31 / 97
31
しおりを挟む
「もう少し警戒しろ」
「で、でも…レイ殿下はまだ子供ですし、甘えたかっただけですよ。さすがに8歳くらいの子と結婚できないですし」
レフィーナの言葉にヴォルフは思わず深いため息をつく。甘えたかっただけでキスしたり、ヴォルフを敵視したりなどしない。間違いなくレイは一人の男としてレフィーナに好意を持っている。いくら子供とはいえ、多少は警戒というものをして欲しい。
それに、レフィーナに好意を向けているのはレイだけでなく、騎士達の中にもそれなりにいるのだ。
「あ、あのヴォルフ様?」
「……とにかく、相手が誰であろうが無警戒なのは感心しない。良くないことを考えている奴も多いんだからな」
「…は、はぁ。…次からは気をつけます」
真剣な表情で告げれば、レフィーナは素直に忠告を受け入れた。本当に分かっているのか、と問い詰めて、しっかりと分かるまで言い聞かせたいくらいだが、流石にこれ以上はレフィーナも鬱陶しいだろうと我慢する。
それから、仕事に戻ると言ったレフィーナを、ヴォルフは仕事場まで送り届けたのだった。
♢
レオンとドロシーの婚儀の日、当日。ヴォルフは婚儀が行われる大聖堂にいた。
社交界用の豪華な騎士服を身にまとい、焦げ茶色の髪は全て後ろになでつけてある。大聖堂の壁際で警備にあたっており、ヴォルフと反対側には同じように社交界用の豪華な騎士服を、少々きつそうに着たザックが立っていた。
大聖堂の中にはすでに賓客や王族がおり、婚儀の開始を待っている間、囁きのような話声が聞こえてくる。
そんな話声も、大聖堂の中に鐘の音が響き渡るとしん、と静かになった。この鐘の音は婚儀開始の合図だ。
その鐘が鳴り終わると、大聖堂中央の扉が大きく開かれ、主役の二人が入場してきた。それに合わせて、大聖堂に低く響く美しい音楽が奏でられる。
金の装飾が目を引く白の婚礼衣装を身にまとったレオン。そして、そんなレオンの腕に手を添えるドロシーは真珠ような光沢のある純白のドレス姿だ。長いトレーンとレースのベールが赤い絨毯に映えて、賓客の女性達から感嘆のため息がこぼれる。
大聖堂のステンドグラスから差し込む光が、きらきらと二人を祝福するように輝いて、まるで神が祝福しているかのようだ。
それから、婚儀は厳かに執り行われ、沢山の祝福の中で終わりを迎えた。
「ヴォルフ、お疲れさん」
「アード、どうかしたのか?」
大聖堂から出てきたヴォルフにアードが近寄ってきた。その顔が深刻そうで、ヴォルフは整った眉を寄せて問いかける。
「なんか侍女のメラファちゃんが、行方不明らしいんだ」
「…行方不明?」
「あぁ、一応手の空いた騎士で探したんだけど、見つからなくて」
アードの言葉にヴォルフの表情がますます険しくなる。
「どうする?」
「…今日はあまり騎士をそっちに回す余裕は無いが…、手の空いた者は捜索を続けてくれ。それと、見回りの騎士には情報を伝えて、目撃した者がいないか確認を」
「はいよ!」
「俺も騎士団長もまだ仕事から離れられないから、頼んだぞ」
ヴォルフの言葉にアードはしっかりと頷いて去って行った。
しかし、こんな日に行方不明とは厄介だな、とヴォルフはため息をつく。何事もなく早く見つかることを祈りながら、ヴォルフはその場を後にする。
それから、王族の護衛等の仕事を問題なくこなし、夜には大広間で開催されている舞踏会に参加していた。
次から次へと挨拶に回るレオンに付いていれば、すっとザックが背後に現れる。
「ここはもう俺がやるから、少し休憩してこい」
ザックの言葉にヴォルフは静かに頷いた。今日は朝からずっと気を張り詰めていたし、メラファの捜索も合間に指示を出していたので結構疲れた。まだこれからやる事もあるので、ザックの言葉に素直に従って一旦休憩することにした。
「では、後は頼みます。帰ってきたら交代しましょう」
「あぁ。まぁ、ゆっくり休んでこい」
レオンにだけ一言声を掛けて、ヴォルフは賑やかな舞踏会の会場を後にする。会場から離れて外に出ると、疲れたように一つため息を吐き出す。
メラファの事が気がかりで、あまり休憩する気分にはなれない。あれから結局、メラファの手がかりは何も無かったのだ。メラファはレフィーナと仲が良かった。今頃レフィーナはきっと心配しているだろうと思うと、ヴォルフの胸が締め付けられる。
しかし、現状、手がかり一つも無いのではどうしようもなかった。
もう一度、深く息を吐き出した所で、ヴォルフは不意に近くの茂みに何かの気配を感じて、すばやく剣の柄に手を添えた。
「…誰だ」
低く唸るように問いかける。そうすれば、茂みがごそごそと音を立てて動き出す。
茂みの動きは小さいので、どうやら人ではなさそうだ。しかし、一応警戒したままで金色の瞳を鋭く向ける。猫かなにかか…そう考えていれば茂みから小さな何かが飛び出してきて、思わず剣を抜いた。
「わぁ!待つのだ、ヴォルフ!」
「……はっ……?」
剣を向けられて慌てたように声を出したのは、背中に透明な羽を持った…小さな妖精だった。瞬時に状況を飲み込めなかったヴォルフは、初めて見た妖精に思わず間抜けな声を上げたのだった。
