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「もう、限界だね」
「神様…」
「雪乃、今度こそ…さらばなのだ」
レフィーナに別れの挨拶をした直後、アレルの姿が光の粒子となって弾けた。そのうち神も同じように消えるのだろうと悟る。これは分身体と言っていたので、消えるのも必然なのかもしれない。
「君には感謝している。ありがとう、雪乃」
光の粒子に包まれている神はそう言って口元に緩やかな弧を描きながら、レフィーナの頬に両手を添えた。そして、ゆっくりとレフィーナの額に口づけを落とす。光の粒子に包まれながら行われたそれは、まるで一枚の絵のように幻想的であり、とても美しかった。
「雪乃…いや、レフィーナ。君の未来に幸多からんことを」
優しい声でレフィーナに告げた神は光の粒子となって弾ける瞬間に、黙って見守っていたヴォルフへと銀色の視線を向けた。レフィーナに向けるものと同じ優しい視線は、ヴォルフの幸せも同じように願っているかのようだ。
そして、神はアレルと同じように光の粒子となって消え、少しの間名残惜しそうに漂ってから、少しずつ消えていった。
全て消えてしまえば、辺りに暗闇が落ちる。
どこか夢のようなありえない事が沢山起こった。しかしそれは現実で、それを証明するようにレフィーナがそこにいる。今日知ったレフィーナの真実にはかなり驚いたが、知れて良かったと心の底からそう思う。
光の消えた空を見上げているレフィーナにヴォルフは声を掛けた。
「……戻るか」
「はい…」
レフィーナは返事をすると、しっかりとした足取りでヴォルフに近づいて来た。近くに来たレフィーナの目尻と鼻先がほんのりと赤く色づいている。それはレフィーナが泣いていた事を語っていて、ヴォルフは眉を寄せながら手を伸ばし、もう涙の滲んでいない目尻を人差し指の背で軽くなぞる。
レフィーナはそんなヴォルフにきょとん、としていた。
「ヴォルフ様?」
「泣いて、いたのか」
「…え、あぁ…まぁ…」
泣いていたことを思い出して恥ずかしくなったのか、レフィーナは今度は頬と耳をほんのりと赤く染めて、恥ずかしそうにヴォルフから顔を逸らした。
ヴォルフはそんなレフィーナの頭に優しく手を置いて、その動作と同じくらい優しい声で話かける。
「…妹には会えたのか?」
「はい、元気そうでした」
そう言ったレフィーナは穏やかな表情を浮かべた。その表情からレフィーナが前に進めた事を感じ取って、ヴォルフは口元を緩める。
「そうか。…良かったな」
「全部、信じたんですか?」
「まぁな。あんなものを目の前で見せられたら、神やらなんやら信じるしか無いだろう。それに、帰ってきたお前の表情を見れば…本当だって事くらい分かる」
妖精や神の姿だけでなくレフィーナの前世である雪乃の最後まで見せられたからこそ、ヴォルフは全てを信じられたのだ。そしてなにより、レフィーナの表情は雪乃が浮かべていたものと同じで、確かに妹を愛おしく想っているものだったのだから。
「そう、ですか」
「……俺が…」
全てをヴォルフが知っていることがまだしっくりきていないのか、レフィーナはヴォルフの言葉に曖昧な笑みを浮かべている。
そんなレフィーナのさらさらな亜麻色の髪を、頭に乗せていた手で梳く。優しい気持ちのまま、ヴォルフは言いかけた言葉を優しい声色で伝える。
「俺が、お前が雪乃だったことを覚えておく」
この世界にも、向こうの世界にも知っている人がいなくても、確かに雪乃という妹思いの姉がいた事を自分が覚えておこうと思った。そして、そうする事で少しでもレフィーナの寂しさが紛れてくれることを願う。
「え?」
「そうすれば、雪乃は消えないだろう?」
レフィーナと目を合わせるのが照れくさくてそれだけ言うと、ヴォルフは城内へ戻るために歩き始めた。そんなヴォルフの後をレフィーナが追いかけてきて、隣に並んで歩き始める。そして、嬉しそうに口を開いた。
「ありがとうございます、ヴォルフ様」
「別に…これくらいしかしてやれないしな…」
「いいえ…とても嬉しいです」
そっと様子を伺うように隣を見れば、レフィーナは少し頬を赤く染めて微笑んでいた。その穏やかな笑みにヴォルフの鼓動は早くなっていって、同時に何だか気恥ずかしくなってくる。
そんな自分を誤魔化すように、空気を変えるように、ヴォルフはわざと呆れたような声で話し始めた。
「…それにしても、お前には驚かされるな。最初は性格の悪い令嬢、次はころっと変わって性格のいい侍女。最後は異世界人ときた」
こうして言葉にしてみると、なかなかに振り回された気がしてくる。振り回した本人であるレフィーナは、ヴォルフの言葉が面白かったのかくすりと小さく笑い声を上げた。その仕草は今までよりもずっと自然体で、雪乃としてではなくレフィーナとして生きていくことを受け入れたのだと分かる。
そのことにヴォルフは安堵した。今までのように他人事ではなく、レフィーナとして彼女には幸せになって欲しい。そして、出来ることならばその幸せは自分が与えたいと、ヴォルフは心の中でそう思った。
