悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「ヴォルフ様。大切なお話があります」


 真剣な表情でそう切り出したレフィーナに、ヴォルフは瞳を瞬かせた。


「なんだ、急に改まって」

「先程…ヴォルフ様のお父様にお会いしました」

「…は…?」


 レフィーナから告げられた事が予想もしていなかった事で、ヴォルフの頭は真っ白になる。

 父親がこの場にいるなど誰が予想出来るだろうか。一度この国をザックと共に訪れた時には、何の手がかりを得る事も出来なかったというのに。

 静かに動揺しているヴォルフをまっすぐに見つめ、レフィーナは話を続ける。


「名前はアングイス=ボースハイト伯爵です」

「ちょ、ちょっと待て。何で急に……。どうして、その伯爵が俺の父親だと?」

「…実はベルグからヴォルフ様のお父様がこのプリローダの貴族の中にいる事を聞いていて…。アングイス伯爵と話して確信を持ちました。それに、外見もヴォルフ様に似ていましたし」

「ベルグ…裏家業の奴か。その伯爵が俺に…似ていた…?」


 突然現れた父親を名乗る人物。そして、その事をベルグが知っていた事。色々な情報が一気に入ってきてヴォルフは混乱する。
 混乱を落ち着ける為にヴォルフは一度深く呼吸をした。冷静になった所で、まず気になった事を口にする。


「…その伯爵がどうして、俺じゃなくてレフィーナに声をかけたんだ。何て言われた」


 自分ではなくてレフィーナに声をかけた理由。レフィーナの様子からしても良いことは言われなかったに違いない。


「それは……その、ヴォルフ様は自分の元に来るから…私はヴォルフ様の恋人に相応しくない、と。貴族でなくなった私では相応しくない…」

「…はっ。その伯爵の中では俺が貴族になると思っているんだな。会ったこともないのに」


 会った事も…見た事さえない父親の勝手な行動に、ヴォルフの中で怒りが湧いてくる。
 今さら、父親づらしてヴォルフからレフィーナを引き剥がす権利など、その男にはない。

 何とか怒りを抑え込むヴォルフの顔は無表情だ。


「ヴォルフ様は…お父様の所へ行きたいとは思わないのですか?たった一人の…血の繋がった家族と一緒に居たいとは…」

「血の繋がった家族だろうが、父親だろうが…今さらどうとも思わない。それに、俺ではなくまずレフィーナに会って、身を引かせようとした事を考えると…ろくでもない性格だろうな」

「ヴォルフ様…でも…」


 レフィーナはヴォルフに肉親が一人もいない事を知っている。急に現れたとはいえ、自分の父親を見つけたのだから、一緒に居たいのではないか、と思っているのだろう。

 だが、ヴォルフは急に現れた父親など、はっきり言ってどうでもいい。血の繋がった父親よりも、ずっとヴォルフの近くにいてくれたザックの方が自分にとっては父親だ。

 それに、家族とは過去だけではない。…未来にだって、ある。
 

「レフィーナ、血の繋がりだけが大切じゃないだろう。俺は貴族になんてならないし、別にその伯爵を父親とも家族とも思わない。それに家族なら…これからだって出来るだろ」

「え?」


 ヴォルフはレフィーナの手を握る。レフィーナと家族になりたい、そういう思いを込めて告げた言葉に、レフィーナは呆然としていたが、やがて言葉の意味を理解したらしく、顔を一瞬で赤く染めた。
 そんなレフィーナを真っ直ぐに見つめ、ヴォルフは安心させるように、身を引く必要などないとレフィーナに告げる。


「だから、その伯爵の事は気にしなくていい。俺は何があってもお前を選ぶから、信じろ」

「…はい」


 ヴォルフの思いが伝わったのか、レフィーナは安心したように頷き、口元を緩ませる。


「…俺の気持ちを信じて話してくれてありがとう、レフィーナ」

「え?」


 急な礼にレフィーナが首を傾げる。そんなレフィーナにヴォルフは優しい笑みを浮かべた。
 


「黙って身を引きそうなお前が、こうして俺に話してくれたのは…俺の気持ちを信じてくれたんだろう?俺が貴族になる事よりも、お前の側にいる事を選ぶって」

「…それだけでは無いです。私がヴォルフ様に直接言われるまでは、身を引きたくなかったんです。私はヴォルフ様の事が好きですから」


 少し恥ずかしそうにレフィーナがふわりと笑みを浮かべた。レフィーナの言葉に、柔らかな笑みに、ヴォルフの体が一瞬で熱くなる。
 嬉しさでニヤける口元を片手で覆い隠して、ヴォルフは勢いよく顔をレフィーナから逸らした。


「…っ!」

「ヴォルフ様?」

「……あんまり、可愛いことを言うな」

「え?」

「…場所なんて考えずに抱き締めたくなるだろ…」


 耐えるようにヴォルフは呟く。
 抱きしめて、キスをしたい。そんな気持ちを抑え込む。ここは公共の場で、そんな事をする訳にはいかないのだから。
 そんな風にヴォルフが色々と堪えていれば、不意に声をかけられる。


「こんな場所でいちゃつかないで欲しいね。ヴォルフ、レフィーナ」

「レ、レオン殿下!」


 レオンの声にレフィーナががたりと椅子から立ち上がる。
 ヴォルフが声をした方に振り向けば、呆れた表情のレオンと満面の笑顔を浮かべたドロシーがそこに立っていた。
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