悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

文字の大きさ
44 / 97

44

しおりを挟む
 冷たい笑みにヴォルフの背にゾクリとした物が走る。そんなヴォルフなど気にしていないレナシリアが話を続けた。


「…レオンは私の情報を簡単に鵜呑みにしました。まだ貴方達が捕まっていないという情報です」

「はぁ?なんで嘘つくんだ?」

「情報の真偽を自分で確かめるか、試したのですよ。情報とは簡単に偽りのものにすり替わってしまうものです。例え王や母からの情報であっても、真偽を確かめる慎重さは大切です」


 国のトップに立つ者には常に色んな情報が入ってくる。その中にはもちろん真実もあるが、中には王家を陥れようとする嘘も多く混じっているのだ。信頼できる者だと思っていても、裏切られることは多くある。
 例えば信頼している家臣、例えば血の繋がった家族。残念ながら裏切りは常に付きまとってくるものなのだ。
 レナシリアも国王であるガレンもそういった事を経験している。だからこそ、情報の真偽を自ら確かめることの大切さをわかっているのだ。


「しかし、レオンは私の情報を鵜呑みにしました。だから、レオンへのお仕置きもすることにしたのですよ」

「…おっかねぇな…」

「王妃となれば誘拐や暗殺などのターゲットになる可能性もあります。…ドロシーにもいい経験になるでしょう。…もちろん、一番の目的はミリーの拘束ですよ。その為には貴方達を使うのが一番いいのです。レオンやドロシーに顔も割れていませんし、ミリーも油断するでしょう」


 レナシリアはそこまで話して裏家業の男から、黙って話を聞いていたヴォルフに視線を移す。


「ヴォルフ。この話を聞かせたのは、貴方に新婚旅行の護衛を任せるからです。護衛の騎士は貴方が選びなさい。ただし、その騎士達には予め事情の説明をして、滞りなく事が運ぶようにしたいので口が固い者でお願いしますね」

「はっ!」

「それと、この者に誘拐を実行してもらうので監視として…一人、最も信頼出来るものをつけなさい。諜報員も影で監視しますが、騎士もいた方が安心でしょう」

「分かりました。…あの、この計画は誰までが知っているのでしょうか。また、旅行に同行する者に説明は…」

「この事を知っているのは陛下とザックだけです。そして、同行者に説明する必要はありません。この計画を知るのは騎士達だけとします」


 つまりレオンやドロシーはもちろんのこと、世話役として同行する従者や侍女には計画を伝えないということだ。
 ドロシー付きの侍女となったレフィーナは確実に旅行に同行するし、誘拐されるドロシーの近くにいる。と言うことはレフィーナにも怖い思いをさせることになるだろう。
 怖がらせたくなど無い、という思いがヴォルフの胸をぐるぐると回るが、それをぐっと退ける。王妃であるレナシリアの命令ならば、個人的な感情は押さえなければならない。


「では、ヴォルフ。護衛の騎士の選出は貴方に任せるのでお願いしますね」

「…はい、お任せください」

「計画の詳細は追って教えます。今日はもう仕事に戻って構いません」

「じゃあ、よろしくな!副騎士団長サマ。因みに俺の名前はベルグっていうんだ、覚えておいてくれよ」

「……」


 ニヤリと笑った裏稼業の頭…ベルグの言葉にヴォルフは何も言わず、ただ金色の瞳を一瞬向けただけだった。
 そんなヴォルフにベルグは肩をすくめる。

 ヴォルフは改めてもう一度レナシリアに頭を下げてから、ひっそりと部屋を後にしたのだった。



           ♢



 レナシリアのいた部屋から騎士の詰め所へ戻ったヴォルフは、一つ深い溜息をついた。詰め所は騎士達の声で騒がしく、そんなヴォルフのため息に気づく者はいない。

 自分の執務用の机につくと、紙を机の上に広げる。先程言われた護衛の騎士達を選出するためだ。
 口が固く、実力がある者の名前をすらすらと書き記していく。副騎士団長として騎士達の情報は頭にしっかりと入っているので、特に迷うこと無く決めていった。

 レナシリアに言われた監視役の騎士にはアードをつけることにした。前騎士団長の息子で実力はあるし、飄々としているが中身は意外としっかりしている。なにより、騎士達の中でヴォルフは一番信頼しているのだ。
 計画の詳細はまだ分からないが、誘拐するというのなら恐らくレオンはドロシーから離されるように誘導されるだろう。そうなればヴォルフは当然レオンの護衛としてついていないといけない。
 自分が離れるのなら、誰よりも信頼できて実力がある者が適任だ。


「おーヴォルフ、朝ぶりだな。ほい、これ王都の見回りの報告書」


 ちょうど考えていたアードがヘラヘラ笑いながらやってきた。ヴォルフは突き出された報告書を受け取るとそれを他の報告書の上に重ねる。


「…ちょうどいいから伝えておく」

「ん?なになに?」

「レオン殿下の新婚旅行の護衛にお前を選んだ」

「おっ、それはありがとさん!隣国行ってみたかったんだよな」

「…お前には重要な役回りを頼むからしっかり頼む。詳細はまた他の騎士達も集めて話す」

「了解!」


 まさかドロシーの誘拐計画があるなど気づくはずもなく、アードはにかっと笑って了承する。それを見てヴォルフが再び書類に視線を落とせば、アードは静かに立ち去っていったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処理中です...