「神様…」
「雪乃、今度こそ…さらばなのだ」
レフィーナに別れの挨拶をした直後、アレルの姿が光の粒子となって弾けた。そのうち神も同じように消えるのだろうと悟る。これは分身体と言っていたので、消えるのも必然なのかもしれない。
「君には感謝している。ありがとう、雪乃」
光の粒子に包まれている神はそう言って口元に緩やかな弧を描きながら、レフィーナの頬に両手を添えた。そして、ゆっくりとレフィーナの額に口づけを落とす。光の粒子に包まれながら行われたそれは、まるで一枚の絵のように幻想的であり、とても美しかった。
「雪乃…いや、レフィーナ。君の未来に幸多からんことを」
優しい声でレフィーナに告げた神は光の粒子となって弾ける瞬間に、黙って見守っていたヴォルフへと銀色の視線を向けた。レフィーナに向けるものと同じ優しい視線は、ヴォルフの幸せも同じように願っているかのようだ。
そして、神はアレルと同じように光の粒子となって消え、少しの間名残惜しそうに漂ってから、少しずつ消えていった。
全て消えてしまえば、辺りに暗闇が落ちる。
どこか夢のようなありえない事が沢山起こった。しかしそれは現実で、それを証明するようにレフィーナがそこにいる。今日知ったレフィーナの真実にはかなり驚いたが、知れて良かったと心の底からそう思う。
光の消えた空を見上げているレフィーナにヴォルフは声を掛けた。
「……戻るか」
「はい…」
レフィーナは返事をすると、しっかりとした足取りでヴォルフに近づいて来た。近くに来たレフィーナの目尻と鼻先がほんのりと赤く色づいている。それはレフィーナが泣いていた事を語っていて、ヴォルフは眉を寄せながら手を伸ばし、もう涙の滲んでいない目尻を人差し指の背で軽くなぞる。
レフィーナはそんなヴォルフにきょとん、としていた。
「ヴォルフ様?」
「泣いて、いたのか」
「…え、あぁ…まぁ…」
泣いていたことを思い出して恥ずかしくなったのか、レフィーナは今度は頬と耳をほんのりと赤く染めて、恥ずかしそうにヴォルフから顔を逸らした。
ヴォルフはそんなレフィーナの頭に優しく手を置いて、その動作と同じくらい優しい声で話かける。
「…妹には会えたのか?」
「はい、元気そうでした」
そう言ったレフィーナは穏やかな表情を浮かべた。その表情からレフィーナが前に進めた事を感じ取って、ヴォルフは口元を緩める。
「そうか。…良かったな」
「全部、信じたんですか?」
「まぁな。あんなものを目の前で見せられたら、神やらなんやら信じるしか無いだろう。それに、帰ってきたお前の表情を見れば…本当だって事くらい分かる」
妖精や神の姿だけでなくレフィーナの前世である雪乃の最後まで見せられたからこそ、ヴォルフは全てを信じられたのだ。そしてなにより、レフィーナの表情は雪乃が浮かべていたものと同じで、確かに妹を愛おしく想っているものだったのだから。
「そう、ですか」
「……俺が…」
全てをヴォルフが知っていることがまだしっくりきていないのか、レフィーナはヴォルフの言葉に曖昧な笑みを浮かべている。
そんなレフィーナのさらさらな亜麻色の髪を、頭に乗せていた手で梳く。優しい気持ちのまま、ヴォルフは言いかけた言葉を優しい声色で伝える。
「俺が、お前が雪乃だったことを覚えておく」
この世界にも、向こうの世界にも知っている人がいなくても、確かに雪乃という妹思いの姉がいた事を自分が覚えておこうと思った。そして、そうする事で少しでもレフィーナの寂しさが紛れてくれることを願う。
「え?」
「そうすれば、雪乃は消えないだろう?」
レフィーナと目を合わせるのが照れくさくてそれだけ言うと、ヴォルフは城内へ戻るために歩き始めた。そんなヴォルフの後をレフィーナが追いかけてきて、隣に並んで歩き始める。そして、嬉しそうに口を開いた。
「ありがとうございます、ヴォルフ様」
「別に…これくらいしかしてやれないしな…」
「いいえ…とても嬉しいです」
そっと様子を伺うように隣を見れば、レフィーナは少し頬を赤く染めて微笑んでいた。その穏やかな笑みにヴォルフの鼓動は早くなっていって、同時に何だか気恥ずかしくなってくる。
そんな自分を誤魔化すように、空気を変えるように、ヴォルフはわざと呆れたような声で話し始めた。
「…それにしても、お前には驚かされるな。最初は性格の悪い令嬢、次はころっと変わって性格のいい侍女。最後は異世界人ときた」
こうして言葉にしてみると、なかなかに振り回された気がしてくる。振り回した本人であるレフィーナは、ヴォルフの言葉が面白かったのかくすりと小さく笑い声を上げた。その仕草は今までよりもずっと自然体で、雪乃としてではなくレフィーナとして生きていくことを受け入れたのだと分かる。
そのことにヴォルフは安堵した。今までのように他人事ではなく、レフィーナとして彼女には幸せになって欲しい。そして、出来ることならばその幸せは自分が与えたいと、ヴォルフは心の中でそう思った。
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