばれてくるまでただ見つめていることしか出来なかった。
「お待たせな」
二つのオムライスを持ってきた店員がそれぞれの前に置く。そうすれば、レフィーナが自分のオムライスを見てから、ヴォルフの方に視線を移した。そして、驚いたように緋色の瞳を丸くする。
オムライスはどちらかと言えば子供や女性が好む料理だ。だから、そんな風に意外そうな顔をされるのも仕方ないのだが、さすがに少し恥ずかしくなってヴォルフは視線を窓の外に投げながら口を開いた。
「…このオムライスは昔からよく食ってたからな。たまに食いたくなるんだよ」
「ふふっ。私も懐かしいです」
「懐かしい……?」
レフィーナの口からこぼれ落ちた言葉に視線を戻しながら聞き返せば、レフィーナがはっとしたように口を噤んだ。
やはりなにか引っかかる気がする。自分のことが他人事のようだったり、寂しそうな何かを憂うような表情だったり、食べた事のないだろう料理を懐かしんだり…。まだレフィーナには何か隠し事があるように感じる。
見極めるように真っ直ぐに見つめれば、レフィーナは誤魔化すように笑みを浮かべた。
「いえ、食べたことはないのですが、公爵家の使用人からよく話を聞いていたものですから」
「話を?」
「えぇ、そうですわ」
「……」
誤魔化そうとしているのか、口調が令嬢の時の様になっている。本人はその事に気づいていないようで、やはり誤魔化すようにニコニコと笑みを浮かべていた。そんなレフィーナを問い詰めようとヴォルフは口を開きかけたが、結局何も言わず閉じる。
ここで問い詰めるのは簡単だが、触れられたくないことを無理やり聞き出そうとは思えなかったのだ。
「…食わないと冷めるぞ」
「そ、そうですね」
居心地が悪そうなレフィーナに話題を変えるようにそう言って、先にオムライスを食べ始めた。そんなヴォルフに、レフィーナも自分の分のオムライスをスプーンで掬って口に運ぶ。
とろっとした卵と熱々のケチャップライスの味が口の中に広がる。レフィーナを見れば、熱そうにはふっと息を吐いていた。
「美味しいですね!」
「あぁ、そうだな。ここは他の料理も旨いぞ」
「そうなんですね…そう言われると他も気になります」
「また連れてきてやる」
自分でも驚くくらいにすんなりとそんな言葉が出た。でも、それを撤回する気は起きない。
こうしてレフィーナと過ごす穏やかな時間が、案外悪く無いと思う。
「ふふっ。何だか、親しい友人が出来た気分です」
「…友人、か」
「ヴォルフ様?」
嬉しそうな様子のレフィーナが言った友人、の言葉に少しもやりとしたものが胸に広がる。友人になれたらきっと楽しいし、お互いに気の置けない存在になるだろう。だが、ヴォルフはそんな関係になることに不満を感じたのだ。
そして、そんな風に思う理由もいい加減分かっている。短い間に芽吹いた物は、ヴォルフの戸惑いなんて無視して、今この時も少しずつ大きくなっていた。
そんな風に考え込んでいれば、レフィーナが急に苦しそうな声を上げたので、慌ててそちらに意識を移した。
「ぐっ、げほっ!」
「お、おい!大丈夫か?ほら、水!」
どうやら食べていたものを喉につまらせたようで、ヴォルフは苦しそうなレフィーナに水を渡す。その水でなんとか食べ物を飲み込んだらしいレフィーナは、何故か慌てた様子で窓から外を見た。それからすぐに声を上げる。
「ヴォルフ様!私を追いかけてきた奴らが今外に!」
「どこだ」
「あそこです!あっ!」
レフィーナが男女の二人組を指し示し、ヴォルフはその指の先に鋭く視線を投げた。姿を確認した直後に慌ててその二人は人混みに紛れ、それを追いかけようしたレフィーナをすぐに制止する。ここでレフィーナが追いかけるのは危険すぎるし、そういう事はヴォルフの仕事だ。
「お前はここにいろ。顔は覚えたから俺が追う」
レフィーナにそう言ってとヴォルフは立て掛けていた剣を掴んで、店の外に飛び出したのだった。
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