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「人を振り回しておいて、笑っているとは…。やっぱり、本当は性格の悪い令嬢か?」
レフィーナに胸の内を悟られないように、ヴォルフはからかうような口調で話す。どうやらヴォルフの胸の内には全く気付いていない様子のレフィーナが、笑いながら口を開いた。
「もう、悪役令嬢の役割は終えました」
「そうか。なら、今は性格のいい元異世界人の侍女だな」
「…何だか、そうやって言われると、凄い侍女みたいに聞こえますよ」
「本当の事だろう」
そんな風に軽口を叩きあって、二人は笑い合う。ヴォルフはこうしたやり取りをするのが楽しく感じた。にこやかに笑うレフィーナもきっと同じ気持ちだと思うと、ヴォルフの胸は嬉しさで弾む。
今まで知らなかった恋はとても楽しいものだと、柄でも無いことまで思ってしまうのは、今、誰よりもレフィーナに親しい場所にいるからだろうか。
隣でにこやかに笑うレフィーナがリラックスした様子で話始め、ヴォルフは耳を傾ける。
「ふふっ。ヴォルフ様とこんな風に話せるようになれるとは思っていませんでした」
レフィーナの言葉に過去を思い返す。確かにレフィーナが令嬢だった頃の自分では、こんな風にレフィーナと楽しく話せるとも、ましてやレフィーナに心奪われる事になるなんて考えもしなかった筈だ。
「俺も最初は思っていなかったな」
「最初は犬猿の仲でしたからね」
「まぁな」
「今は…そうですね、私的には秘密を共有した悪友っていう感じです」
レフィーナが楽しそうなのはもちろん嬉しい。が、レフィーナの言葉はあまり嬉しく無かった。
「…悪友…か」
「ヴォルフ様?」
「俺は…悪友とは思わないからな」
レフィーナの方は向かずにまっすぐ前を見ながらぎゅっと眉を寄せ、ヴォルフははっきりとそう言いきった。
いくらレフィーナが友人関係を望んでいても、ヴォルフはそれは認められない。
友人から徐々に…なんて思わない訳ではないが、レフィーナの場合は友人になったらこの先ずっと友人以上には見て貰えない気がするのだ。だから、ヴォルフは頑なにレフィーナの言葉を否定していた。
「え?」
隣を歩くレフィーナが戸惑ったような声を上げ、次いで、残念そうにため息をついた。そのため息にヴォルフはちらりとレフィーナに視線を移す。レフィーナは悲しそうな表情で何事か考えているようだ。
そんなレフィーナにヴォルフは苦笑いを浮かべ、おそらく勘違いしているであろうレフィーナをフォローするように口を開いた。
「お前が嫌いだとか、そういうのじゃないからな。むしろ…」
「むしろ?」
「……」
「な、何ですか…?」
レフィーナを映し出すヴォルフの金色の瞳が揺れる。ここでレフィーナにこの想いを伝えてしまおうか、と少し考える。
レフィーナの事が好きで、恋人になりたい。そんな気持ちを胸に抱きながらレフィーナを見つめれば、レフィーナが何処か困ったような表情を浮かべた。
レフィーナはつい先程妹と再会し、雪乃をようやく前世と受け入れたばかりだ。落ち着いているように見えるが、まだ完全には気持ちは胸に収まりきっていないことだろう。そんなレフィーナに気持ちを伝えてもきっと混乱させて、複雑な胸の内を余計に掻き乱してしまうだけだ。
だから、今は気持ちを伝えるべきはない。
ヴォルフはレフィーナから視線を外して、出かかった気持ちを抑えるように短く息を吐き出した。
「……いや、何でもない」
「ヴォルフ様?」
ヴォルフの態度にレフィーナが不思議そうな表情を浮かべる。そんなレフィーナに苦笑いを浮かべると、首を横に振った。これ以上はまた気持ちを伝えたくなってしまいそうで、ヴォルフはそっと口を閉じたのだった。
♢
あれから、結局お互いに何も話さずに、ヴォルフはレフィーナを井戸まで連れてきてた。
泣いたばかりのレフィーナの目尻はまだ赤く、目が腫れる前に冷やしたほうがいいと思ったからだ。
レフィーナはなぜ井戸に来たのか分かっていないようだった。
「ヴォルフ様、ここは…」
「泣いた後だと目が腫れるだろ。少し冷やした方が良い」
話しながらヴォルフは井戸水を汲み上げて、懐からハンカチを取り出すと汲み上げたばかりで冷たい井戸水に浸す。ハンカチがしっかりと冷えると取り出し、軽く絞ってからレフィーナに手渡した。
「あ、ありがとうございます」
それからレフィーナの目から赤みが引くまでヴォルフはハンカチが温くなるたびに井戸水で冷やし続けた。
レフィーナの目尻から赤みが引いたのを満足気に見つめて、ヴォルフは軽く頷く。
「ん。もう大丈夫だろ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、部屋の近くまで送っていく」
「はい、お願いします」
夜遅くだったのと、もう少し一緒に居たい気持ちからヴォルフが送って行くと言えば、レフィーナは素直に頷いた。それからそう遠くない部屋までの道のりを、ヴォルフはいつもよりゆっくりな歩調を意識しながら向かう。
しかし、それでも割とすぐに侍女たちの部屋が並ぶ廊下まで着いてしまって、ヴォルフは心の中でもう少し遠ければ良かったのに、と残念そうにため息をついたのだった。