「で、でも…レイ殿下はまだ子供ですし、甘えたかっただけですよ。さすがに8歳くらいの子と結婚できないですし」
レフィーナの言葉にヴォルフは思わず深いため息をつく。甘えたかっただけでキスしたり、ヴォルフを敵視したりなどしない。間違いなくレイは一人の男としてレフィーナに好意を持っている。いくら子供とはいえ、多少は警戒というものをして欲しい。
それに、レフィーナに好意を向けているのはレイだけでなく、騎士達の中にもそれなりにいるのだ。
「あ、あのヴォルフ様?」
「……とにかく、相手が誰であろうが無警戒なのは感心しない。良くないことを考えている奴も多いんだからな」
「…は、はぁ。…次からは気をつけます」
真剣な表情で告げれば、レフィーナは素直に忠告を受け入れた。本当に分かっているのか、と問い詰めて、しっかりと分かるまで言い聞かせたいくらいだが、流石にこれ以上はレフィーナも鬱陶しいだろうと我慢する。
それから、仕事に戻ると言ったレフィーナを、ヴォルフは仕事場まで送り届けたのだった。
♢
レオンとドロシーの婚儀の日、当日。ヴォルフは婚儀が行われる大聖堂にいた。
社交界用の豪華な騎士服を身にまとい、焦げ茶色の髪は全て後ろになでつけてある。大聖堂の壁際で警備にあたっており、ヴォルフと反対側には同じように社交界用の豪華な騎士服を、少々きつそうに着たザックが立っていた。
大聖堂の中にはすでに賓客や王族がおり、婚儀の開始を待っている間、囁きのような話声が聞こえてくる。
そんな話声も、大聖堂の中に鐘の音が響き渡るとしん、と静かになった。この鐘の音は婚儀開始の合図だ。
その鐘が鳴り終わると、大聖堂中央の扉が大きく開かれ、主役の二人が入場してきた。それに合わせて、大聖堂に低く響く美しい音楽が奏でられる。
金の装飾が目を引く白の婚礼衣装を身にまとったレオン。そして、そんなレオンの腕に手を添えるドロシーは真珠ような光沢のある純白のドレス姿だ。長いトレーンとレースのベールが赤い絨毯に映えて、賓客の女性達から感嘆のため息がこぼれる。
大聖堂のステンドグラスから差し込む光が、きらきらと二人を祝福するように輝いて、まるで神が祝福しているかのようだ。
それから、婚儀は厳かに執り行われ、沢山の祝福の中で終わりを迎えた。
「ヴォルフ、お疲れさん」
「アード、どうかしたのか?」
大聖堂から出てきたヴォルフにアードが近寄ってきた。その顔が深刻そうで、ヴォルフは整った眉を寄せて問いかける。
「なんか侍女のメラファちゃんが、行方不明らしいんだ」
「…行方不明?」
「あぁ、一応手の空いた騎士で探したんだけど、見つからなくて」
アードの言葉にヴォルフの表情がますます険しくなる。
「どうする?」
「…今日はあまり騎士をそっちに回す余裕は無いが…、手の空いた者は捜索を続けてくれ。それと、見回りの騎士には情報を伝えて、目撃した者がいないか確認を」
「はいよ!」
「俺も騎士団長もまだ仕事から離れられないから、頼んだぞ」
ヴォルフの言葉にアードはしっかりと頷いて去って行った。
しかし、こんな日に行方不明とは厄介だな、とヴォルフはため息をつく。何事もなく早く見つかることを祈りながら、ヴォルフはその場を後にする。
それから、王族の護衛等の仕事を問題なくこなし、夜には大広間で開催されている舞踏会に参加していた。
次から次へと挨拶に回るレオンに付いていれば、すっとザックが背後に現れる。
「ここはもう俺がやるから、少し休憩してこい」
ザックの言葉にヴォルフは静かに頷いた。今日は朝からずっと気を張り詰めていたし、メラファの捜索も合間に指示を出していたので結構疲れた。まだこれからやる事もあるので、ザックの言葉に素直に従って一旦休憩することにした。
「では、後は頼みます。帰ってきたら交代しましょう」
「あぁ。まぁ、ゆっくり休んでこい」
レオンにだけ一言声を掛けて、ヴォルフは賑やかな舞踏会の会場を後にする。会場から離れて外に出ると、疲れたように一つため息を吐き出す。
メラファの事が気がかりで、あまり休憩する気分にはなれない。あれから結局、メラファの手がかりは何も無かったのだ。メラファはレフィーナと仲が良かった。今頃レフィーナはきっと心配しているだろうと思うと、ヴォルフの胸が締め付けられる。
しかし、現状、手がかり一つも無いのではどうしようもなかった。
もう一度、深く息を吐き出した所で、ヴォルフは不意に近くの茂みに何かの気配を感じて、すばやく剣の柄に手を添えた。
「…誰だ」
低く唸るように問いかける。そうすれば、茂みがごそごそと音を立てて動き出す。
茂みの動きは小さいので、どうやら人ではなさそうだ。しかし、一応警戒したままで金色の瞳を鋭く向ける。猫かなにかか…そう考えていれば茂みから小さな何かが飛び出してきて、思わず剣を抜いた。
「わぁ!待つのだ、ヴォルフ!」
「……はっ……?」
剣を向けられて慌てたように声を出したのは、背中に透明な羽を持った…小さな妖精だった。瞬時に状況を飲み込めなかったヴォルフは、初めて見た妖精に思わず間抜けな声を上げたのだった。
26
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる