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アレルの後を付いて歩いていけば、薔薇園のさらに奥、木々が生い茂る場所を抜けて、ぽっかりとひらけた場所に出た。その場所でアレルは止まると、誰かに向かって話しかける。
「事情の説明は終わったのだ!」
アレルの視線の先にヴォルフも目を向ければ、銀色の髪と瞳をもつ男がそこに居た。
その浮世離れした姿に瞬時にこの男が神なのだと悟る。
神はヴォルフと目が合うとゆったりと笑みを浮かべた。
「…メラファの時には世話になったね」
「メラファ…?」
「そう。レフィーナのサポートをするために人として紛れていたんだよ」
そう言うと、神の姿がメラファに変わる。もうそれくらいでは驚かなくなったヴォルフはすんなりと受け入れて、頷いた。どうりで捜索しても見つからないはずだ。
納得した様子のヴォルフに、神はまた男の姿へと変わる。
「…一つ聞いていいか?」
「なんだい?」
「雪乃とアレルのやり取りを見た。どうして、真実を話さなかったんだ?」
この世界の危機も、ドロシーの魂の事も、雪乃でならなかった事も、伏せられていた。どうして最初から全てを説明しなかったのだろうか。
「…彼女は優しい女性だ。事実を知ればそれを背負い込んで、必要以上に頑張るだろう。…その後の事など考えずにね」
「…だったら、レフィーナにあんな役回りさせなければ良かったんじゃないのか」
「レフィーナではなく、他の体だったならね…。だけど、ドロシーやレオンに近く、雪乃の魂に合うのはレフィーナの肉体しか無かった。だから、あんな風にお願いしたんだよ」
「…そうか」
どこか申し訳なさそうな色を瞳に宿した神の説明に、ヴォルフはそれ以上は何も言わなかった。
「私は分身体でね、もう消える。それと同時にレフィーナと君以外の記憶からメラファという存在は消える。レフィーナには君がいるからもう大丈夫だろう」
「…どうして、俺に…」
「全部話したのか、って?」
神の言葉に頷く。そんなヴォルフに神は小さく笑みを浮かべて、口を開いた。
「雪乃は自分の存在が消えてしまう事を恐れていた。だから、その恐れを取り除く為に、雪乃の存在を知る者が彼女の近くに居たほうが良いと判断したからだよ。そして、君を選んだ理由は…君も分かっているんじゃないかな」
ヴォルフがレフィーナに恋慕の感情を抱き、何よりも側で支えたい、と思っているから。
神の銀色の瞳は、ヴォルフのそんな気持ちを見透かしているようだ。ヴォルフは銀色の瞳から、そっと視線を逸らす。気持ちを見透かされているのが、少し恥ずかしく感じたのだ。
「…レフィーナは今、むこうの世界に妹に会いに行っている。帰ってきたら、側にいて支えて欲しい。彼女が…レフィーナとして新しい人生を歩めるように」
浮かべていた笑みを消して、神は真剣な表情で頭を下げた。ヴォルフは深く息を吸い込むと、しっかりと頷いて了承する。
雪乃であろうと、レフィーナであろうと、ヴォルフが好きになったのは同じ者なのだ。頼まれるまでもなく、ヴォルフはレフィーナの側にいると決めている。妹の為に全てを投げ出した彼女に、今度は自分が与えていきたい。話を聞いて、そんな思いもまたヴォルフの中に増えていた。
「ありがとう…」
ヴォルフの気持ちを読み取ったのか、神はそう言って心の底から安堵した表情を浮かべた。それから神はついと空を見上げる。
何かを感じ取っているかのような仕草をした神を見ていれば、再び銀色に輝く瞳がこちらに向けられた。
「…そろそろ、レフィーナを迎えにいくよ。君はここで待っていてくれるかい?」
そんな言葉にヴォルフが頷いて返事をすれば、神の姿が風と共に掻き消える。
そして、少しすると再び風を纏って、神と…レフィーナがその場に現れた。目を閉じているレフィーナの名前をヴォルフはそっと呼ぶ。
「……レフィーナ……」
「え?」
ここにいるはずのないヴォルフの声に、レフィーナが驚いたように目を見開いて、それから隣に立つ神へと視線を向けていた。神はそんなレフィーナと、心配そうなヴォルフを交互に見ると、優しい声で説明するように話し始めた。
「…彼には君の事を全て伝えた」
「えっ…全て…?ど、どうして…」
「この世界にも雪乃の事を知っている人がいた方が、君の支えになると思ったんだよ」
「ど、どうして、ヴォルフ様に…」
未だ困惑した様子のレフィーナは眉尻を下げて、神に問を重ねる。ヴォルフの気持ちを知らないレフィーナからしたら、当然の疑問だ。神はちらりとヴォルフを見てから、再び口を開く。
「それは……彼が君を傷つけないと分かっているからだよ。彼は、信頼できる人物だ」
神の言葉にヴォルフはこっそりと胸を撫で下ろした。ここでレフィーナへの気持ちを神の口から告げられたらどうしようかと、少しひやひやしていたのだ。
ヴォルフは神の言葉にレフィーナがどう思ったのだろうか、と視線をそちらに向けようとした。しかし、急に隣にいたアレルから光がこぼれた事によって、レフィーナではなくそちらに視線を向ける。
アレルの全身からこぼれ落ちた光の粒子がその身を包んでいて、その様子を金色の瞳を見開いて見ていたヴォルフの耳に神の柔らかな声が届く。
その声に神の方へ視線を移せば…神もまた、アレルと同じような光の粒子にゆったりと包まれ始めていた。
「事情の説明は終わったのだ!」
アレルの視線の先にヴォルフも目を向ければ、銀色の髪と瞳をもつ男がそこに居た。
その浮世離れした姿に瞬時にこの男が神なのだと悟る。
神はヴォルフと目が合うとゆったりと笑みを浮かべた。
「…メラファの時には世話になったね」
「メラファ…?」
「そう。レフィーナのサポートをするために人として紛れていたんだよ」
そう言うと、神の姿がメラファに変わる。もうそれくらいでは驚かなくなったヴォルフはすんなりと受け入れて、頷いた。どうりで捜索しても見つからないはずだ。
納得した様子のヴォルフに、神はまた男の姿へと変わる。
「…一つ聞いていいか?」
「なんだい?」
「雪乃とアレルのやり取りを見た。どうして、真実を話さなかったんだ?」
この世界の危機も、ドロシーの魂の事も、雪乃でならなかった事も、伏せられていた。どうして最初から全てを説明しなかったのだろうか。
「…彼女は優しい女性だ。事実を知ればそれを背負い込んで、必要以上に頑張るだろう。…その後の事など考えずにね」
「…だったら、レフィーナにあんな役回りさせなければ良かったんじゃないのか」
「レフィーナではなく、他の体だったならね…。だけど、ドロシーやレオンに近く、雪乃の魂に合うのはレフィーナの肉体しか無かった。だから、あんな風にお願いしたんだよ」
「…そうか」
どこか申し訳なさそうな色を瞳に宿した神の説明に、ヴォルフはそれ以上は何も言わなかった。
「私は分身体でね、もう消える。それと同時にレフィーナと君以外の記憶からメラファという存在は消える。レフィーナには君がいるからもう大丈夫だろう」
「…どうして、俺に…」
「全部話したのか、って?」
神の言葉に頷く。そんなヴォルフに神は小さく笑みを浮かべて、口を開いた。
「雪乃は自分の存在が消えてしまう事を恐れていた。だから、その恐れを取り除く為に、雪乃の存在を知る者が彼女の近くに居たほうが良いと判断したからだよ。そして、君を選んだ理由は…君も分かっているんじゃないかな」
ヴォルフがレフィーナに恋慕の感情を抱き、何よりも側で支えたい、と思っているから。
神の銀色の瞳は、ヴォルフのそんな気持ちを見透かしているようだ。ヴォルフは銀色の瞳から、そっと視線を逸らす。気持ちを見透かされているのが、少し恥ずかしく感じたのだ。
「…レフィーナは今、むこうの世界に妹に会いに行っている。帰ってきたら、側にいて支えて欲しい。彼女が…レフィーナとして新しい人生を歩めるように」
浮かべていた笑みを消して、神は真剣な表情で頭を下げた。ヴォルフは深く息を吸い込むと、しっかりと頷いて了承する。
雪乃であろうと、レフィーナであろうと、ヴォルフが好きになったのは同じ者なのだ。頼まれるまでもなく、ヴォルフはレフィーナの側にいると決めている。妹の為に全てを投げ出した彼女に、今度は自分が与えていきたい。話を聞いて、そんな思いもまたヴォルフの中に増えていた。
「ありがとう…」
ヴォルフの気持ちを読み取ったのか、神はそう言って心の底から安堵した表情を浮かべた。それから神はついと空を見上げる。
何かを感じ取っているかのような仕草をした神を見ていれば、再び銀色に輝く瞳がこちらに向けられた。
「…そろそろ、レフィーナを迎えにいくよ。君はここで待っていてくれるかい?」
そんな言葉にヴォルフが頷いて返事をすれば、神の姿が風と共に掻き消える。
そして、少しすると再び風を纏って、神と…レフィーナがその場に現れた。目を閉じているレフィーナの名前をヴォルフはそっと呼ぶ。
「……レフィーナ……」
「え?」
ここにいるはずのないヴォルフの声に、レフィーナが驚いたように目を見開いて、それから隣に立つ神へと視線を向けていた。神はそんなレフィーナと、心配そうなヴォルフを交互に見ると、優しい声で説明するように話し始めた。
「…彼には君の事を全て伝えた」
「えっ…全て…?ど、どうして…」
「この世界にも雪乃の事を知っている人がいた方が、君の支えになると思ったんだよ」
「ど、どうして、ヴォルフ様に…」
未だ困惑した様子のレフィーナは眉尻を下げて、神に問を重ねる。ヴォルフの気持ちを知らないレフィーナからしたら、当然の疑問だ。神はちらりとヴォルフを見てから、再び口を開く。
「それは……彼が君を傷つけないと分かっているからだよ。彼は、信頼できる人物だ」
神の言葉にヴォルフはこっそりと胸を撫で下ろした。ここでレフィーナへの気持ちを神の口から告げられたらどうしようかと、少しひやひやしていたのだ。
ヴォルフは神の言葉にレフィーナがどう思ったのだろうか、と視線をそちらに向けようとした。しかし、急に隣にいたアレルから光がこぼれた事によって、レフィーナではなくそちらに視線を向ける。
アレルの全身からこぼれ落ちた光の粒子がその身を包んでいて、その様子を金色の瞳を見開いて見ていたヴォルフの耳に神の柔らかな声が届く。
その声に神の方へ視線を移せば…神もまた、アレルと同じような光の粒子にゆったりと包まれ始めていた。
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