悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「俺が嫌いか?」

「……いいえ…」

「こうして触られるのは、嫌か?」

「嫌じゃ、ないです…」


 一つずつ確認するように、ヴォルフはレフィーナに問いかける。
 嫌われてはいない。こうして触れられるのも嫌ではない。とりあえず、それらの言葉に安心する。

 それからヴォルフは緊張で早くなる胸を落ち着けるように、深呼吸をしてから言葉を紡いだ。


「……俺の恋人になってくれないか?」


 ドキドキという心臓の音がうるさいくらい、自分の中で響いている。
 レフィーナの様子を伺えば、緋色の瞳を今まで以上に揺らして…困ったように眉尻を下げた。

 そんなレフィーナに、ヴォルフは奥歯をぐっと噛みしめる。
 レフィーナの気持ちは、自分と同じではなかった。ほんの少しも…なかった。
 ぎゅぅっと強く胸が締め付けられる。それは、訓練で負った傷なんかよりもよっぽど痛くて、柄にもなく泣きそうになるような…そんな酷い痛みだった。
 だけど、ここで泣くなんてかっこ悪いことは、好きな女の前でしたくないし、レフィーナをもうこれ以上困らせたくなど無い。

 ぐっと痛みを堪えて、ヴォルフはなんとか微笑みを浮かべて声を出した。


「そう、か」


 思ったよりも沈んだ声が出た。レフィーナをこれ以上困らせないためにも、なんとか微笑みを浮かべてはいるが、ちゃんと微笑んでいらているかはわからない。
 これ以上は自分を保てない気がして、ヴォルフは話を終わらせる事にした。


「風邪を引いてるのに…変な事を言って悪かったな」

「ヴォ…」

「忘れてくれ」


 失恋、というものがこれほど辛いものだとは思わなかった。今まで抱いたことのない痛みは辛いが、それでもレフィーナを好きになったことを後悔はしなかった。
 何か言いたげなレフィーナの頭をポンポンと片手で撫で、それから握っていた手を放す。

 これ以上はレフィーナも気まずいだろうし、ヴォルフも平常心で看病を続けられない。そう思って、誰かに代わってもらうことを決める。カミラもレフィーナが目覚めるまでに、看病出来るように手を空けてくれると言っていたので、今なら代わって貰えるだろう。

 最後にレフィーナの額に乗せていた布だけ、もう一度冷やしなおして、再びレフィーナの額に乗せた。
 立ち去ろう、そう思いながらヴォルフが布をのせた手を引こうとした時、レフィーナが袖を掴んだ。


「レフィーナ?」

「私、は…怖くて…」

「怖い?」


 袖を掴んだまま、一生懸命言葉を紡いだレフィーナに、ヴォルフは真剣に耳を傾ける。そうすれば、レフィーナは迷う素振りを見せながら。やがてゆっくりと心の内を話し始めた。


「誰かを好きになったことがなくて…。雪乃の時も今も…。その、どうしていいか分からないし、恋をして自分が変わるのが怖くて…。ヴォルフ様は優しいし、雪乃の事を覚えていてくれるって言って貰えて嬉しかったです。さ、最近はドキドキすることも多いんですが…その、どうしても…最後が踏み出せなくて…」


 顔を真っ赤にさせながら話すレフィーナに、ヴォルフもつられるように顔を赤くした。
 レフィーナがヴォルフにドキドキとしてくれた。自分と同じように。それが凄く嬉しくて、胸の痛みなど何処へ消えてしまった。

 先程レフィーナがヴォルフの告白に対して、困ったような表情を浮かべたのは、ヴォルフが嫌いなわけでも、異性として意識していなかったわけでもなかった。ヴォルフが始めの頃、レフィーナを好きだという気持ちを受け入れられなかったように…恐れたように…レフィーナもまた、自分の気持に戸惑っている。

 ヴォルフは少しだけ迷いながらも、レフィーナがそうしてくれたように、自分が感じた気持ちを伝えることにした。


「…俺だって同じだ。最初は戸惑ったし、怖かった」

「ヴォルフ様も…?」

「……俺は…母親の事もあって、女を好きになることなんてないと思っていたんだ。母親には散々…みにくい部分を見せられてきたからな。…もちろん、女が皆そうだとは思っていないが…今まで誰にも恋愛感情なんていだかなかったし、お前の事も始めは嫌いだった」


 今まで誰に告白されようが、誰にも心は動かなかった。いつでも母親の醜い所を思い出して、それに絡め取られていた。
 令嬢だった頃のレフィーナはそんな母親の事を強く思い出させたから、嫌いだったのだ。


「でも、城に来てからのお前を知れば知るほど…俺の知っていた社交界の毒花からかけ離れていった。それに悩んでいれば、あっさり社交界のお前は偽りだったなんて言われるし…」

「ご、ごめんなさい…」

「もうその頃には、お前の事が気になっていたんだ。だけど、そんな感情に戸惑った。それに、お前にかれて好きになるのも怖かった」


 芽生えていく感情を見ないようにしていた。母親の事がこびりついていたせいで、女性を好きになることが怖かった。結局、乗り越えたと思い込もうとしていただけで、何一つ母親の事を過去の物になど出来ていなかったのだ。
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