悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

文字の大きさ
47 / 97

47

しおりを挟む

 スープを飲み終わり、ヴォルフは空になった皿をベッドサイドのテーブルに置くと、薬の準備をする。まず始めに袋から取り出した薬をレフィーナに渡し、次いで水の入ったコップを手に持たせた。水を飲むのを手伝い、薬を飲み終わった頃には、二人共、顔を赤く染めていた。
 すぐ近くにいるレフィーナにヴォルフがドキドキと早く動く心臓を意識していれば、レフィーナが体をベッドに沈め、ヴォルフに背を向けるように寝返りを打つ。
 辛そうなレフィーナに心配そうな声色で、ヴォルフは話しかける。


「…辛いのか?…大丈夫か?」

「だ、大丈夫です」


 そう言いながらも辛そうにうめき声をもらすレフィーナに、ヴォルフは躊躇ためらいながらもそっと頭に手を置いた。
 それから少しでも辛さが和らぐようにと、優しくレフィーナの亜麻色の髪を撫で始める。


「……ヴォルフ様は…どうして、廊下に居たんですか?」


 眠たいのか少しとろんとした声のレフィーナの問いに、ヴォルフは髪を撫でる手を止めずに答える。


「今日は休みだし、お前も休みだと聞いたから、一緒に出かけないかと聞きに来たんだ」

「…あぁ…そうだったんですね…。デートの…お誘いでしたか…」


 ヴォルフは眠そうなレフィーナの言葉に耳を傾けていたが、レフィーナの口から出たデート、という言葉に思わず、頭を撫でていた手を止めた。
 まさかレフィーナの口からそんな単語が出てくるとは思っていなかった為、少しの間思考が停止する。


「……ヴォルフ様…?」


 撫でるのを再開してほしそうに、レフィーナが催促さいそくするような声を出した。その声にヴォルフはまた、ゆるゆると撫でるのを再開する。

 今までレフィーナはヴォルフの事を友人のようにしか思っていなかった。だから、例えヴォルフがデートに誘っても、今までのレフィーナならば、ただのお出かけとしか思わなかっただろう。しかし、先程のレフィーナはデートの誘いだと思った。それは、レフィーナが少しでもヴォルフを異性と認識しているからで…。

 ヴォルフはレフィーナの中で、友達以外の感情が少し…ほんの少しでも出来たのではないかと、そんな風に考える。それならば、ヴォルフもまたレフィーナを異性として意識していることを知ってもらおうと、口を開く。


「…そうだ。デートに誘いに来たんだ」


 レフィーナの事をもっと知りたくて。
 レフィーナの側に居たくて。
 そんな想いを言葉に含ませる。


「……ん…」

「…寝てるのか…?」

「…まだ…寝て、な…」


 今すぐにでも眠ってしまいそうなレフィーナには、残念ながらヴォルフの想いは通じてなさそうだ。今は風邪を引いているし、仕方ないか、と少しはやる気持ちを落ち着ける。
 そんなヴォルフの気など知りもしないレフィーナが寝返りを打ってヴォルフの方を向く。そして、甘えるように頭を撫でていたヴォルフの手にすり寄った。
 そんなレフィーナの仕草に、ヴォルフの心臓が跳ねる。


「………っ。レフィーナ…」

「ヴォルフ様……手を…繋いで、くだ…さい…」


 
 戸惑うヴォルフに、レフィーナがまた可愛らしい事を言うものだから、ヴォルフの心臓は先程から高鳴ってばかりだ。戸惑いもあるが、好きな女性に甘えられるのは嬉しくて、ヴォルフは要望通りにレフィーナの手を握る。
 自分よりも小さな手は、ヴォルフの手にすっぽりとおさまった。
 そんな所も可愛いな、なんて思っていれば、レフィーナが嬉しそうに口元を緩めて笑う。それを見たヴォルフも愛しさに、口元をほころばせて優しい笑みを浮かべた。

 レフィーナを好きだという気持ちは日を追うごとに大きくなっている。今、この時も。
 気持ちが心を一杯に満たして、その想いが口からこぼれ落ちる。
 今まで言えなかった言葉に、今まで以上に感じる愛しいという想いを含ませて。


「レフィーナ…好きだ。俺は…お前の事が好きだ」


 他の誰でもなく、レフィーナの事が好き。妹思いで、優しくて…なにより、ヴォルフを過去から…母親の影から助け出してくれた人。…初めて好きになったひと
 レフィーナの側に居たいし、レフィーナに側に居て欲しい。

 囁くような声でした告白に、レフィーナは今にも閉じそうだった目を開けて、ヴォルフに視線を向ける。


「レフィーナ。俺は友人にはなりたくない。…恋人になりたいんだ」


 愛しさと甘さを含んだ声で言葉を投げかければ、レフィーナが緋色の瞳を揺らした。その瞳に浮かぶ迷いを感じ取ったヴォルフは、苦笑いを浮かべる。

 いきなり告白されても戸惑いの方が大きいのは仕方ないだろう。ヴォルフも、レフィーナが全く同じだけの気持ちを向けてくれているとは思っていない。それでも告白したのは、好きだという想いがあふれたから。そして、レフィーナにもっと自分を意識してほしかったからだ。

 甘えてきたレフィーナの心にほんの少しでも、同じ感情があって欲しい…。
 ヴォルフはそんな風に思いながら、迷いに緋色の瞳を揺らすレフィーナの頬をするりと撫でて、口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

処理中です...