悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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 穏やかな表情のレフィーナは話を続ける。


「神様はきっと…私がこの世界で一人ではないって教えてくれていた。まぁ、全然そんなの気づいていなかったのだけど」

「…両親には会いたいか?それに…確か兄も居たな」

「…公爵家を追い出された時は何とも思っていなかったけど…今はちゃんと家族って思える。だから、そうね…会えるなら会いたい、かな。もちろん、兄にもね」

「そうか。いつか、ちゃんと会えるといいな」

「…えぇ。ちゃんと謝って…家には戻れないだろうけど…許してもらえたら嬉しいわ」


 そう言ってレフィーナは少し困ったような笑みを浮かべた。
 今のレフィーナは貴族としての身分を失っている。実の娘とはいえ、公爵家に帰ることは許されていない。公爵家から呼び出し等があれば会えるだろうが、今まで何の連絡も無いという事はアイフェルリア公爵も相当な覚悟でレフィーナを公爵家から追い出したのだろう。

 それでも、こんな風にレフィーナとして家族を想えるなった彼女に、一度は会ってもらいたいとヴォルフは思う。


「えっと、私の話はこれくらいかな。何か聞きたい事とかある?」


 何処と無くしんみりとした空気に、レフィーナが明るく話を変える。ヴォルフはレフィーナの言葉に、少し考えてから質問を口にした。


「そうだな…この世界とあちらの世界で共通するものとかあるのか?」

「ヴィーシニアの味噌とか醤油!」


 ヴォルフが質問を口にすれば、レフィーナが緋色の瞳を輝かせながら即答する。
 真っ先に食べ物を答えた事が面白くて、ヴォルフは口を片手で押さえて笑う。


「くっ…。即答で食い物関係な所が…」

「わ、笑わないでよ…。あれは本当に嬉しかった共通点なんだから」


 笑うヴォルフに、レフィーナが少しむっとしたような表情を浮かべた。
 不満げなレフィーナに、ヴォルフは笑みを消して声をかける。


「笑って悪かったな」


 そう謝ってから、ヴォルフはヴィーシニアを思い浮かべる。確かにヴィーシニアには自国やプリローダにも無いような物が多いと聞く。


「…もしかしたら、ヴィーシニアにはもっと共通の物とかがあるかもしれないな」

「そうかも…。神様の趣味らしいけど…ヴィーシニアを中心にあちらの世界の物を取り入れたのかもしれないわね。私達の国では見かけないし、プリローダでも見ないし…」

「なるほどな…」


 レフィーナの言葉に、ヴォルフは少し考え込む。雪乃の世界にあった物がある国。ヴォルフ達の国にも多少はヴィーシニアの物が流通しているが、やはり実際に行った方が色んな物が見られるだろう。
 レフィーナが喜ぶのなら、ヴォルフも連れて行ってやりたいと思う。そして、出来ることなら……。

 深く考え込み過ぎたのか、レフィーナが不思議そうにヴォルフの名を呼ぶ。


「ヴォルフ?」

「…いつか、一緒に行くか。ヴィーシニアに二人で」

「え?」

「そうだな…例えば、新婚旅行、とかどうだ?」


 突然の言葉に驚いたのか、レフィーナが無意味に口を開いたり閉じたりする。それから少し戸惑い気味な視線をヴォルフに向けた。その戸惑いの視線に、少々早急過ぎたかと思えばヴォルフは段々と照れくさくなってきてしまう。
 これじゃあ、ヴォルフばかりが未来を考えているようで、空回りしているような気がする。
 気が急いてしまうのは、姿も見たことがない父親が引き離そうとしていると、知ったせいでもあるだろう。

 一度気持ちを落ち着けようとした所で、飲み物屋の屋台が目についた。


「あの、ヴォルフ…?」

「あぁ、ちょっと待ってろ」

「え?」


 少し離れて落ち着こうと、ヴォルフはレフィーナの手をさっと離して人混みに紛れた。
 今日はいい天気なので、レフィーナも喉が渇いているだろう。しかも、城門を出る時に息を荒げていたし。そんな事も考えながら、ヴォルフは屋台で飲み物を二つ購入する。

 それを持ってレフィーナの所に戻ろうとした所で、ヴォルフはピタリと足を止めた。しかし、それも一瞬の事で、すぐに足を動かす。


「……つけられているな…」


 ボソリと、誰にも聞こえない声量で呟く。不快な視線が背に纏わり付くようについてくる。
 こんな事をされる心当たりは一つだ。おそらく、昨日レフィーナに接触してきた父親を名乗る男の手先だろう。ヴォルフとレフィーナの仲を引き剥がしたがっていたのだから、何か付け入る隙がないか探っているのかもしれない。


「ほらほら、行こう」


 レフィーナの所に戻れば、これまた不快な場面が視界に飛び込んできた。
 二人組の男がレフィーナに絡んでいる。しかも、男の一人がレフィーナの手を掴み、体を引き寄せた。

 それを見たヴォルフはすっと金色の瞳を細め、足早に近づく。少々……いや、かなり殺気が出ていても仕方ないだろう。なんせ、ヴォルフの一番大切なものに気安く触れたのだから。
 不快な視線のせいで気分を害していたヴォルフは、さらに不快な場面を見せられて、そんな物騒な事を考えながら声をかけた。
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