レフィーナに胸の内を悟られないように、ヴォルフはからかうような口調で話す。どうやらヴォルフの胸の内には全く気付いていない様子のレフィーナが、笑いながら口を開いた。
「もう、悪役令嬢の役割は終えました」
「そうか。なら、今は性格のいい元異世界人の侍女だな」
「…何だか、そうやって言われると、凄い侍女みたいに聞こえますよ」
「本当の事だろう」
そんな風に軽口を叩きあって、二人は笑い合う。ヴォルフはこうしたやり取りをするのが楽しく感じた。にこやかに笑うレフィーナもきっと同じ気持ちだと思うと、ヴォルフの胸は嬉しさで弾む。
今まで知らなかった恋はとても楽しいものだと、柄でも無いことまで思ってしまうのは、今、誰よりもレフィーナに親しい場所にいるからだろうか。
隣でにこやかに笑うレフィーナがリラックスした様子で話始め、ヴォルフは耳を傾ける。
「ふふっ。ヴォルフ様とこんな風に話せるようになれるとは思っていませんでした」
レフィーナの言葉に過去を思い返す。確かにレフィーナが令嬢だった頃の自分では、こんな風にレフィーナと楽しく話せるとも、ましてやレフィーナに心奪われる事になるなんて考えもしなかった筈だ。
「俺も最初は思っていなかったな」
「最初は犬猿の仲でしたからね」
「まぁな」
「今は…そうですね、私的には秘密を共有した悪友っていう感じです」
レフィーナが楽しそうなのはもちろん嬉しい。が、レフィーナの言葉はあまり嬉しく無かった。
「…悪友…か」
「ヴォルフ様?」
「俺は…悪友とは思わないからな」
レフィーナの方は向かずにまっすぐ前を見ながらぎゅっと眉を寄せ、ヴォルフははっきりとそう言いきった。
いくらレフィーナが友人関係を望んでいても、ヴォルフはそれは認められない。
友人から徐々に…なんて思わない訳ではないが、レフィーナの場合は友人になったらこの先ずっと友人以上には見て貰えない気がするのだ。だから、ヴォルフは頑なにレフィーナの言葉を否定していた。
「え?」
隣を歩くレフィーナが戸惑ったような声を上げ、次いで、残念そうにため息をついた。そのため息にヴォルフはちらりとレフィーナに視線を移す。レフィーナは悲しそうな表情で何事か考えているようだ。
そんなレフィーナにヴォルフは苦笑いを浮かべ、おそらく勘違いしているであろうレフィーナをフォローするように口を開いた。
「お前が嫌いだとか、そういうのじゃないからな。むしろ…」
「むしろ?」
「……」
「な、何ですか…?」
レフィーナを映し出すヴォルフの金色の瞳が揺れる。ここでレフィーナにこの想いを伝えてしまおうか、と少し考える。
レフィーナの事が好きで、恋人になりたい。そんな気持ちを胸に抱きながらレフィーナを見つめれば、レフィーナが何処か困ったような表情を浮かべた。
レフィーナはつい先程妹と再会し、雪乃をようやく前世と受け入れたばかりだ。落ち着いているように見えるが、まだ完全には気持ちは胸に収まりきっていないことだろう。そんなレフィーナに気持ちを伝えてもきっと混乱させて、複雑な胸の内を余計に掻き乱してしまうだけだ。
だから、今は気持ちを伝えるべきはない。
ヴォルフはレフィーナから視線を外して、出かかった気持ちを抑えるように短く息を吐き出した。
「……いや、何でもない」
「ヴォルフ様?」
ヴォルフの態度にレフィーナが不思議そうな表情を浮かべる。そんなレフィーナに苦笑いを浮かべると、首を横に振った。これ以上はまた気持ちを伝えたくなってしまいそうで、ヴォルフはそっと口を閉じたのだった。
♢
あれから、結局お互いに何も話さずに、ヴォルフはレフィーナを井戸まで連れてきてた。
泣いたばかりのレフィーナの目尻はまだ赤く、目が腫れる前に冷やしたほうがいいと思ったからだ。
レフィーナはなぜ井戸に来たのか分かっていないようだった。
「ヴォルフ様、ここは…」
「泣いた後だと目が腫れるだろ。少し冷やした方が良い」
話しながらヴォルフは井戸水を汲み上げて、懐からハンカチを取り出すと汲み上げたばかりで冷たい井戸水に浸す。ハンカチがしっかりと冷えると取り出し、軽く絞ってからレフィーナに手渡した。
「あ、ありがとうございます」
それからレフィーナの目から赤みが引くまでヴォルフはハンカチが温くなるたびに井戸水で冷やし続けた。
レフィーナの目尻から赤みが引いたのを満足気に見つめて、ヴォルフは軽く頷く。
「ん。もう大丈夫だろ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、部屋の近くまで送っていく」
「はい、お願いします」
夜遅くだったのと、もう少し一緒に居たい気持ちからヴォルフが送って行くと言えば、レフィーナは素直に頷いた。それからそう遠くない部屋までの道のりを、ヴォルフはいつもよりゆっくりな歩調を意識しながら向かう。
しかし、それでも割とすぐに侍女たちの部屋が並ぶ廊下まで着いてしまって、ヴォルフは心の中でもう少し遠ければ良かったのに、と残念そうにため息をついたのだった。
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