悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

文字の大きさ
45 / 97

45

しおりを挟む

 レナシリアによって極秘の命令が出てからヴォルフは忙しい日々を送っていた。
 レナシリアからの連絡は食堂の時と同じように、諜報員が運んでくる。ドロシー誘拐の詳細も決まり、ヴォルフはアードを含めた護衛の騎士達に説明を行った。かなり驚いていたが、口の固い熟練の騎士達を選んだのですぐに順応してくれたのは助かった。

 副騎士団長としての仕事と、レナシリアの命令で裏で動いてと、ヴォルフは休むまもなく働いていたが、少し目処がついたので今日は休みを取った。
 食事を終えたところでレフィーナもまた今日は休みだとやたら親切な侍女に教えられて、ヴォルフはレフィーナの部屋に向かう。レフィーナはドロシー付きの侍女になったので部屋が変わっていた。王族に直接仕える人が住む区画は王族の居住区にほど近い場所にあるのだが、レフィーナも王太子妃となったドロシーに仕えているのでそこに部屋があるのだ。

 王族の居住区にも近いので見張りも多い。そんな見張りの騎士達ににやにやとした顔で送り出されながら、使用人の居住区画を進んでいく。使用人の居住区画に入ってしまえば見張りは殆どおらず、またそこで生活している者は仕事でいないのか、廊下はしんとしていた。


「ん…?」


 もうすぐ着くだろうか、といったところで廊下に座り込むレフィーナを見つけた。壁にぴとっと張り付いてぼんやりしているレフィーナは明らかに様子がおかしい。


「レフィーナ…!?」


 慌てて駆け寄ればレフィーナが俯いていた顔を上げた。頬は赤いし呼吸も荒い。緋色の瞳もどこかぼんやりとしていて焦点が合っていない。


「大丈夫か…!?すぐに医務室に連れて行ってやるからな。抱き上げるぞ」


 どうやら相当熱が高いようで返事も無かった。そんなレフィーナをヴォルフは抱き上げる。服越しに触れた肌は驚くほど熱く、相当熱が高いことが分かった。
 ヴォルフは焦りながら、そんなレフィーナを医務室へ運んだのだった。



          ◇



「イザークさん!」


 レフィーナを抱えたまま乱暴に医務室の扉を開けたヴォルフは、部屋の中で診察中だったイザークの名を呼んだ。
 怪我をした騎士の手当てをしていたイザークは珍しく取り乱した様子のヴォルフと、その腕にぐったりと抱かれているレフィーナを見て驚いた表情を浮かべる。


「どれ、少し見てみようか」


 そういってイザークは騎士の手当てを手早く終わらせ、立ち上がるとヴォルフに近づいてレフィーナの顔を覗きこむ。


「…過労から風邪をひいたんじゃろう。あいにくここにあるベッドは同じような患者でいっぱいじゃ。この子の部屋で休ませてやるといい。薬を出すから少し待っておれ」


 イザークはレフィーナの診察を終わらせると、薬棚から薬を取り出してヴォルフのポケットに入れた。


「起きたら簡単な食事をとらせて、この薬を飲ませるといい。水も出来るだけこまめに飲ませるのじぞ。何、熱は高いがまだ若いのじゃ、すぐに良くなるよ」

「はい、ありがとうございます」


 イザークの言葉にヴォルフはほっと胸を撫で下ろした。それから、イザークに扉を開けて貰ってヴォルフは医務室を後にする。
 とりあえずレフィーナの部屋に向かっていれば、タイミング良く侍女長のカミラが通りすぎたのでヴォルフは声をかけた。


「カミラ侍女長」

「まぁ、ヴォルフ様。レフィーナ…どうしたのですか?」

「実は廊下で倒れている所を見つけて…。イザークさんには診て貰ったのですが、あいにく医務室のベッドがいっぱいだったのでレフィーナの部屋に運ぶ所です」

「そうなのですね…。最近は忙しいですから、レフィーナのように倒れる侍女も多くて…」

「誰かレフィーナの看病を頼める方はいますか?」


 レフィーナの部屋に運ぶまではいいが、看病は女性がした方がいいだろう。そう思って問いかけたのだが、カミラは少し考える素振りを見せてから首を横に振った。


「看病が出来る時間をあける事が出来る者はいません。…ヴォルフ様の今日のご予定は?」

「…休み、ですが」

「それなら、ぜひレフィーナの看病をお願い致します。忙しくて私達は無理ですし、他の者も同じような状況でしょうから。…それに、知らない男性に看病させるより、ヴォルフ様の方が安心ですから」

「しかし…」


 部屋で二人きり、なんて状況はあまり好ましくない。もちろん二人きりになったとしても、手を出すなどの不誠実な事はしないと誓える。しかし、例え本当に看病しかしてなかったとしても、良くない噂が広がるかもしれない。
 そう思ってヴォルフは渋るのだが、カミラはさらにいい募る。


「…レフィーナが目覚めるまでの間だけで良いのです。その間に看病できるように調整致しますから。それに看病に必要な物などを用意して部屋をこまめに訪れるように致しますから。何かあったら私が責任を持って看病していただけだと証明致します。…こうして話しているよりも、レフィーナを早く休ませてあげた方が良いでしょう…?」


 捲し立てるように言葉を並べられて、ヴォルフは思わず頷いてしまった。それを見たカミラはにっこりと笑って、後で部屋を訪れます、とだけ言い残して仕事に戻って行った。
 残されたヴォルフは腕の中のレフィーナに視線を落として、早く休ませる為にとりあえずレフィーナの部屋に向かう事にしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...